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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第五章 特別な存在
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page.131

       ***



 改めて訪れたキャメロットの森は静まり返っていた。

 マーリンはアーサーの後ろを歩きながら、どこか落ち着かない不安感に駆られていた。

 何だろう……嫌な予感がする。


「何だ?マーリン、ビビっているのか?」

「そういうわけじゃ……」


 捜索隊が見つけたゴーレムは変わらずに王族の狩場の奥深くに三体まとめているらしい。

 アーサー達の作戦では三方から兵を送り一体ずつ倒す算段だ。アーサーの班には他に騎士はガウェインのみ。後はマーリンと兵士だ。残りの二班はエクター卿とケイが各々指揮している。


「安心しろよ!マーリン、俺が、がつーんとやっつけてやっから!」


 ガウェインはそう言うと持っていた槍を軽々と振り回した。周りの兵士が目を丸くしてその様子を見ている。


「うん、ガウェイン期待してる」

「おう!!」

「待て!……静かにしろ」


 アーサーの鋭い命令で、全員が足を止めた。少し先の茂みが揺れ始める。段々と地響きが近付いて来る。

 案の定、茂みからゴーレムが三体、姿を表した。一斉にこちらを目指している。


「どういうことだ!?まだエクター卿とケイとの合流地点ではないぞ!」

「こりゃ、このメンバーでどうにかするしかねぇな」

「構えろ!!」


 どうやらゴーレムは突然移動して来たらしい。これでは取り囲むはずだったエクター卿とケイの班は無駄足を踏んで、最早いない場所を目指して進軍していることになる。


「伝令!それぞれ、エクター卿とケイにこの場所を伝えろ!」


 最後尾にいた伝令役の兵士が二名、隊から飛び出した。

 だが、どんなに急いでも援軍が来るのは時間がかかる。


「それぞれゴーレムを囲め!初めは回避に専念!魔術痕の捜索に重点を置け!」


 アーサーの合図で兵が散る。ゴーレムは初めに見た時よりもエネルギーを迸らせているような気がした。ゴーレムの一体が唸り声をあげ、腕で地面を薙ぎ払う。あっという間に取り囲んでいた兵士達が吹き飛ばされて行く。


「攻撃性が増しているのか!?」


 残った兵士をゴーレムが捉える。それを見たアーサーはゴーレムのすねを切りつけ、注意を引くと木立の間に滑り込んだ。


「こっちだ!追って来い!」


 ゴーレムの大振りな技はアーサーを捕らえる事ができない。アーサーは木立や蔓、森の立地を利用し的確に攻撃を避ける。

 アーサーが相手をしているゴーレムにもう一体が加勢に向かおうと動き出した。そのゴーレムの後頭部に大木が投げつけられる。


「お前の相手は俺がしてやるよ!!」


 自分の後頭部に大木を投げつけてきたガウェインを発見したゴーレムがガウェインに向かって行く。


「俺とガウェインが敵の気を引いている内に魔術痕を見つけ出すんだ!!」


 残った兵士は約半分。しかし、最後のゴーレムがその残っていた兵士を蹴散らした。


「くそ!」


 マーリンは木の影から目を凝らした。今、兵士を蹴散らしているゴーレムのうなじに薄く黄緑の光る文字が浮かんでいるのが目に飛び込んで来た。

 あれが、魔術痕……!

 かろうじて生きている兵士を踏み潰そうとゴーレムが足を上げた。

 今ならアーサーもガウェインもこちらを見ていない。


「ディアコピィ!」


 マーリンは小声で呪文を唱え、ゴーレムの頭上の大木の大振りの枝に魔術をかけた。マーリンの魔術で折れた大木の枝を、マーリンは意志魔術でゴーレムのうなじに突き刺した。


「うわぁああ!!」


 今にも踏みつぶされそうだった兵士達が悲鳴をあげる。しかし、ゴーレムは足をあげた状態のまま動かなくなり、ひび割れが全身に走り出す。

 不思議がる兵士達の目の前でゴーレムが散り散りに爆発した。


「何だ!?誰か一匹やったのか!?」


 ガウェインがゴーレムのパンチを避けながら弾んだ声で尋ねてくるが、答えるわけにはいかない。

 マーリンは木の影から木の影へ移動し、アーサーと対峙するゴーレムに目を凝らした。


「くそ!一体どこにあるんだ!」


 アーサーの息があがり始めている。ゴーレムの攻撃は大振りで、アーサーからすれば当たるようなものではない。しかし、確実に足場の悪さと攻撃範囲の広さに疲労が溜まってきている。

 マーリンは目に力を込めゴーレムを見つめた。ゴーレムの中を巡る波動が一箇所を起点に循環している。それが集約している場所は……


「アーサー!右の内股の所だ!」


 マーリンの叫び声に反応したアーサーがゴーレムの振り下ろした拳を避けながら、ゴーレムに回り込むように駆け出す。その目が右内股の魔術痕を捉えたのがマーリンにもわかった。


「あれか!」


 マーリンの位置からはガウェインと対峙するゴーレムの背も見えた。背後の腰に同じように黄緑に光る魔術痕がある。


「ガウェイン!背面、腰の所!」

「マーリン!目、良いな!!」


 二人は同時にゴーレムに向かって駆け出した。アーサーと対決するゴーレムが、アーサー目掛けて両腕を振り上げる。

 一瞬でも懐に飛び込む事を躊躇すればアーサーは潰される。アーサーは怯む事なくゴーレムに突き進んで行く。

 一方のガウェインは数歩、ゴーレムから距離を取ると持っていた槍に力を込め始めた。以前に見た時よりも激しくエネルギーが彼の右腕を迸り始める。


「食らえ」

「食らいやがれええ!!」


 アーサーは振り下ろされた両腕の隙間から身体を滑らせ、ゴーレムの股下に滑り込み、内股の魔術痕を切り裂いた。

 ガウェインの迸るエネルギーを帯びた槍がゴーレムに向かって突進する。正面から受け止めたゴーレムの腹を貫通し、腰の魔術痕ごと胴体を消し去る。

 二人の騎士により、魔術痕を失ったゴーレムが同時に爆発した。爆発した破片は散り散りに飛び散ったが、再生する気配は無い。


「どうらっしゃあああ!!」


 雄叫びをあげたガウェインの声にアーサーも満足げに剣を鞘に戻す。事態が収集したことに安堵し、マーリンはアーサーに駆け寄った。


「アーサー」

「マーリン……なんだ、その、お前目だけは良いらしいな」

「他に言い方あるだろ」

「そうだぞ!アーサー!ありがとなー!マーリン!お前のおかげでやっつけられたぞ!」


 後ろからガウェインに肩を組まれると悪い気はしない。だが、たまにはこのわがまま王子をぎゃふんと言わせてみたい気もした。


「ふん。良いからすぐに兵士の救護に当たるぞ。まだ助かる者も多い」

「殿下!」


 その時、林の二方からエクター卿とケイが現れた。どうやら伝令を聞いて急ぎ引き返して来たようで息を切らしている。


「裏をかかれましたな……」

「ああ……ケイ、お前の隊で治療と撤退を」


 アーサーの命令を受けてケイが兵士に指示を出す。

 これで一件落着だ。ゴーレムを作った魔術師はわかっていないが、マーリンにはその方が良かった。

 人を傷つける魔法を使う魔術師には会いたくないし、そいつが悪いとわかっていても、処刑される所は見たくない。


「しかし、なぜ突然移動を始めたのでしょうか?それまでは部下の報告によればゴーレムの移動は必要最低限のような印象を受けたとの事でした」

「さぁな。何も考えていないという可能性もある。前回襲撃を受けた時も知能はかなり低いようだったしな」


 アーサーとエクターが雑談を交わしながら隊の回収を始める。マーリンもアーサーのすぐ後ろに並び隊列に加わった。アーサーがガウェインの肩を叩き、ゴーレムをしとめた事を褒め称えている。

 誰も自分が始めのゴーレムを倒したことなど知らない。だが。

 ……帰って、サワに話したら喜んでくれるだろうか。

 想像しただけで心が軽くなる。そう思えば自分の影の功績が認められないことなど全く気にならなかった。

 日に日に大きくなっていくこの思いは何なのだろう。

 わからないけれど、嫌な気持ちはしない。

 ……早く帰って、サワに会いたい。

 マーリンは胸を張って城への帰り道を歩き始めた。




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