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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第七章 傍観者の瞳は揺らぐ
175/398

page.174

       ***



 遠く、湖の畔にようやく探していた人物の姿を見つけて駆け寄ろうとしたマーリンの足が止まった。

 そこにいたのは佐和だけではない。アーサーが、座りこんで泣いている佐和の頭を何度も何度も優しく撫でている。

 その光景を見たマーリンは踵を返した。


「声、かけなくて良いのかー?」

「ケイ」


 裏口のポーチにケイがもたれ掛かっていた。片手を軽くあげている。その横にマーリンも並んだ。


「今、俺が行ったら……きっと、サワは余計に困る。だから……」

「マーリンは優しいなー」

「俺は優しくなんてない」


 本当に優しかったらあんな風に想いを告げていない。

 サワに何か事情がある事を自分は知っていた。だから、サワはきっと自分との関係を壊したくなかった。

 それに、気付いていたのに。

 たまらなくなって、突っ走った。

 それは―――サワの願いをまるで人質に取ったような告白だ。

 サワが答えられない事も。断れない事も。本当は心のどこかでわかっていたはずなのに。

 もしも、自分がケイの言うようにな優しい人間だったなら、そんな事はできない。

 その気持ちをごまかすようにマーリンはケイに全く関係のないことを尋ねた。


「ケイはなんでここに?」

「たまたまだってー」


 嘘だ。

 日に日に創世の魔術師としての力が増している事は自分でも感じている。

 そうしてみて気付いたのは、アーサーが人気のない場所や危険に遭いそうな時にはさりげなくケイが護衛についている事だ。今もその最中だろう。


「アーサーは、あぁ言ってたけど、どうする?マーリン」

「意外だ」

「何がだー?」

「ケイはアーサー以外はどうでもいいのかと思ってた」


 マーリンの返答になぜかケイはどこか楽しそうにしている。


「言っただろ?俺は君たちが気に入ってるって。マーリンのことも―――サワのことも」


 アーサーとサワの会話は最後の方だけだが、聞こえてきた。

 心の中に靄のかかったような気持ちは確かにまだある。

 でも、それ以上にあの会話を聞いていて、だんだんとマーリンにもわかった事がある。


「今は……いい」


 マーリンも考えなければならない。

 サワとどうなりたいのか。

 どうすればいいのか。

 マーリンの短い返答にケイも「そうか」と言っただけだった。



       ***



 あぁ……目、やっぱ腫れちゃってる……。

 早朝の侍女部屋で鏡をのぞき込んで佐和は溜息をついた。

 だが、思っていたより心は軽い。

 昨日思いっきり泣いちゃったからなぁ……あんなに泣いたの、いつぶりだろう。

 一向に泣きやまない佐和にアーサーは何も言わず、ずっと頭を撫で続けてくれていた。

 あんなに甘やかされたのは、久しぶりな気がする。

 元の世界にいた時から自分が甘え下手だという自覚はある。でも、それでも困った事もいつかは乗り越えて来られたし、どうにか折り合いをつけて来た。

 甘える事のできる友達だって、数は少ないがそれなりにいる。向こうにいた時も弱音を吐くぐらいの事はしていた……本当に時々だったが。

 会ってこんな短期間の人に泣きついちゃったのは、初めてだなぁ……。

 だが、おかげで少し気持ちは落ち着いている。

 怖い……けど、ちゃんとマーリンと話さなきゃ……。


「よし……!」


 自分の頬を叩いて気合いを入れ直した佐和はアーサーの客室へと向かった。



       ***



 アーサーの客室の前に先にマーリンがいた。どうやらマーリンも今来たばかりのところのようだ。


「……マーリン、おはよう」

「……おはよう。サワ」


 心臓が破裂してしまいそうなほど大きく脈打っている。

 佐和は服の上から胸を押さえた。

 怖い。

 怖い。

 怖い。

 もう一緒にいられないと言われたらどうしよう。

 幻滅されていたらどうしよう。

 傷つけていたらどうしよう。

 口なんてききたくないと言われたって仕方のない事を佐和はしようとしている。

 嫌だ。

 嫌われたくない。

 マーリンには、マーリンにだけは嫌われたくない。


『結果を決めるのは、お前じゃない』


 俯いた佐和の脳裏に昨日のアーサーの言葉が蘇った。


『これはお前とマーリンの問題だ。答えを出すのは一人ではできない。結末を決めるのは二人なんだ』


 そうだ。

 だから、私は。


「……マーリン、今日、キャメロットに着いて落ち着いたら話したい事があるの」


 声は思ったより震えていない。


 頑張れ。

 頑張れ、自分。


「……聞いてもらえる?」


 マーリンの返事を待つ時間が永遠のように感じる。

 マーリンは佐和に向き直ると普段と変わらない表情で頷いた。


「うん」

「……ありがとう。さ、じゃあ、アーサーを起こそっか」


 佐和もいつも通りの声の調子でアーサーの部屋の扉をノックした。


 私たちはもう子供じゃない。

 辛い事があっても、悲しい事があっても、世界は待ってはくれない。

 だから、ごまかしながらも仕事をする。動き続ける。

 それがきっと大人になるという事なのだろう。




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