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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第五章 勇猛の騎士
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page.126

       ***



「父上、只今戻りました」


 謁見室で何人かの騎士とテーブルを囲んでいたウーサーが顔をあげる。その表情がみるみる内に険しくなった。


「アーサー!何処へ行っていたのだ!行方を眩ます等!王子としての自覚は無いのか!」

「申し訳ございません。陛下。しかし、火急にお耳に入れたい事が」


 アーサーは一度深々と頭を下げてから、直ぐに話を切り出した。視界の端でボードウィン卿がいる事も確認する。

 彼がいた方が話が早い。


「今朝方、ガウェインと狩に出向いた所、大岩でできた怪物三体に襲われました。帰城が遅れたのはそのためです」

「何だと?して、その怪物は仕留めたのか?」

「いえ、一体はバランスを崩し、転んで自滅。もう一体はガウェイン卿の槍に貫かれましたが、どちらも凄まじい速度で元に戻りました。恐るべき治癒力を兼ね備えた怪物だと考えられます。現在、私のために用意していただいていた捜索隊をそのまま森の見張りと怪物の捜索に当たらせています」


 アーサーの報告に騎士達の間でざわめきが起こった。当たり前だ。アーサーですらあんな怪物、正体の心当たりが無い。


「民にお触れを出せ。森に近づけぬように」

「そちらも手配いたしました。しかし、根本的な解決には当たりません」


 王族の狩場になっている森と市民の立ち入る事のできる森は繋がっている。今は狩場にいる怪物がいずれ一般の森に移動すれば、市民に被害が出る。それどころかあの怪物がキャメロットの都に攻めて来ないという保証は無いのだ。


「わかっておる。アーサー、兵を率いてその怪物を討て」


 ウーサーの命令は短い。アーサーに頷く以外の選択肢は無いが……。

 父上……俺が言いたいのは……。


「伯父上ー、アーサーの報告聞いてました?不死身なんですって。まず討伐に行く前にあの化け物の正体がわかんねぇと話しにならないですよ」


 緊迫した空気にのんびり割って入ったのはガウェインだ。とても国王に対する口振りとは思えない。その振る舞いに騎士の多くが冷や汗を流している。


「ガウェイン!不遜だぞ!」

「んな事言ってる場合じゃないですって。ボードウィン卿、何か心当たりありませんか?」


 話を振られたボードウィンは激昂するウーサーを気にした様子もなく、顎に手を当てて思案している。


「……少し、部屋に戻り、調べる時間をいただけますかな。何処かで聞き覚えのある特徴を持った怪物であるような気がいたします。以前陛下にいただいた勤勉に当てた時間にそのような文献を拝見した気が。陛下、その時間を活用しきれなかった不肖をお許しください。罪滅ぼしのためにも私に殿下の助力を。よろしいでしょうか」

「……一刻も早く解明せよ」


 アーサーよりも余程ウーサーと付き合いの長いボードウィンはウーサーの機嫌の扱いが上手い。ウーサーが頷かざるを得ない口上をすらすら述べたボードウィンにウーサーは不機嫌に頷いた。アーサーもその空気を壊さずにそのまま滔々と言葉を続けた。


「では、陛下。私は怪物の正体がわかり次第討伐に向かいます。現在、警戒体制の指揮はエクター卿が採ってくれています。引き続き、エクター卿とボードウィン卿の尽力をお借りしてもよろしいでしょうか」

「構わん。ボードウィン、アーサーに尽力せよ」

「かしこまりました」


 その言葉にボードウィン卿が始めに部屋を出て行く。アーサーとガウェインも一礼し、謁見室を後にした。

 謁見室から少し離れた廊下で辺りに人影が無い事を確認してからアーサーはガウェインに切り出した。


「ガウェイン……全く、お前という奴は」

「え?お前の言いたい事ってあれで合ってたよな?俺、間違ってた?」


 間違ってはいない。まさにガウェインが言った事がアーサーが本来ウーサーに進言したかった事だ。

 だが、一国の王にあのような口調で用件を切り出せるのは世界中探しても、このいとこしかいないだろう。


「いや……間違っていない。助かった」

「なんで、アーサーが助かるんだ?俺、思った事言っただけだぞ?」


 ガウェインは本気で礼を言われる理由を理解できていない。その様子がおかしくて、アーサーは小さく吹き出した。

 ……だから、俺はお前を騎士にしたんだ。

 その事にきっとガウェインは気付いていない。だが、それで構わない。

 この男はどんな圧力にも、逆境にも決して膝を折らない。それは騎士に求められるものの中で最も重要な勇猛さだ。

 考えなしで、口悪く、がさつで、女性には触ることすらできない。

 だが、誰よりも騎士道に相応しい勇敢さを持ち合わせるこの騎士が背中にいる。

 それだけで、アーサーは背筋が伸びる思いだった。




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