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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 嵐の前
191/398

page.190

       ***



 先程訪れた女性騎士。こんな萎びた場所にいる自分の耳にも届いている。

 話題の張本人が闘技大会に出場するなど、城中の誰もが考えていないだろう。

 本来、国王の騎士や兵士が大会の参加を受け付けていれば、彼女の出場は突っぱねたに違いない。

 しかし、自分は違う。

 紋章官は先程紙に書いた女性騎士の名を、しゃがれた指でそっとなぞった。

 仕事柄、貴族家系には詳しい。彼女が何者で、どのような経緯で生まれ、育っているか、よく知っている。

 だから、これは私情だと言われればそうなのかもしれないが、この王国で自分にそれを指摘できる人間はいないだろう。

 私情だと、ばれるはずが無いのだから。


「すみません」


 やけに若い男の声に顔を上げると、少年と言ってもいいような人物が立っていた。

 後ろに門の衛兵が控えているということは、おそらく彼もまた。


「闘技大会に参加したいのですが」

「はい、わかりました」


 紋章官は感傷を一度脇に置き、参加者のリストを広げ、先に口頭で注意事項を伝えることにした。


「此度の闘技大会は……陛下が民のために開いてくださった大会です。また騎士を目指す者への機会でもあります。故に守っていただくべき注意事項がいくつか」

「はい」

「まず、キャメロットの名に恥じぬ闘いを行うと誓えますか?」

「はい、勿論です」

「では、これを」


 紋章官は黄緑の布きれを少年に渡した。丁寧な手つきで少年はそれを受け取り、不思議そうに眺めている。


「左腕につけるように。参加者の証です」

「わかりました」

「それから、闘技大会は一対一、トーナメント形式です。組み合わせは当日発表です」

「はい」

「それから、鎧、武器共に自由。武具が用意できない場合は、王宮の武器庫の物を借りることもできます」

「あ、じゃあ、貸していただきたいです」

「それは後でそちらの衛兵に言ってくれれば大丈夫。さて、では最後に確認します」

「はい」

「命を落とす可能性もある大会ですが、宜しいですかな?」

「はい」


 少年の答えは晴れ晴れとしていた。

 といっても予想していた反応だったので別に驚きはしない。

 紋章官は羽ペンにインクを浸した。


「では、お名前を」

「ランスロット、湖のランスロットです」




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