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闘技大会の知らせがアルビオン王国全土に渡ってから数日が経ち、順調に各地から腕試しを希望する猛者や、一攫千金を狙う傭兵などが着々と王都に着いているらしい。
その話をサワ達にしながらも、相変わらずアーサーの機嫌は悪かった。
「荒れてるな。相変わらずなのか、陛下」
「相変わらずも何も最早、耳にたこだ!」
闘技大会の計画自体は今のところ問題なく進んでいる。けれど、それとは別に行っているゴルロイス及びモルガンの一味の捜索は全く進展が無い。
そうなるとウーサーの八つ当たりを受けるのは最終的な報告をあげるアーサーであり、生じてアーサーの機嫌も日に日に悪くなっている。
「そもそも、捜索の手が緩い。まず、第一になぜ北西部の大戦でモルガンにトドメをさせなかった。カメリアドの異変になぜその段階で気が付かなかったと言われた時は、さすがに頭に血が昇りかけたな」
そりゃそうだ……。
そもそも事の発端はウーサーがアーサーに内密で謁見を行い、カメリアドの住人の進言を無視した事で事件の発覚が遅れたのだから、その言い分は責任転嫁にもほどがある。
「陛下に一人で謁見したことはちゃんと文句言ったのか?」
「……今言えば確実に火に油だろうが」
確かに。
これには佐和も苦笑するしかない。
「よく怒鳴らなかったな」
「……怒鳴っても仕方ないだろうが」
そういう妙に大人なところが、逆にアーサーを苦しめているんだろう。
「今更ロデグランス卿の判決は覆らん……」
「……刑の執行日、決まったんですか?」
「いいや、当分先だ。いろいろと事情聴取もある上に、時期も考え抜かなければならないからな……その間になんとしてもモルガン達を捕まえられれば良いのだが……」
続けた言葉はほとんど独り言に近い。
それでも小声のその願いが聞こえてしまうと、アーサーの心中を察せずにはいられない。
同じように横でそれを聞いていたであろうマーリンの気持ちも。
「それから、あれだな!父上は未だに隙を見ては俺にイウェインの事を言ってくる!それも腹立たしいな!」
どうやら相当ウーサーはイウェイン、というより女性騎士に反対らしい。
「何でそこまで」と聞こうとした瞬間、扉が軽くノックされた。
「入れ」
「よ、アーサー。調子はどうだ?」
ひょっこり部屋に現れたのはケイだ。相変わらずジャケットを着崩している。
部屋に入ったケイは扉を閉め、勝手知ったる様子で堂々と中まで進んでくる。
「どうも何もあるまい。最悪だ」
「はは、だろうなー」
「……ねぇ、ケイ。どうして陛下ってそこまでイウェインが騎士なのが嫌なのかな?」
モルガンとゴルロイスの事もそうだが、ウーサーは自分の怒りの壷に入ったものは全く許せない質だ。イウェインの何がそんなに気にくわないのか佐和には疑問だった。
「んー。ま、色々。理由は多すぎてなー」
「俺にも聞かせろ。父上の今回の反対は強情すぎる」
アーサーの後押しでケイは諦めて説明してくれた。
「まず、ウーサー王に女性騎士はいない。それなのにアーサーがあんな立派な女性騎士を連れて来たもんだし、先の大戦でのイウェインの活躍は王宮でもそれとなく広がってる。中にはイウェインを騎士にしたアーサーは本当に先見の明がある人間だって褒め讃えてる意見もあって、それを聞いて陛下は心底機嫌が悪い」
「器ちっちゃ!!」
「後はまぁ、単純に宴の席のイウェインを見て『こんな貴婦人に剣を持たすなんてアーサーは男として恥だ!』と思ってる」
「……嫌というほど言われているから、そこは省け」
「後はアストラト家の謀反人の事もあるしって感じなんだろうなー」
「父上だってイウェインの剣技を見れば、どれほどあいつが優れた騎士かわかるだろうに……!!くそ……父上の鼻を明かす方法があれば!」
「やっぱり毛根をイウェインに始末してもらう?」
「マーリン!ダメ!それ絶対!違う意味で最早テロだから!」
「てろ?」
マーリンの真剣かつふざけた内容の進言をせき止めた佐和は、お茶を入れようと三人の輪から離れた。
マーリンは佐和の発した「テロ」の意味を理解しようと「てろ?てろ?」と繰り返している。
「イウェインの剣を見てもらう機会でもあればいいのにー」
お茶を入れながら一人でつぶやいていた佐和は、背後が急に静まり返ったのが不思議で一度振り返った。
真顔の三人が佐和の顔を注視している。
「え!な、何ですか?私、変なこと言いました!?」
「……それだ」
「え?」
「サワ、今すぐイウェインを呼んで来い」
アーサーは執務室の机に座り、腕を組むと不敵に笑った。
「いいアイデアを思いついたぞ……!」