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「ここがキャメロット……!」
少年は瞳を希望で輝かせ、眼前にそびえるキャメロットの都を見上げた。
「これほど多くの人が集まり、行き交っている光景は初めて見る……!!」
「おい、ぼーっと突っ立てんじゃねえ!そこ、どけ!」
少年が立ち止まっていたのはキャメロットの門前の道のど真ん中だ。後ろから迫ってきた馬車を操っていた商人が怒鳴り散らす。
その怒声でようやく少年が振り返った。
「失礼いたしました。今すぐ退きますので、どうかご容赦を御仁」
「……お……おう。わかりゃあ、いいんだ……」
少年らしい声で全く似合わない言葉遣いを発した事に面を食らった商人は、少年が退くのを待ってから馬車を進めた。馬車を見送った少年が興奮する。
「あれが書物で聞き及んでいた馬車なる物……!素晴らしいっ」
見るもの聞くもの全てが少年にとって真新しい。
何もかもが新鮮で驚きに満ちている。
その時、ちょうど横を通りかかった老婆が重たい荷物を運んでいる事に気付き、少年は後ろからそっと荷物を持ち上げた。
「きゃ!何だね!あんた!盗む気かい!?」
「滅相もございません。マダム。宜しければ、こちらの荷物を運ばせてください。お体に差し支えます」
少年とは思えないその微笑に老婆だけでなく、周りにいた女性も子どもも少年の笑顔に見惚れた。
およそ年齢は17歳から19歳、顔つきは少年らしい純真さを残しているが、態度や言葉遣い、何よりその笑顔が非常に大人びている。そのミステリアスな雰囲気に老婆はすっかり骨抜きとなった。
「じゃ、じゃあ、運んでもらおうかね……」
「はい、喜んで」
少年は老婆の持っていた大きな荷物を片手で背中に担ぎあげた。見た目にそぐわず力がある。
「意外と力持ちなんだねぇ」
「ありがとうございます」
その時、少年の反対の手に丸めた書類が収められていることに気づいた老婆がその手を指さした。
「それは何だい?」
「あぁ、これですか?今回開かれる闘技大会の開催の知らせです」
少年が老婆に広げて見せたのはここ最近、市民の間でも話題持ちきりの闘技大会の知らせだ。このお触れはアルビオン王国の各領地全土に配られている。少年が手にしていても不思議なものではないが。
「見物かい?男の子はこういった催し物が大好きだものねぇ」
「いいえ、―――僕は出場するために、キャメロットに来たんですよ」
少年はとても戦士には見えない。
しかし、自信満々の様子で老婆ににっこりと笑いかけた。