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やっと、着いた……。
佐和達が見慣れたキャメロットの城門にたどり着いた頃には陽がすでに高く登りきっていた。アーサーの公務は昼からだったはずなので、恐らく王子の不在に城中が騒いでいるに違いない。
案の定、門をくぐり城前の広場に出るとそこにはたくさんの兵士が隊列していた。その先頭でこちらに背を向け指揮を取っている騎士がいる。その騎士が兵士のざわめきに気づいて振り返った。
「殿下、ご無事でしたか」
駆け寄って来た騎士は40代ぐらいだろうか。低い声にはしっかりと落ち着きがあり、浮足立っている様子は無いことからかなり場数を踏んでいる事が伺えた。黒い短髪、厳しい顔つきをしているが、おそらく元々こういう目つきの人なのだとわかる。
けれど、不思議ときついとか気難しそうという印象は受けなかった。
「ちょうど今、殿下の捜索隊を立ち上げた所でした」
「心配をかけた。エクター卿」
エクター?
どこかで聞いたことのある名前に佐和は思い出そうと考えをめぐらせた。
エクター、エクター……なんだっけ?
まだ佐和はマーリンにおぶってもらったままだ。佐和はすぐ傍にあるマーリンの耳にこっそり声をかけた。
「ねぇ……マーリン、エクターってどっかで聞いたことある気がするんだけど。どこだっけ?」
「…………」
「マーリン?」
声をかけると、なぜかマーリンの背中が一瞬固まったような気がした。だが、エクター卿に対して緊張しているというわけではなさそうだ。
私の気のせいかな……?
「エクターって事はケイの父親かも」
マーリンの結論に佐和は驚きすぎて声をあげてしまいそうになった。
確かに名前は同じだ。けれど、ケイのあのチャラチャラしている空気と、目の前の生真面目という言葉が似合うエクター卿に共通点は見つけられそうにない。
「ちょうどいい。このまま兵を解散せずにいて欲しい」
「何があったのですか」
「王族の狩場に岩石の身体を持つ化物が現れた。数は三体。恐ろしい程の生命力を持っている。森の要所に見張りと捜索を。貴殿に一任したい」
「かしこまりました。お触れと合わせ直ぐに手配いたします」
「頼んだ。私は陛下にご報告し、早急に対策を練る」
アーサーの命令に頷いたエクター卿がテキパキと指示を飛ばす。その姿はとても落ち着いていて無駄がない。
ああ、でも二人の会話見てたら納得だな。
ケイの父親という事はエクター卿はアーサーにとって育ての親でもあるという事だ。
身分があるから言葉使いは違うものの、アーサーの言葉の端々にエクター卿への信頼感が伝わってくる。
無表情に思えたエクター卿もアーサーが指示を出す様子を見守り、ほんの刹那目を細めているのが見えた。その瞳に宿っているのは成長した息子の姿を喜ぶ父性に違いない。
この人がアーサーに騎士道を説いた人物なんだ……。
「マーリン、サワを医者の元へ。ガウェインは俺と共に父上に報告だ」
「わかりました」
「りょーかい!」
後にアーサーの私室で合流する事を決め、四人はその場で別れた。