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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 不意打ちの
182/398

page.181

       ***



「……今、何と?」

「闘技大会の開催を、ご提案いたしました」


 アーサーも耳を疑っている。

 無理もない。エクターの提案は前後の脈絡が全く無い。

 何でウーサーが不機嫌でまずいって話が、闘技大会を開く話に繋がるんだろう……?


「確かに父上は無類の闘技大会好きだが……それで慰められるものでもないだろう?」

「勿論、今殿下がおっしゃった事を建前にするつもりです」


 た、建前って……。

 どうやらただ真面目そうな騎士というわけではないらしい。

 さっきから彼はかなり明け透けな物の言い方をしている。

 けれど、話の内容自体に驚いているアーサーもエクターの話しぶりには全く驚いていない。ということは、彼は元々こういった性格なのだろう。


「建前という事は別の狙いがあるようだな」


 アーサーは本格的にエクターの提案を吟味する姿勢を取った。その顔を見た途端、待っていたとばかりにエクターが滔々と語り出す。


「はい。まずは現在、イウェイン卿就任により回復の兆しがあるキャメロットの王宮や王都全体を支配する沈滞した空気の排除。そのためには(おのれ)が力に自信を持つ機会や、賑やかな催し物が適切です」

「他には」

「次にグィネヴィア姫への歓迎です。本来なら大手を振ってお迎えすべき貴婦人ですが、現状、不可能でしょう。それならば、闘技大会に関してもグィネヴィア姫歓迎を銘打ち、姫君への配慮を殿下が怠っていない事を知らしめておく必要があると考えました」

「……それは、俺も考えていたところだ。父上から面会を控えるよう言われている以上、堂々と姫君に会うことはできない。中にはこの状態を俺と姫君の不和と捉え、良からぬ事を企む人間が出て来る恐れがあることは俺も危惧していた」


 はぁー。そんなことがあるんだー。

 素直に感心してしまう。相手の悪意を見抜けるアーサーやエクター卿もすごいと思うが、どちらかというとアーサーに害を成そうとしている人たちの方を違う意味で尊敬しそうだ。

 よくそこまで次から次へと人を貶める方法を思いつくなぁ……。


「そして第三に、最も重要な事が」

「……何だ」

「闘技大会にて陛下の憂いを払う機会が生まれるやも、と」


 今までの明快な説明と違って、エクターは何かを示唆するような言い方でアーサーの様子を見ている。一方見つめられたアーサーは懸命に頭を働かせ、その意図を読もうとしている。


「……つまり、ゴルロイスの一味を(おび)き出す。ということか?」


 え……?

 確かにどこに潜んでいるかもわからないモルガン達を探すより来てもらったほうが楽に決まっている。

 しかし。


「しかし、奴らがそう簡単に食いつくとは思えん……よほど魅力的な餌でも無い限りな」


 そこから先、エクター卿は何も言わない。

 どうやらアーサーの判断を待っているようだ。


「現時点でわかっているのは、奴らの目的が父上、及び俺の殺害、アルビオンの破滅であること。そして敵には魔術師がいること……その上で奴らを誘き寄せるとなれば……」


 そこまで小さく口の中で推理を組み立てていたアーサーがエクターを見返した。

 したり顔で養父を見ている。


「……なるほどな」

「何がなるほどなんだ?」

「ちょっ、マーリン!」


 口を挟んだマーリンのローブを佐和は引っ張った。

 ウーサーの左腕と呼ばれるボードウィン卿は従者が会話に加わっても全く気にしない希有な人物だったが、エクター卿も侍従に心が広いとは限らない。

 しかし、佐和の不安をよそにエクター卿は平然としている。


「まぁ、おまえ達にも説明してやる。いいか、闘技大会とはそもそも何か知っているか?」

「あの、王都で開かれてるお祭り騒ぎの喧嘩だろ?」

「マーリン、神聖な戦士の決闘とそこらへんの喧嘩を一緒にするな。で、だ。一体一で剣技を競い合う闘技大会では身分関係なく参加を受け付ける事もある」

「……め、珍しいですね。そういうのって騎士しか出場しちゃいけないのかと思ってました」


 おそるおそる会話に口をつっこんだ佐和の疑問には、まさかのエクター卿が答えてくれた。


「その認識で概ね合っている。しかし、特別な場合、身分制度を払った大会を開く事もあるのだ」

「特別な場合……ですか?」

「新たに騎士となる素質を持った者を探す名目、または単純に国を活気づけるための遊技的意味合いの強い大会の場合などが代表的な例だな」

「今回はどちらも掲げて開きましょう。北西部の戦いで決して少なくはない味方を我々は失っています。騎士及び兵士の補給のためと聞けば、陛下も断らないはずです。それにここ最近、民衆に対しても娯楽のようなものが全くありませんでしたから、それにも良いかと」

「つまりだ、その名目を掲げた大会を開催すれば誰でも参加できる。……例えば、正体を隠した謎の男でもな」


 そこまで聞けば佐和にもわかる。


「つまりゴルロイスを誘い出すのか」

「本人でなくてもこの際構いません。しかし、どこから糸は繋がるかわからないものです」

「だが、褒賞の額をあげても奴らが食いつくとは思えん。奴らがリスクを犯して敵である俺たちの本拠地に乗り込みたくなるほどのリターンが弱い」


 そう言いながらもアーサーはまだ何か考えている。

 それを見ているエクターの目が初めて見た時と同じ、父性を宿し暖かくアーサーを見守っていることに佐和は気付いた。


「……そうか、なるほど。そういうことか」

「何がだ?」


 すっきりとした顔つきのアーサーをマーリンが不思議そうに見ている。アーサーはにやけた顔つきで明言した。


「闘技大会の開催願いはエクター卿、貴殿から陛下に進言してくれ。俺から進言すれば、何か意図があるかと疑われる可能性もあるからな」

「承知いたしました」

「参加者の資格は特に設けない。キャメロットの名に恥じぬ闘いを行えると誓える者であれば身分、出自問わず受け入れよう」

「そのように」

「そして―――優勝者には栄誉と金貨100枚、そして、エキシビジョンとして前回闘技大会優勝者への挑戦権を与えよう」

「もしかして……その前回の大会の優勝者って……」


 佐和の予想は当たりのようだ。アーサーは佐和にもいたずらっこの笑みを向けた。


「無論―――俺だ」


 つまり、アーサー自信が囮になるというわけだ。



       ***



 結局、エクター卿の思いがけない提案にアーサーは大層乗り気になったようで、「細かい打ち合わせをするから、お前らは宴の支度まで遊んでいろ」と佐和達は部屋を追い出された。

 唐突にそんな暇を言い渡されてもなぁー。

 こういう時、素直に喜べないあたり貧乏性だと思うけれど、元来の性格なのだから仕方ない。

 同じように廊下に放り出されたマーリンに佐和は声をかけた。


「宴の支度する時間まで結構あるよね。マーリン、どうするつもり?」

「俺は、バンシーの部屋へ行こうかと」


 確かに空いた時間、彼はそこで魔術の勉強をしている事が多いし、アーサーの囮作戦がうまくいけば、また魔術師が卑怯な手を使ってくる可能性もある。

 マーリンもそれを危惧して魔法の勉強に時間を当てようとしているのだろう。

 私……に、手伝えることって、きっと無いよなぁ。そうなると……。


「でも、サワが何か俺に用があるなら」

「ううん。私は部屋で休憩でもしてる。頑張ってね」


 短く告げて佐和はさっさとマーリンと別れた。

 魔術の勉強を自分が手伝うことなんてできない。なら、佐和にできることは一つ。


 マーリンの邪魔をしないことだ。


 こう言っとけば、マーリンだって安心するだろうし。実際、特にやることも思いつかないし……。

 少しでも佐和が一人で何をしようか悩む素ぶりでも見せようものなら、きっとマーリンは佐和を気遣う。

 でも、佐和からすれば佐和を大切にすることよりも、マーリンの使命の方が優先だ。

 嬉しくない……わけじゃないけど……。

 それでもこの優先順位は佐和の中では絶対に覆らせない。

 そう、決めている。


 廊下をぶらぶらと歩き出した佐和の脳裏にふと、ひとつのアイデアが浮かんだ。

 ……今日はイウェインの騎士就任のお祝いの日だ。

 ……何かプレゼントしたいな……。

 佐和は廊下の角で所持金を確認した。今までアーサーの元で働き続け、使う機会も滅多に無い給金は予想以上に貯まっている。

 これだけあれば、何か小さな物ぐらい買えるだろうし、アーサーの支度の時間までに城下町まで行って戻って来るのも余裕だろう。

 そうだ……そうしよう……!

 我ながらナイスなアイデアに、佐和の足取りも軽くなる。

 スキップするような軽い足取りで城下町を目指した。




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