記憶持ちのオートマータ2
短いです。
私はオートマトンである。
生まれて1ヵ月が経つが、未だ名はない。
魔法が使えるオートマトンである私は、プロトタイプの第1号機である。
元来、自動人形といえば家庭用か戦争用、または暗殺用の3つのタイプがあった。
どれも従来のものは人の模倣をするか、機械ならではでその能力を特化させたものだけ。
一番最初のオートマータが生み出されてから100余年。
私は、魔法が発達した世界の中、初の試みで生み出された、魔法も使える自動人形だ。
当然従来型の上を行く最新型である。
データをインプットすれば、家事も育児も暗殺も戦争もお手の物だ。
そして私には、さまざまな分野の知識がこれでもかと詰め込まれている。
そこは、私を発明したチームのメンバーが、それぞれの得意分野を先を争うかのように登録したせいで、馬鹿みたいに分厚い百科事典を100冊ほど突っ込んだくらいになっているらしい。
らしい、というのは私自身はそれがどれほど大変なことなのか判別が出来ないからだ。
比べる対象がないせいで、私は己がどれほどのことが出来るものなのかわからない。
機械のくせにというなかれ。
オートマータである私は、かつて人間であった。
ただし、こことはまた別の、魔法のない世界で生きていたただの人間であった。
何の因果か死んだあと次の瞬間には、この機械の体の中で目が覚めた。
死んだという認識や過去の記憶はほとんど持ち合わせていない。
目を覚ました私が見たのは、こちらを見つめてくる見知らぬの人間たちだった。
誰も彼もが楽しげに瞳を輝かせていて、無性に居心地が悪い思いをしたことを覚えている。
わけがわからぬまま見つめ返していると、集団の中から1人の男が進み出て、こう言った。
『おはよう、プロトタイプ1号。今日から君はイチと呼ぼう』
それが、アディル・リー。
私を作ったチームの主導者であり、魔法機械学の第一人者であり、たった一人の私のご主人様である。