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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第六章 答えを求めて
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page.149

       ***



「殿下!」


 戦場の混乱の中、アーサーの元に駆け寄って来たのはこの北西部領地を治めているブラシャス卿だ。鎧は土まみれ、ところどころ怪我も追っている。

 タフな男だが、疲弊しきっているのは目に見えて取れた。


「何が起きた?」

「大国と蛮族が統率のとれた進軍を。どうやら奴ら、魔術師と手を組んだようです。その者が我が軍の盲点を向こうの指揮官に伝え、時には魔術で攻撃を」

「……魔術師」


 嫌な予感はあった。戦地に倒れた兵の多くが蛮族の使っている大ぶりの武器でも、大国の使っている剣でもない怪我で命を落としていた。あれが魔術に依る物だとすれば短時間で戦況が引っくり返った事にも納得がいく。


「その逆境の中、よく耐えた。後は任せろ」

「……面目ありません」


 ここは最前線というわけではない。それなりに敵もいるが、数は少ない。アーサーは馬に乗ったまま敵を斬りつけ、仲間に激励を飛ばした。


「負傷している現地兵の救出を並行して行え!!」

「アーサー、余り前に出すぎるなよ」

「わかってはいるが……」


 ケイの忠告は自分自身にも何度も言い聞かせている。しかし、目前で仲間が斬られそうになるたびに身体が勝手に動こうとしてしまう。


「お前は今回、指揮官なんだ。お前が倒れれば兵の心が折れる。盛り上がった士気を殺すな」

「……わかっている」


 それでも救いたいと思うのは傲慢なのか。

 姿が見えぬだけで最前線で戦っている仲間すら救いたいと願うのは驕りなのか。


「アーサー、しけた面するな!!」


 後ろから槍を掲げたガウェインがアーサーの横に並んだ。戦地においても変わらない快活な表情がアーサーに笑いかける。


「お前は最前線に行く。なんせ、お前の騎士の俺が行くんだからな!お前が行くようなもんだろ!!」

「……そうだな。任せたぞ。ガウェイン」

「おう!!」


 アーサーに肩を叩かれたガウェインが先陣を切り、敵の部隊に切り込みを入れていく。

 あの男ほど、この軍において突破力を持った騎士はいない。最も危険だが、適任なのはあいつだけだ。


「殿下、森でも申し上げましたが、あなたは御一人ではありません」


 アーサーの傍で敵兵を的確に馬から突き落としたイウェインが微笑んだ。


「あなたが救いたいと思う人の数だけ私も助けましょう。さすれば救える人の数は二倍です」

「イウェインの言う通り。それにガウェインも俺もだ。四倍だな、アーサー」

「イウェイン、ケイ…………共にこの防衛ラインを死守するぞ!これより先、アルビオンの土地を奴らに踏ませるな!!」

「残念ながら、アルビオンの王子よ。ここは防衛ラインではありません。たった今最前線となりました」


 アーサーの激励に冷たい声が返る。

 背後から襲いかかる剣戟(けんげき)にアーサーは目を見開いた。



       ***



「……ケイ!!」


 背後からアーサーに斬りかかってきた剣をケイが受け止めた。その相手の鎧と盾の紋章には見覚えがある。


「モーラ大国の指揮官とお見受けするが、大国では敵将に後ろから斬りかかるのが流儀なのか?」


 ケイの皮肉をこめた笑みと払いを受けた相手は数歩後ろに下がった。騎乗していない。それを見たケイも同じように馬から降り、油断なく剣を構えたまま、アーサーを守るように前に進み出た。


「大国のモットーは成果主義です。それに背後から斬りつける事は策略の一貫、まさか未だに決闘精神を準ずるべきだとでもお考えなのですかな?」


 敵はアルビオンよりも薄く輝いた鎧を纏っている。面長に猛禽類のような目、こけた頬。それなりの役職の戦士に見える。アルビオンの言葉を流暢に操り、相手は名乗りを上げた。


「お初にお目にかかります。アルビオン王国アーサー王子。私はモーラ大国アルビオン統一戦線将軍ルーシャスと申します。以後お見知り置きを」

「まさか指揮官自らが敵拠点に乗り込んで来るとは一体どんな手品を使ったんだ?」


 馬も、味方もいないこの男はだが、確かにアーサーの背後を取った。仲間が誰一人気付かずアーサーの元まで敵を放置するなんて事はあり得ない。


「手品ではなく、魔術よ」


 アーサーの疑問に答えたのはルーシャスの後ろから現れた女だった。その顔には見覚えがある。

 忘れられるわけがない。


「モルガン……!!」

「ご機嫌よう、光の王よ。自分の無力さと愚かさで仲間が死んで行く気分はいかがかしら?」

「貴様が大国と蛮族を結ばせたのか!?」

「えぇ、私の話を聞いて彼らは快く協力してくれたんですもの」


 という事はブラシャスの言っていた魔術師の正体はモルガンだ。

 またこの女か……一体何を企んでいるんだ?

 アーサーも剣を構え直す。

 この女相手に油断はならない。それに、この女さえ倒してしまえば、戦況はこちらに有利となる。

 魔術師というのはそれだけの力を持っている。逆に今ここでモルガンを仕留められなければ被害は確実に増えるだろう。


「わざわざ出向いてくれるとはな。探す手間が省けた。お前らさえ倒せば、この戦は俺たちの勝ちだ」

「そうでしょうかな?」


 ルーシャスが微笑んだ瞬間、アーサーとケイの間に突然大男が出現した。その向こうでモルガンが輝くペンダントを持って笑っている。

 魔法か……!?


「もらったぜ!王子様よおおお!!」


 蛮族特有の大振りの斧がアーサーの馬目掛けて構えられる。

 避けられない……!

 しかし、次の瞬間、斧の先の男の顔の横から細身の剣が迫った。


「うおお!!」


 アーサーに攻撃しようとしていた男の首筋を細身の剣が掠める。慌てて避けた男はアーサーへの攻撃を諦め、地を転がった。


「殿下には指一本触れさせん」


 馬から飛び降り、アーサーを救ったのはイウェインだ。蛮族の男に隙なく剣の切っ先を向けている。


「イウェイン、助かった」


 アーサーも馬から降りて敵の三人と向かい合った。これで三対三だ。


「レオ、殿下の背後をお守りするんだ」


 イウェインの命令を受けた獅子がアーサーの背後にまわり、手柄を得ようとこっそり迫って来ていた敵兵に咆哮を上げた。一般兵はその鋭さに怯み、近寄っては来ない。

 これで全身全霊をモルガンに向けられる。


「はっ!女かよぉ!?おいおい!なぁ、こいつ、俺にくれよ!」


 ルーシャスとモルガンに男がガサツな笑い声をかけた。その言葉に軽くイウェインが顔をしかめる。


「俺の名前はヘンギスト。お前らが蛮族って呼んでるフォモーレ族族長だ!女だてら俺の顔にかすり傷負わすなんて、惚れたぜぇ!アルビオンを手に入れるついでにお前も俺の女にしてやるよ!」

「蛮族にあまりジョークのセンスは無いようだな」


 珍しく皮肉を言ったイウェインが横目でケイに合図を送った。それを受けたケイも頷く。


「アーサー、こいつらは―――俺とイウェインに任せろ」

「おや、舐められた物ですね。あなたが私の相手など。どう見てもお若く映りますが?」

「そりゃ、どうも」

「ってことは、俺はこの女でいいんだな!抵抗すんなよ!殺しちまったら楽しめねぇからな!」

「ほざけ」


 ルーシャスとケイ、ヘンギストとイウェインが構え合う。その狭間でアーサーはモルガンの顔を真っ向から見返した。


「では、殿下。あなたは私が直接手を下しましょう」

「その言葉、そのまま返してやる」


 バリン、バラン。

 この女の影響で運命が変わり、命を落とした者がいる。この魔女はまさにアーサーの嫌う悲劇を生み出す魔術師だ。

 ここで、悲劇の連鎖を断ち切る……!

 三人は各々の敵に向かって一撃を繰り出した。




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