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森を透視していた少女はゴーレムが砕け散るのを爪を噛んで見つめていた。
悔しい。
あいつを殺せなかった……。
透視用の水晶に憎き男の顔が大きく浮かび上がる。藍色の髪に鳶色の瞳。本当ならそこにいないはずの男。
「……ちっ」
「女の子がそういう事しちゃ駄目だって、メディア」
背後から男が舌打ちしていた少女に声をかけた。少女は男を睨みつける。
「苛々してるなぁー」
「殺せなかったんだから、当たり前でしょ」
「そんなに怒るなよ。モルガンから言われてたあいつらの目を王都に釘付けにしとけってのは達成できたんだから」
男はそう言ったものの自身は納得できていない。
あの男は自分の大切な人を奪ったのだ。その人の居場所も、誇りも、命も。
決して許す事はできない。
「必ず、殺してやる……!」
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佐和達が城に戻ると、なんだか城内が騒がしい。顔を見合わせた佐和とマーリンは共にアーサーの私室に急ぎ、引き返した。
「殿下、サワとマーリンです」
「入れ」
ノックをして部屋に入ると、アーサーとガウェインはまだ私室にいた。そこに兵士の一人が背を向けて立っている。
すでに部屋からゴーレムを討伐した浮かれた空気は掻き消えていた。
「それでは、殿下。会議室までお急ぎください」
「わかった。下がれ」
兵が出て行ったのを確認し、マーリンがアーサーに近寄った。
「何があったんだ?」
「……北西の海岸線に海から異民族とモーラ大国の連合軍が攻め込んで来た…………戦になる」
アーサーの宣言に部屋に一気に緊張が走り抜けた。
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遥か彼方、水平線に目指すべき地が見え、船の甲板にいた大男は歓声をあげた。
以前夢見た土地が変わらぬ姿で己の上陸を待ち望んでいるようだ。
大男の歓声を聞き、背後から別の男が顔をしかめ、大男に近づいた。大男のぼろぼろの布切れを纏った野生的な民族衣装と異なる、洗練されたコートを羽織った男が横に並ぶと異様な組み合わせに見える。
「ついに見えて来たぞ。俺たちの土地だ」
「私達ですよ。約束をお忘れなく」
言葉遣いも態度も違う。本来なら出会うはずも、ましてや隣に並ぶはずもない二人。だが、その目的だけは共通だった。
「豊かなるアルビオンの地。今度こそ我らが皇帝陛下にお捧げせねば」
「これで飯に困る生活しなくて済むなぁ!」
「それにしても、我々がまさか蛮族と手を組む日が来ようとは夢にも思いませんでしたよ」
「そりゃ、こっちのセリフだ!すかした大国なんかと手を結ぶなんて思っちゃいなかったぜ!ま、後ろの奴に感謝だな」
二人の男はちょうど甲板に上がってきた女性を振り返った。
二人の男の視線にエスコートされ、優雅に海風に黒髪をなびかせた女―――モルガンは口元を歪ませた。
さぁ、光の王よ。
「抗ってみせるがいい」