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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第七章 魔術師の瞳に灯る
171/398

page.170

       ***



「サワ?どうした?」


 佐和ががむしゃらに走り、たどり着いたのは人通りの無い廊下の一角だった。廊下の温かな灯りに照らされたマーリンの顔が心配そうに佐和を覗き込んでくる。


「サワ?」

「マーリン……ダメ……」

「何が?落ち着いて」


 走ったせいで佐和は息も絶え絶えだ。それでもマーリンに懸命に伝えようと決心し、口を開いた。


「マーリン、私もマーリンと同じ意見なの。あの人、絶対良くない……ダメだよ……アーサーとグィネヴィアを一緒にしちゃ、絶対良くない」


 自分は傍観者だ。

 脇役ですら、ない場外の人間。

 でも―――彼なら変えられるかもしれない。

 創世の魔術師であり、もう一人の主人公であるマーリンになら変えることができるかもしれない。


「サワ?なんで急に?」

「この二日間、グィネヴィアに仕えてみてわかったの……」


 唐突な佐和の申し出に、マーリンは戸惑いながらも優しく話に耳を傾けてくれている。


「私、いやだよ。あのお姫様がアーサーの隣にいるの。それは絶対アーサーの目指す場所への邪魔になる……。グィネヴィアはアーサーが好きなんじゃない。王子様っていう立場のアーサーが好きなの。それを受けて、王妃様になれる自分が好きなの。そんな人がアーサーを支えられるとは思えない」

「サワ……」

「私、アーサーにはたくさんの味方がいてほしい。誰にもできない事を成し遂げようとするのは本当に大変で、アーサーがやろうとしているのはそういう事だと思うから」


 世の中には思い通りに行かない事や、理不尽な事は山ほどあって。

 それをどうにか変えようともがく内に人は皆疲れ切っていく。

 そうして折れどころを見つけ、自分に対する言い訳がうまくなる。それが大人になるということだと思う。

 それでも、それはとても悲しい事で。

 だけど、変えることなんてできない。

 少なくとも佐和には。

 でも、あの王子様は違う。

 この閉鎖された重苦しい『世の中』を変えられる人だ。

 けれど、そのためには、あの人にはたくさんの味方が必要になる。

 それなのに最も傍にいる人が彼を『思いやる』ことすら知らない人物だなんて、絶対にあっちゃいけない。


「……サワの言いたい事はわかった。でも……どうして、それを俺に?」

「私に……アーサーとグィネヴィアを止める力なんて……無いよ。変えられるのはきっとマーリンだけ……だから……」

「……理解者が隣にいる大事さは、よくわかる」


 全てを出し切って疲弊している佐和にマーリンが一歩、歩み寄った。


「……マーリン?」

「俺も、そうだから。俺が……やろうとしてる事は絵空事なのかもしれない。そんな風に不安に思う時もある」


 マーリンのとび色の瞳が佐和の瞳を真っ直ぐ覗き込んでくる。


「でも……俺には、サワがいてくれた。だから、頑張れた。でも……グィネヴィア姫はアーサーにとってそういう存在じゃない。それは、俺もサワと同意見」


 マーリンの気持ちの吐露に、佐和の身体が固まった。

 目の前の光景を他人事のように、遠くから眺めているように感じる。


 それなのに、耳元で警鐘だけが五月蠅く鳴り響く。


「なら……アーサーにとってそういう女性は他に誰がいる……?」

「それは……きっと、他に誰かが……」

「……サワが、そうなるんじゃないのか?」


 マーリンの質問はほとんど断言に近い。


「何言って……マーリン、そんなのありえな」


 突拍子もない妄想だ。

 真剣なマーリンの眼差しを佐和は笑い飛ばそうとした。

 警鐘が大きく、近づいてくる。


「在り得ないって言い切れる?さっきの言葉を聞いたら、どれだけサワがアーサーの事、考えてるのかわかる。ただの他人をそこまで想う?」

「ち、違うよ。私はマーリンと一緒に、アーサーが王様になるのを見届けるためにここにいるんだよ」

「なら、俺を支えてほしい」


 マーリンの熱い視線が佐和を捉えた。後ずさろうとした佐和の腕をマーリンが掴む。


「ま、マーリン……」


 逃げられない。

 止めて。お願い、言わないで。

 どうしてこうなってしまうのか。

 そんな話をするために連れ出したわけではないのに。

 警鐘が鼓膜を、鼓動を震わせる。


 言ってしまったら、もう戻れない。

 あの居心地のいい『同志』という関係でなくなってしまう。


 そんな佐和の願いを、マーリンはかなぐり捨てた。



「……好きだ」




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