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マーリンと別れた佐和は命令されていた仕事を手早く片づけ、貸し与えられている侍女部屋にこっそり戻っていた。
持ってきた手荷物の一番底に隠しておいたアーサー王伝説の本を取り出す。
マーリンが感じている予感を裏付ける何かがわかるかもしれない。そう思ったのだ。
ゴルロイス……ゴルロイス……は……駄目だ。ウーサーとかアーサーとかの項目に名前が出てくるだけだ。
しかも書いてある内容は既に佐和がこちらの世界に来て、マーリンから聞いている内容そのまま。
『イグレーヌの前の夫で、アルビオン王国が一つになる以前、ティンタジェル城という城の城主でウーサーの盟友だった一人。そして玉座に着いたウーサーを祝う宴で自分の妻を紹介したところ、ウーサーがイグレーヌに一目で恋に落ちてしまう。そして、ウーサーは魔術師の力を借りて、イグレーヌを自分の物にして、ゴルロイス本人を殺した』
それ以上の事はなんも書いてないか……。
それなら次に調べる対象は一人だ。
グィネヴィアは…………。
登場人物を紹介しているページで彼女の名を探す。
ようやく見つけたグィネヴィアのページには美しい貴婦人の挿絵が描かれている。その横にある文字を指で追った。
「グィネヴィア……カメリアド領ロデグランスの一人娘……巨人に捕らえられていたが、アーサーによって救い出される。後にアーサーと結婚し、王妃となる……やっぱり、結婚するんだ……」
佐和の心臓がなぜかはやる。
何かが心にひっかかって、そのささくれが次第にひどく剥がれていくような。
不安感がどんどん膨らんでいく。
その気持ちの加速に後押しされるように佐和は続きを読み進める。
そして、次に目に飛び込んで来た一文に佐和の頭が真っ白になった。
「しかし、後にアーサー王の騎士ランスロットと道ならぬ恋に落ち、アーサー王宮廷の崩壊の一端を招く……何、それ……」
アーサーの騎士にランスロットなんて人物はいない。けれど、もし、後に仲間になるのだとしたら……。
ランスロットのページにも同じような事が書いてある。
これをマーリンは感じ取ってた……?
もし、これが本当だとしたら……将来的にアーサーの王宮は滅ぶ事になってしまう。しかし、この文に書いてある事が杖の言った『正しき運命』ならば。
私は……将来、アーサーやマーリンが悲しい結末を迎える事を知っていて、見ないフリをしないといけないの……?
どうする事が正しいのか。
佐和になんかわかるはずがない。
大判の本はひどく重く、抱えたまま佐和は途方に暮れて立ち尽くした。