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創世の傍観者とマーリン  作者: 雪次さなえ
第四章 道なりは誠か
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       ***



「どうしたんだろうね?アーサー。急に機嫌悪くなって」


 先程の巡回で使った鎧を片付けに、マーリンと二人で鎧を抱え武器庫に向かいながら、周りに誰もいない事を確認して佐和はこそこそと切り出した。

 ボーディガンが来てからどこかアーサーは緊張しているように見える。それはマーリンも感じ取っているようでああと頷いてくれた。


「何か、あるのかもな」

「うん。なんだろ……っと!」


 佐和が持っていた籠手の一個が抱えていた腕から零れ落ちてしまう。どうにか拾おうと腰を落とした拍子に抱えていた鎧が一気に崩れ落ちた。


「ぎゃー!!」

「大丈夫か!?」


 耳障りな金属音が響き、地面に鎧が転がり落ちた。マーリンがすぐに駆け寄って来て、自分の持っていた分を一度脇に置き、拾い集めるのを手伝ってくれる。


「ご、ごめんね。マーリン」

「大丈夫」


 マーリンが拾った籠手や兜を佐和の腕に載せてくれる。立ち上がった佐和は持った感触に首を傾げた。

 あれ?こんなに軽かったっけ?


「大丈夫?」

「え、あ、うん。もう行ける。ありがと。マーリン」


 自分の分を持ち直し、歩き出したマーリンの腕に抱えられた鎧の山がさっきよりも大きい。さりげなく佐和の分を持ってくれている。


「マ、マーリン!!大丈夫!悪いよ!自分で持てるよ!」

「大丈夫」


 佐和が横からマーリンの山の自分の分を取ろうと駆け寄ると、マーリンはそれを察知してくるりと身体の向きを変え、佐和が取れないようにしてしまう。


「いや!ほんと悪いって!持つから」

「平気」


 なんとか奪おうと四苦八苦するが、マーリンの方が背が高いので、腕を高くあげられてしまうと手の出しようがない。


「マーリンの方が胴体とか重いの持ってるのに!」

「いい。……これは、筋トレ」

「それ今考えた言い訳でしょ!」


 どうやっても佐和に持たせる気はないらしい。諦めて佐和はその行為に甘えることにした。


「もう……マーリン、可笑しいっ。でも、ありがとね」

「……別に」


 そう言ったマーリンの頬が少しだけ赤い。

 照れてるのかな。かわいい。

 マーリンの顔を見て、思わずにやけてしまった佐和たちに突然のんびりとした声がかかった。


「いやー。すごい、いちゃつきっぷりを見せつけられたなー」

「あ、ケイ」

「やっほー。お二人さん、元気?」


 相変わらず王宮をふらふらしているのか、唐突に現れたケイに佐和もマーリンももう驚かない。


「いちゃついては……」

「なんだ?マーリン。照れてるのかー?」

「ケイって、普段何してるの?暇なの?」


 焦っているマーリンを肘で突いていたケイは、佐和の不躾な質問に怒ることもなく笑った。


「サワー。ここはサワーも照れる所だろ?」

「私、ケイの軽口には付き合わないことにしてるから」

「それ、本人に言っちゃう?」


 マーリンは素直だから否定するのに一生懸命だが、佐和はこの手の人間の軽口には軽口で返す事にしている。もし仮にケイに「もう!ラッブラブー!」とか(はや)し立てられても、「そうでしょ、いいでしょ」と返すだけだ。


「それで、何か俺たちに用?」

「いや、別にー。おしゃべりしに来ただけー」


 どこか不満げなマーリンをつつくのをやめたケイは本当に話に来ただけらしく、佐和達が武器庫にアーサーの鎧をしまうのを見届けてから話し出した。


「どう?最近」

「どうも何もない」


 マーリンの言う事も最もである。特に変わりなく、アーサーのわがままに付き合っているだけだ。

 一体、いつになったら海音を救い出せるやら、気が遠い……。

 あの杖は、佐和にマーリンを導けと言った。そして、マーリンはアーサーを導き、アーサーはこの世界を新たな時代に導くと。それが成された時、佐和は運命から祝福を受け、願いを一つ、何でも叶える事が出来る。途方もない話に思えるけれど、それにすがるしか佐和にはなす術がない。

 待ってよ……今まで、深く考える余裕なかったけど、それってどうなったらゴールなわけ?

 とりあえずマーリンとアーサーは出会った。スタートラインには立ったわけだ。ただ、どうすれば海音を救える。つまり、導き終わった結果になるのだろうか?

 やっぱり、アーサーが王様になったらって事だよね?でもそれって、いつになるわけ……!?

 そこまで考えて初めて、気が遠くなるほど道のりが恐ろしく長い事に気が付いた。


「ケイ!!アーサーってどうやったら王様になれるの!?」

「うおっ、なんだ?藪から棒に」


 マーリンと談笑していたケイに掴みかかる勢いで佐和は疑問をぶつけた。

 この質問をするのにこんなにベストな相手はいない。ケイなら王位継承なんかについても詳しいはずだ。

 佐和の勢いに気圧されたマーリンも小さく口をぽかんと開けている。


「いくつかあるけど……、今の所は陛下がご健勝だからなー。まだ当分先の話……」

「方法教えてくれるだけでいいからー!!」


 せめてそれがわかっていれば、希望が持てる。それらしき出来事が起これば、海音が生き返る目印だとわかるだけで心持ちが全然違う。

 ケイは唐突な佐和の疑問を怪しむこともなく、教えてくれることにしたらしい。指を一本立て、説明を始めた。


「そうだなー。まずは、一、陛下がアーサーに王位を譲ると決めて、譲る」

「ふむふむ。それってあり得る?」

「しばらくは無いな。陛下はご健康体そのものだし。衰えてもいないから」

「他には?」


 ケイは一本立てていた指を二本に変えた。


「二、陛下が急なご不幸で亡くなる。陛下にご子息はアーサーしかいないから、自然な流れなら次の王はアーサーだ」


 可能性は無きにしも非ず、だ。ウーサーが恨まれているのは王宮に勤め始めてから幾度となく感じている。

 だが、それを願うのは本意ではない。ウーサーは気に食わない性格ではあるけれど、だからといって死ねとは思わない。


「これが普通の王位継承法」

「遠いぃ……」


 頭を抱えた佐和の横でマーリンが首を傾げた。


「普通って事は、普通じゃない継承方法もあるのか?」


 思いがけない指摘に佐和は抱えていた頭を放した。


「まあな。まあ、有り得ないけど」

「何?何?何?」

「やたら食いついてくるねー、サワー。最後、三、カリバーンを持ち帰る」

「カリバーンって何?マーリン、知ってる?」


 聞き覚えのない単語に佐和は眉をひそめた。


「知ってる。でも、それっておとぎ話じゃ……?」

「おとぎ話?」

「……よく、先生が寝物語で話してくれたんだ。神様が争い続ける人間を止めるために、偉大な王様が人々を導けるよう、カリバーンという剣を授けたって。カリバーンは普段は石の台座に刺さってて、どんな力持ちでも抜けない。でも、王様にふさわしい人物だけはカリバーンを抜ける。それを抜いた王様は人々を幸せにするっていう言い伝えだ」


 佐和ですら聞いたことがある。それはアーサー王伝説の一番の名場面だ。確か、私が昔見たアニメだと、おじいさんの魔法使いマーリンに王とは何か教えてもらったアーサーがふとしたきっかけで協会に刺さった王様の剣を抜いちゃうって話だったよね。

 ……やっぱり、あのアーサーは伝説のアーサー王なんだ……。

 まあ、私が見たアニメのアーサーはもっと心優しい少年だった気がするけど。


「んー。全部、実話ってわけじゃないんだけど、かなり近い。カリバーンは魔を払う力を持った聖剣で、異民族が攻め込んできた時、とある力の強い魔法使いが創ったらしい。ただ巨大すぎる力は(わざわい)を招きかねない。そこで、その魔法使いは剣に制約を付けたんだと」

「……どんな制約だ?」

「王にふさわしい人物のみがカリバーンを扱える。それで魔法使いはエリス山っていう聖域の山の協会の台座にカリバーンを刺した。当時の諸侯は最後の希望としてカリバーンにすがった。だけど、抜けたのはただ一人だった。それがウーサー国王陛下だ。だから、最終的に王を決める時に陛下が選ばれたし、諸侯も納得したんだ」

「え?じゃあ、その剣、今も陛下が持ってるんじゃないの?」


 権力の象徴であるその剣をウーサーが手放すとは到底思えない。リーダーの証でもあるのだから余計だ。


「そこから先、詳しいことはわからないんだけど、カリバーンは今、陛下の手元ではなく、エリス山の協会の台座に鎮座している。噂だと盗まれたらしいけど……。とにかく、それを持ちかえれば、今一度、諸侯は抜いた人間に膝をつかざるを得ない。俺は直接見た事が無いからわからないけれど、当時のカリバーンの威力はそれぐらいすごかったらしい」

「もしかして……今、陛下から諸侯の気持ちが離れてるのって、それも影響してる?」


 周りには誰もいないが、佐和は声を潜めた。

 カリバーンの力に恐れをなして従っていたということは、逆にカリバーンの無いウーサーに対する不満は抑えが効かないということだ。


「その通り。カリバーンは抑止力でもあったらしい。だから、アーサーがカリバーンをもし抜く事ができたら諸侯はおろか、陛下もアーサーを認めるしかなくなるだろうな」

「なるほど……でも、何でそれがありえない方法なの?」


 話だけ聞けばエリス山という所に行って剣を抜くだけの話がどうしてありえないのか不思議だ。


「今、ボーディガン卿の面倒みてるんだよな?二人とも」

「どこからそんな情報仕入れたんだ?」


 佐和もマーリンもぎょっとした。ついさっき決まったばかりのことをどうしてケイが知っているのか。


「友達はたくさん作っとくといいぞー。ま、それは置いといて。そのボーディガン卿が実は問題でな」

「どういうこと?」

「カリバーンのあるエリス山はボーディガン卿の領地なんだよ」

「そうなの?」

「それほど大事な剣がある場所をどうして追放された人間の領地のままにしているんだ?」


 マーリンの疑問は最もだ。


「正確に言うと、エリス山は聖域とされていて、キャメロットの掟で不可侵領域だったんだ。だけど、ボーディガン卿が追放される直前、戦争のどさくさに紛れてエリス山を占拠して自分の領地にした。実質はボーディガン卿の領地になっている。けれど、キャメロットの掟上、不可侵領域であるエリス山に陛下は兵を差し向けることができない。だから、陛下は未だにカリバーンを取り戻す事ができずにいるんだ。これはアーサーにも同じ事が言える。もし、アーサーがカリバーンを手に入れようと思ったら、キャメロットの掟を破るしかない」

「それじゃ、無理だね……」


 もし、かろうじてカリバーンが手に入ったとしても、法に五月蠅いウーサーがそれを認めるとは思えないし、そもそもアーサー自身も嫌がるやり方だろう。


「だが……今ならボーディガン卿を倒せるんじゃないか?王宮に出てきてるわけだし」

「マーリンの言う通りやれない事は無いけれど、遺恨は残るな。他の諸侯が不満を爆発させかねない」


 王宮に陛下に謝罪に来たら、切られた。なんてことになれば確かにウーサーの権威は地に落ちる。

 その時、遠くから人が近づいてくる気配に全員口をつぐんだ。侍従が二人こちらに向かって歩いてきている。


「じゃ、俺はここで」

「あ、ケイ。待って、まだ聞きたい事が……行っちゃった……」


 軽く片手をあげて颯爽と城の中に消えて行ったケイを見送った佐和は途方に暮れた。

 やっぱり道のりはそう簡単ではないらしい。




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