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「ここがカーマ―ゼン……」
佐和は村の入口から中を覗き込んだ。
杖に言われた通り洞窟を抜け、北西を目指し、日が沈みそうな頃ようやく目的地である町にたどり着いた。
一言で言えば外国の農村のような村だ。
道は舗装されていない土の状態だが、人の通る所に植物は生えていない。家は木造で平屋造り、どれも煙突がついている。
行き交う人々の服装はぼろぼろで、ゲームや映画に出てくる中世ヨーロッパの農民が着ているような質素な服だ。
佐和はその場でぎゅっと、手に持っていた長い袋を握りしめた。
大丈夫。大丈夫。
佐和は心の中で何度も唱えなおすと覚悟を決めて門をくぐった。
おどおどしないように気を付けながら進んでいく。
こちらの世界に来て初めてのこちらの住人との接触だ。
もともと人見知りの激しい性格な上にここは異世界。異世界人の常識など何も知らない佐和にとっては人に会えた喜びよりも未知の恐怖が上回る。
うまく、うまくやらなきゃ。
私に海音の命がかかっているんだから。
「あらぁ、珍しいね!旅人かい?」
内心ビクついていたせいで、肩を叩かれた瞬間、思わず飛び上がりそうになった。
慌てて振り返ってみると、人の良さそうな笑顔が覗き込んでいる。もちろん日本人の顔つきとはまったく違うが、覗き込んできたおばさんの人の良さそうな笑顔は万国共通の物のように思えた。
「えっと、ええ…まぁ」
「あらまぁ、ほんとに?珍しいこともあるもんだねぇ、こんなど田舎に。あんた一体どこから来たんだい?」
とりあえず言葉は通じるようだ。
佐和の曖昧な返事を肯定と受け止めたのか、佐和を呼び止めたおばさんは目を丸くした。
異世界からです。などと言うわけにもいかないので、とりあえずぎりぎり真実を話すことにする。
「ここより南東の国から来ました」
佐和の返しにおばさんは不思議そうにしている。
「南東って…おいおい待っとくれよ、あんた南東ってソールズベリーの洞窟を越えて来たのかい?」
「ソールズベリーの洞窟?」
「魔物がうようよ住んでる聖域さ。この村より南東にはあの洞窟しかないし、そこより先から来るならあそこを通るしか、山を超える方法はないんだよ」
おばさんの説明に佐和は洞窟を抜け出した時の景色を思い浮かべた。
洞窟のあった山はかなり高く険しく、木も生えていない岩肌の山だった。
確かにあれは登って越えられるような山ではないだろう。
「えぇ、まぁ……」
「なんてこったい!!おおい!みんな聞いとくれ!『導き手』だよ!南東の洞窟から来た子だ!!」
おばさんの大声で周りにいた村人が全員ぎょっとした。ついでわらわらと佐和の周りに集まり出す。
ななな、何!?
佐和は慌てて持っていた袋を両手で抱きしめた。
佐和を囲んだ村人達は好き勝手に「こんな娘が?」とか「生きてる間に会えるとは!」とか言っている。
なんなんだー!これー!
心の中で悲鳴をあげながら佐和は曖昧に笑ってごまかした。