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「私が今回の闘技大会に……ですか?」
「そうだ」
佐和に呼ばれてアーサーの私室にやって来たイウェインにアーサーはウーサーを黙らせるアイデアを説明した。
つまり、イウェインをただの貴族女性だと思っているからウーサーは反対であって、さらに影で自分よりアーサーが優れていると言われるのが嫌なのだ。
ならば、闘技大会に参加し、ウーサーにイウェインの剣の素晴らしさを目の当たりにさせ、なおかつイウェインに優勝してもらい、最早ウーサーが拗ねても辞めさせられないほどイウェインを有名にしてしまおうという目論見だ。
「勿論、無理強いはしない。それに今回の闘技大会はおそらく普段とは異なり、かなりの危険を伴う。あの魔女モルガンとゴルロイスの一味が、何らかの妨害を加えてくる可能性があるからな」
「あの者達が……」
「しかし、騎士になったタイミングで運良く大会が開かれるなど希有な事でもある。これをどう利用するかはイウェイン、おまえに任せる」
アーサーは決してイウェインに無理矢理命令を下したりはしていない。それでも、イウェインは嬉しそうにしっかりと頷いた。
「殿下の為に、お力になれるのであれば勿論です」
「よし!大会には既に父上の騎士も何人か参加する事になっている……全員蹴散らして、おまえがどれだけ騎士にふさわしい技量の持ち主か天下に知らしめて来い!」
「はい。必ずや!」
「ふふふ……これで、ふざけた事を言っている奴ら全員、黙らせる事ができるな……!!」
どうやらアーサーのストレスも限界だったらしい。
低い笑い声を漏らしている様子はもはや王子にふさわしい顔はしていない。
それを見たサワは呆れ、イウェインは苦笑し、マーリンは真顔のままで、ケイだけが楽しそうに笑っていた。
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「でだ、問題はどのようにしてイウェインを闘技大会に出場させるかだ」
「何か出場できない問題でもあるのか?」
腕を組み、椅子にふんぞり返ったアーサーを取り囲むようにして輪になる。聞いたマーリンだけでなく、イウェインもアーサーの呟きの意味がわからなかったようで首を傾げている。
「女性騎士が大会に出場したなんて前例が無いからな。受け入れてもらえるかどうか」
「言い出したくせにそこは考えてなかったのか」
「何だと?」
「まぁ、まぁ」
ケンカ体勢になったマーリンとアーサーをケイが宥める。イウェインはアーサーを悩ませているのが自分だというのが居たたまれないようで所在無さげだ。
「おい、ケイ」
「ん?」
「それから、サワ」
「え?」
「お前ら何かいい案はないのか?」
「ケイはわかりますけど、なんで私ですか?」
「賢しい案を出すのはお前らの十八番だろうが」
「え?ケイと一緒にしないでくださいよ!」
「あれ?サワー、つっこむの、そこ?」
そう言いつつもケイは相変わらず余裕で笑っている。ということは何か秘策があるようだ。
「で、ケイ。お前、既に案があるのだろう?何だ?」
アーサーの質問にケイはイウェインの顔をちらっと見た。
「とりあえず、行ってみればいいんじゃないかー?」
「は!?貴様、殿下が意見を聞いてくださっているというのに、その態度は何だ!?」
「騎士になっても、ぷりぷりは相変わらずぷりぷりしてるなー」
「そのあだ名はやめろと何度言えばわかる!!」
「イウェイン、落ち着いて。ケイ、何か考えがあるんでしょ?」
佐和に宥められ、仕方なく落ち着いたイウェインだが、じっとケイを睨みつけている。その視線を気にすることなくケイはへらへらと笑った。
「ま、行ってみりゃわかるって」
ケイ以外のメンバーにはケイの意図が読めない。
ただ互いに顔を見合わせている佐和達を、ケイは心底楽しそうに眺めていた。