表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第六章 獅子と道化師
153/398

page.152

       ***



 行きと同じくレオの加護を受けてブロセリアンドの森を通りアストラト領まで帰って来た一向は戦争の疲れを癒すため数日アストラト城に留まる事になった。

 窓の外、兵や騎士の雰囲気は明るい。皆、戦の勝利に興奮している。ガウェインが他の兵士と肩を組んで乾杯しているのが見えた。

 アーサーの客室から佐和は外の戦士達の様子を見ながら複雑な気分になっていた。

 勝ったのは良かった。だけど……たくさんの人が死んだ。

 メディアが殺され、後衛拠点の兵達はすぐに目を覚まし、戦争は勝った。

 佐和もブレスレットのガラス玉を通して、事の顛末は全て見ていた。

 皆、無事で良かった……だけど……やっぱり、心苦しいものは心苦しい。


「サワ」

「あ、マーリン」


 部屋に戻って来たマーリンが佐和の横に並ぶ。


「今回もお疲れ様」

「いや……」


 マーリンも言葉にできない思いを抱えているようだった。その視線はさっきまでの佐和と同じように勝利に酔いしれる戦士達に向けられていた。短い沈黙が流れる。


「サワ……」

「何?マーリン」


 静かなアストラト城、窓の外からは兵の話し声と小鳥の囀りが聞こえてくる。平和としか形容のできない空気。


「戦地に行く前に、アーサーと話したんだ。俺達が戦う相手にも大切な人はきっといて、それを踏みにじるのが戦争だ。それはどうにもならないのかって」


 初めて聞く話に佐和は耳を傾けた。


「アーサーは自衛するしかないって言った。相手は待ってくれないって。相手も傷付けずに済む方法があるなら自分が知りたいぐらいだって」


 アーサーとマーリンがそんな話を……。

 佐和はマーリンの言葉の続きを静かに待った。


「だから考えろって言われた。ケイにも自分に置き換えて考えてみれば良いって言われて、考えた。考えたけど……答えは考える前に出てた」


 マーリンは佐和の顔を真っ直ぐ見つめた。穏やかな陽射しが彼の鳶色の瞳を照らす。


「俺は、自分の大切な物を守りたい。大切な人の物を守りたい。無抵抗でいるなんて、できなかった。でも……」


 マーリンは瞳を逸らし、窓の外の青空を見上げた。


「悲しかったよ……」


 きっと、メディアの事だ。

 マーリンは死したミルディンの意志を、存在を生かそうと、もがいた。

 けど、その思いはメディアには届かなかった。

 二人ともミルディンの事を想っていたのに、決して相いる事は無かった。

 気持ちが同じ愛だとしても、それぞれの胸にある想いは一つとして同じ物はない。

 それがすれ違い、傷つけ合い、痛み、苦しみに変わる世の中はなんて憎らしいんだろう。

 すれ違いも、勘違いも日常茶飯事だ。

 どうして、大切な人と生きたいだけなのに、傷付かなければならないのか。

 どうして、世界はこんなにも生きる事に優しくないのか。

 神様がいるなら問い(ただ)したくなる時が佐和にもある。

 だから。


「マーリンは優しい世界にしてね」


 佐和の言葉を受け取ったマーリンが佐和を見返す。

 どこまでも優しい魔法使い。

 あなたとその王が創る世界なら、きっとそんな理不尽も消えて無くなるよ。


「アーサーと一緒に、優しい世界を創ってね」

「……うん」


 方法はまだわからない。

 それでもただ、優しい場所を目指して、創世の物語はまた進む。




明日第六章完結です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ