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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第七章 その男の名は
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page.164

       ***



「…………」


 カメリアドに滞在中、アーサーが使用している部屋に戻って来た三人だったが、アーサーの様子がどこか普段とは違う。

 何かを深く考えこみ、その表情は物憂げだ。


「アーサー、ロデグランス卿が『あのゴルロイスと同じ名』って言ってたけど、ゴルロイスって本当にあのゴルロイス公なのか?」


 マーリンの質問にアーサーは真顔のまま腕を組み直した。

 小さな沈黙が部屋に流れる。

 どこかで聞いた名だとは思っていたが、マーリンもアーサーも心当たりがあるようだ。


「……マーリン、『あのゴルロイス』って……?」

「……母上の以前の夫であった人物の名だ」


 答えたのはマーリンではなく、アーサーだった。けれど、なんて事のないように語ろうと努めながら吐き出した言葉は弱々しい。

 イグレーヌ王妃の前夫。

 ということは、ウーサーが魔術師に頼んでイグレーヌを手に入れた時に殺した騎士の事だ。初めてマーリンと出会い、魔術師強制収容所に連れて行かれる馬車の中で聞いた話をようやく思い出した。

 ウーサーの犯した過ちの一番大元の始まりの犠牲者。


「でも、死んだはずなんだよな?」

「そうだ。ゴルロイス公は亡くなったはずだ。同姓同名または勝手に名乗っている……という線が濃厚だな」


 それでも、アーサーにとっては気持ちの良い名前ではないはずだ。

 自分が過ちの子、魔法で生まれた子と揶揄されるきっかけになった事件の中心人物の名を聞いて平静でいられるはずがない。

 アーサー……不愉快だろうな……。


「マーリン、なぜお前はあの時、俺にあの男を斬るように進言したんだ?」

「……よく、わからない」

「わからない?」


 戸惑いながらもマーリンは言葉を探している。


「アーサーにとってあいつは……絶対に良くない。あの場で倒さなきゃいけないって思ったんだ」

「……お前はやたらと感で物を言う事が多いな」


 荒んだ気持ちでいたアーサーはマーリンの言葉に肩すかしを食らったようで、苦笑している。


「まぁ良い。どちらにせよモルガンと手を組んでいる以上、ゴルロイスを名乗る男も処罰の対象だ。倒す事に変わりはない」


 そう言ったアーサーは多少肩の荷が下りたように笑って部屋の扉を開けた。


「どっか行くんですか?」

「俺はこの後、ケイと今後の予定に関して少し打ち合わせがある。お前らはそれぞれのやるべき事に取り組んでおけよ」


 そう言い残し、アーサーが部屋を後にする。残されたマーリンと佐和は互いに顔を見合わせた。


「……マーリン、一体あのゴルロイスって人に何を感じたの?」


 マーリンがアーサーに「感」を根拠に注意を促す時の相場は決まっている。魔術に関する時だけだ。だからあんなにも言葉を悩んだに違いない。

 案の定、マーリンは厳しい顔つきになった。


「……よくわからない」

「え?」


 その返答は予想外だった。魔術の事をアーサーには言えないから「よくわからない」と言ったのかと思っていたが、どうやら本当の事らしい。


「うまく言葉で言い表せない。けど……あいつは、絶対にアーサーにとって良くない。そう思ったんだ。いや……思ったというより確信したんだ。これだけは事実なんだ。うまく言えないけど……」

「……実はね、私もゴルロイスを見て、すごく嫌な感じがしたの」


 本当は人の悪口を言うなんてポリシーに反するが、ただの人の好き嫌いとかそういう次元を越えた恐ろしさがあの男にはあった。

 佐和も感じたことを素直にマーリンに伝える。


「なんていうか……言ってる事が全部本当のようで嘘みたいっていうか。本心と態度が裏腹っていうか。何もかもをどうでもいいって思ってるっていうか」


 マーリンと同じで、佐和もあの男に関する気持ちを的確に表す言葉が見つからない。だが、感じている感覚は共通しているようだ。


「……俺も同じ事を感じた。それに……グィネヴィア姫も……アーサーの傍にいちゃいけない。きっと、何か起きる。そう思えてしょうがないんだ」

「……マーリン」


 不安感に煽られながら佐和もマーリンも困り果てた。

 先の見えない不安に気が付けば、佐和は無意識に胸を押さえ込んでいた。




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