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ケース2・勇者の生き方

ケース2・勇者の生き方



ある日突然、俺は、没落貴族の跡取り息子から、“勇者”になった。


        *


彼は、地上の大部分を統括する王国の貴族であった。

しかし、貴族とは言っても、没落寸前の貧乏貴族。生活は、下手をするとそこいらの農民よりもひどい、まさに極貧生活である。

いわゆる、国から“どうでもいい”とされる、部類だった。

「喜べ、息子よ。お前にいまだかつてない程の大役が、陛下より直々に承った」

「へー。そりゃ、スゲェや」

いまだかつてない程、目を爛々と輝かせた父親とは対象に、息子には全くやる気が感じられなかった。

落ちぶれ貴族のお先真っ暗な跡継ぎを地で行く、まさに夢も希望もない息子であった。

が、そんな息子の様子を知ってか知らずかさらりとスルーし、親父は威厳たっぷりにこう言った。

「お前は、“第一次・最近天変地異も何もなくて超暇だし、ってゆーか、そんな事したら、回りからのブーイングが激しいから、とりあえず、被害の少ないイベント・そろそろ行っとく?大トリ、勇者一人が挑む魔王退治、大☆作☆戦!”の主役である、な、な、なんと!」

既に引き気味の息子を前に親父の勢いはさらにヒートアップをみせた。

もはや、彼を止める事ができるものは、誰もいなかった。まさに、神をも超えるパワーである。

「まさか、勇者に選ばれたなんていうんじゃないだろうな、クソ親父」

「馬鹿者ーッ!!父のセリフを奪う息子があるかーッ!」

親父は、涙を流しながら息子を怒鳴りつけた。

しかし、当の本人の息子は冷めたもの。ぴしゃりと、たった一言で片付けた。

「ありえねぇし」

息子は、少し伸ばした小指の爪で鼻をかき、はんっと笑った。

「ってゆーか、ぜってぇ行かねぇ」

「何を言うかッ!この親不幸者ーッ!!」

暑すぎる親父に息子は冷えきった目線を投げかける。

すでに、親父の暴走を止める気力もないらしい。

「お前がこの話を断ったが最後!我が家に未来はない!」

「すでにないだろ。今にもつぶれそうだぞ、この家」

親父の怒声で、と暗に匂わせる息子。

が、残念ながら親父にはその攻撃は通用しなかった。

親父は、無敵だったのだ。

「確かにそうだが・・・・・・これはそう言う意味ではないのだ!家名取りあげの上、下手したらこのワシの首がとぶッ!!」

「いいね、それ。座布団一枚」

息子は、ツッコミも投げやりだった。

と、言うより、勇者云々の話も信じてないようだ。

「愚か者め!これが証拠の書状だァー!!」

親父は、息子の顔にたたきつけるように、手に持っていた紙をひろげた。

息子は、あくびをかきながら、実に面倒臭そうに、目の前の文字をおった。

「・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

息子の動きが、文末の王のサインと王印を見た瞬間とまった。

そして、滝のような汗をかきはじめた。

「ありえねぇーッ!!!」

息子は、頭をバリバリかきながら、あらん限りの大声で叫んだ。

「ありえねぇ!マジありえねぇ!っていうか、アホか!」

息子は、頭を抱えてうずくまった。

いっぱいいっぱいになっていた。

「何がとりあえずだ!ありえねぇし!つか、題長げぇっつーの!って言うか!って言うか、やつら、今にも崩壊寸前没落貴族の息子で、死んでも特に問題ないからって、俺を選びやがった!ぜってぇそうだ!間違いねぇ!こう言うのって普通、王子様が行くんじゃないのかよ!?定番だろ!!?」

息子が、落ちこみ、この先の人生に落胆していると、親父は、がっと息子の肩をつかみ、涙ながらに語った。

「何を言うか、息子よ!いくら貧乏貴族と言えど我が家は名門!ましてやお前は跡取り息子!いくら世界の為とはいえど、なぜおめおめ可愛い息子を激地へとむかわせようか!」

「親父・・・!」

息子は、希望のまなざしをもって親父を見つめた。

息子が最初で最後、親父を尊敬の目で見た瞬間。感動の場面である。

「しかし、陛下がこのワシなどに頭を下げてまで頼みこまれては、いくらなんでも否とは言えん!誇り高き名が泣くと言うもの!ここは、世の為人の為、ひいては、我が家の財政・・・いやいや、未来の為、ワシは泣く泣く是と・・・・・」

「黙れこの腐れ親父!!」

スパーン、と小気味よい音が響いた。

息子は、自らのすり切れた靴を握りしめ、さけんだ。

「用は、金に目がくらんで息子を売ったって事じゃねぇか!それが親のする事か!!」

「仕方ないじゃろうが!ワシだって人生一度くらい旨いもん腹いっぱい食べたいわ!」

親父は力一杯叫んだ。

もう、滅茶苦茶である。

「開きなおるなー!!」

息子は再び親父を靴で殴った。

「!」

「!!」

激しい息づかいの中、しばらくにらみ合いが続く。

「・・・・」

「・・・・・・はぁ」

しかし、以外にもその緊迫した空気を破ったのは息子であった。

「すでに決まっちまったモンは仕方ねぇ。俺も腹をくくるか。まぁ、ここは恩を売っとくのも悪くねぇ」

「息子よ・・・・・!」

親父は、感動のあまり、息子を抱きしめようと腕をひろげた。

「近づくんじゃねぇ」

が、再び息子の靴の餌食となる。

息子は、一息つき腕を組んでいった。

「・・・・・まさか、お偉いさんも、生身の人間があの規格外の化け物とすぐに戦えっていうんじゃないだろうな」

親父は、赤くなった頭をさする手を止め、落ち着きはらっていった。

「うむ。その事なのだが」

親父は懐から一枚の紙を取り出した。

「地図、か」

「うむ」

親父は、地図を広げ、小さくバツが書いてあるところを指差した。

「この森には古くから精霊が住むといわれておる。まずはここにむかい、彼らに助言を求めるのが上策であろう」

「本当にいるんだろうな、精霊なんて」

息子は頭をかいた。

やけくそなのだろう。

「いる」

自信たっぷりの親父の言葉にうなずき、息子は大きく伸びをした。

「うーん。やるしかねぇか」

薄暗い部屋には、どこからか風がはいってくる。

それは、庭に咲く甘い花の香りを運び、そして、新たに生まれた勇者の背を押した。

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