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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第七章 魔術師の瞳に灯る
172/398

page.171

      ***



「……好きだ」


 生まれて初めての異性からの告白に佐和の頭が真っ白になった。

 掴まれた手と熱の灯る視線が痛いほどマーリンの気持ちを注ぎ込んでくる。瞳に込められた熱が揺らいで。

 言葉にならない。

 佐和はわななく身体に力をこめて、何とか立っている。


「……やだなぁ、マーリン!私もマーリンの事大好きだよー。うん」

「そういうのじゃ、ない」


 そんなことは知っている。

 どうしてごまかされてくれない。

 予感はあった。

 確信も、していた。

 それでも目の当たりにした途端、どうしたらいいのかわからなくなった。


「アーサーじゃない。サワ、俺を選んで。俺には、サワが必要なんだ」

「な、何言ってるの?マーリン、私、別にアーサーの事好きじゃない……」

「そうだと思う。何か目的があって、サワが俺とアーサーを助けてくれてる事ぐらいわかってる。だから、アーサーとグィネヴィアの関係を心配するのもそれが理由だって、頭ではわかってる。わかってる。だけど―――堪らないんだ」


 マーリンは懸命に佐和に想いをぶつけた。


「サワがアーサーに近付くたびに、ケイやガウェインに笑いかける度に、狭い心で、堪らなくなる。だけど、サワから聞けばきっと俺は前を向ける。自分のやるべき事に専念できる。――――――俺を選んで、サワ」


 マーリンの声が、瞳が、触れる手の熱が、熱い。

 生まれて初めて自分が『愛されている』のだと痛感するのに、マーリンの切実さは充分すぎるほどだった。


 こんなに、私の名前って切ない響きをするものなの?

 これほど優しい人が、素敵な人が、頑張り屋の人が、勇気のある人が、笑顔が素敵な人が。

 こんな自分を愛してくれている。

 ………………嬉しい。

 嬉しい。

 嬉しい。

 嬉しい。

 嬉しい。

 乾いた身体に水が染み込むような、幸福感が体中をいっぱいにしてくれる。

 悩んでも、悩んでも、答えなんて出なかった。

 それなのに、言葉にされると、こんなにも――――――嬉しいなんて。


「ま……マーリン……」

「……何?」


 優しい彼の声。ひどく、それは耳に甘い。


 ずっと夢見てた事がある。

 実は私には不思議な力があって、何かを成すために生まれてきた特別な存在だったりしないかって。

 周囲の人とは違う特別な才能があったりして、ある日それが芽生えたりしないかって。

 でも、それは物語の中だけのお話。

 現実はそんな人間はほんの一握り。

 そして、自分は明らかに脇役で終わる人間。

 それならそれでいい。


 でも、せめて―――普通でいい。普通でいいから、私を愛してくれる人だけはどうかいてくれますように。


 新宿駅の駅ビルから眺めた人ごみに、それは途方もない願いのように感じていた。

 けれど、その願いは叶う――――――叶うんだ。

 信じられなくて、涙をためた瞳でサワは優しく見つめてくれるマーリンの瞳を見返した。


「…………一つ、聞いてもいい……?」

「うん」

「どうして………………私、なの?」


 それを聞けば答えが出る気がした。すっと、マーリンの好きを受け止められる気もした。


 その質問にマーリンは今まで見せたことのないほど優しい笑顔で答えた。


「生まれて初めて、俺を必要としてくれたのがサワだったから」

「ち、違うよ……マーリン、それは……!」


 言葉を続けようとしたその瞬間、佐和は全てを察した。

 体中を満たしていた暖かい幸福感が波のように引いていく。


「……サワ?」


 黙り込んでしまった佐和を気遣ったマーリンが掴んでいた腕の力を緩め、労わるように顔を覗き込んで来た事すら気にせず、佐和は俯いた。


 ああ、なんだ。

 そっか。そうだった。


 目頭が熱くなる。自分のつま先に涙が零れていく。滲む視界で佐和は自分を笑った。


 そういうことか。


 白い壁。

 大好きだった彼。

 新宿の人ごみ。

 途方に暮れた自分。

 夢は叶う。

 特別な人。

 特別な想い。

 特別な自分。

 自分を想ってくれる大切な人


 ―――そんなのは全て、幻だった。


「サワ?……サワ!?」


 佐和はマーリンの手を思い切り振りほどき、その場を逃げ出した。




21時に次話投稿します。

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