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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第八章 不意打ちの
181/398

page.180

       ***



 イウェインの騎士就任式はつつがなく終了した。

 珍しい女性騎士というだけでなく、イウェインの振る舞いや美貌に参加した騎士は皆高揚し、厳かでありつつも、明るい雰囲気で式は締めくくられた。


「上々だな」


 私室に戻って来たアーサーの機嫌も良い。佐和とマーリンでアーサーの礼服を脱がせ、私服を準備する。


「あれ、何だったんだ?」

「あれとは何だ?」


 マーリンの質問にもアーサーは上機嫌のままだ。


「あの騎士の七戒(ななかい)っていう」

「あぁ、俺の騎士になる者には皆、誓ってもらうものだ。騎士として守るべき誓いと言えばわかりやすいか?」

「へー、あれって、陛下の騎士も同じ事を誓うんですか?」

「いいや、あれは俺の騎士のみだ」

「そうなのか」

「まぁ、指標のようなものだな」


 着替え終わったアーサーが一息ついたタイミングで佐和はアーサーに水を差し出した。アーサーはすぐにそれを飲み干している。

 あれだけすごいスピーチすれば、喉が乾くのも当たり前だよね。


「しばらく休憩をしたら、夜からはイウェインの騎士就任の宴だ。実質的にはグィネヴィア姫の歓迎の意も含まれている。服の準備も怠るなよ」

「え……」


 グィネヴィア姫の……。

 付け足された名前が佐和の不安を煽る。

 つい先日、マーリンとの関係に変化を与えてしまったきっかけになった人物。

 正直気は乗らない。


「どうして実質的には、なんだ?アーサーの許嫁ならもっと派手な歓迎会が開かれるかと思ってた」

「……普通ならそうするべきだろうが……今、姫はあまり目立たないほうが良い立場にあるからな……」

「どういうことですか?」


 マーリンの言う通り、将来のお后様なのだから派手に紹介するのが普通だ。

 しかし、まさか一介の騎士の就任式を隠れ蓑にして歓迎をするなんて、この国の価値観に照らし合わせると異常な事態だ。


「……ロデグランス卿の刑の執行日はまだ決まっていない。しかし、父親が反逆者だというレッテルを貼られた今、俺の婚約者として紹介するのは醜聞が立つと父上はお考えなのだろう。しばらくは俺も姫とは会わぬように釘を刺されている」


 どうやらアーサーが不機嫌だったのはイウェインの事だけでなく、グィネヴィアの事までウーサーに言われたからだったようだ。

 これは……良いこと……なのかな。

 アーサーとグィネヴィアを一緒にしてはいけない。それは佐和もマーリンも同意見だ。

 そう考えればアーサーとグィネヴィアがしばらく会えないというのは、佐和達にとっては都合の良い展開のような気もする。

 でも……なんか、不安なんだよなぁ……。


「というわけで、俺と姫が会える機会もそうそう無い。しっかりと身支度を整えなければな」


 意気揚々と意気込んでいるが、アーサーの身支度を整えるのは佐和達だ。


「……わざと変な服、着させるか」

「おい、マーリン!一体何の意趣返しだ!!しかもその至極真面目な顔つきで言うな!!」


 アーサー、マーリンは真面目に言ってるんですよ……。

 たぶん、グィネヴィアに嫌われる方法としてマーリンは本気で提案したつもりだろうが、少々ぶっ飛んでいる。

 どうして、こう……マーリンって時々、意見が明後日の方向に加速しちゃうのかなー。

 佐和としては笑ってしまう。

 その時、賑やかな部屋にノックの音が控えめに響いた。その音にアーサーもマーリンも驚いている。来客の予定など無かったはずだ。


「サワ、開けろ」

「あ、はい」


 アーサーの命令でドアに一番近かった佐和が扉に向かった。


「どちら様でしょうか?」

「お忙しい中失礼いたします。殿下、エクターです」

「……入れ」

「失礼いたします」


 宣言通り、部屋に入って来たのはエクター卿だった。

 普段となんら変わりない落ち着いた様子からして急用ではないようだが、彼がアーサーの私室に来るのは佐和が知る限り初めてだ。


「どうかしたのか?エクター卿」


 アーサーも突然の養父の訪問に驚きを隠せずにいる。先ほどまでマーリンと言い合っていた表情からすでに王子としての意識に切り替えている。


「少々、殿下にご提案がございまして」

「提案?」


 アーサーの目配せで佐和は廊下に誰もいない事を確認してから扉を閉めた。邪魔をしないように脇に下がる。


「はい。殿下、正直に。今の陛下の状態をどう考えていらっしゃいますか?」


 単刀直入すぎる質問に、アーサーだけでなく佐和もマーリンも驚いた。

 まさかウーサーの騎士である彼からこんな質問が飛び出して来るとは思わなかった。


「……良い状態とは言い難いな。父上はカメリアドの一件以来、何かに怯えるように過激な方向に傾いている……それが魔術師のみならまだしも……」

「関係の無い政務にも影響を与えていますね」


 今度は佐和が一人でぎょっとした。

 相手はアーサーだから良かったけれど、他の人が聞いていたら確実に不敬罪であの世行きだ。

 けれど、エクター卿はしれっとした態度のままだ。


「……陛下の過去の行いを知っているものからすれば、あれほどゴルロイスを名乗る男に執着するのも無理からぬ事とも知っています。しかし、このままでは確実に問題が生じるでしょう」

「それは……わかっているが……」


 アーサーも唐突なエクターの意見にどう反応すべきか困っている。


「そこで、殿下。一つ、私からご提案があります」

「……?言ってみろ」


 不審に思いながらもアーサーはエクターに話の続きを促した。それを確認したエクターからの提案は意外なものだった。


「闘技大会の開催をご提案いたします」




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