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異世界転生したけどスキルが「他人の好感度が見れる」でした。

作者: ねこラシ

 気がついたら、俺は見知らぬ森の中に立っていた。

トラックに轢かれた記憶はない。階段から落ちた覚えもない。ただ、会社から帰る途中でコンビニに寄って、肉まんを買おうとした瞬間——意識が途切れた。そして次に目を開けたら、ここだ。


 「……マジかよ」


 目の前には青々とした巨木が立ち並び、聞いたこともない鳥の鳴き声が響いている。服装は見慣れた作業着のままだが、空気が違う。匂いが、音が、すべてが日本じゃない。

 そして、視界の端に——浮かんでいた。


 【ユニークスキル:好感度表示】

 他者の自分への好感度を数値で確認できます。

 ※戦闘能力はありません

 

 「……は?」


 思わず声が出た。異世界転生といえば、チート能力だろう。最強魔法とか、無限スキルとか、そういうやつだろう。なのに好感度表示って。しかも「戦闘能力はありません」って、わざわざ念押しされてる。

ガサッと音がして、俺は反射的に振り向いた。


 森の奥から、一人の少女が現れた。銀色の髪に、pointed earsがある。エルフだ。間違いなくエルフだ。彼女は警戒した様子で俺を見つめ、腰に下げた短剣に手をかけている。

そして、彼女の頭上に——数字が浮かんだ。


 【好感度:-15】


 マイナスかよ。


 「何者だ。この森に人間が来るはずがない」


少女は流暢な日本語……いや、違う。彼女はエルフ語を話しているのに、俺には日本語に聞こえている。異世界転生テンプレの言語理解スキルか。


 「えっと、その……俺も状況がよくわかってなくて」


 【好感度:-12】


 おっ、少し上がった。とりあえず敵意がないことは伝わったらしい。


 「記憶喪失か?」


 「まあ、そんな感じです」

 

 嘘じゃない。異世界に飛ばされた経緯の記憶はないんだから。


 【好感度:-8】


 彼女は短剣から手を離し、少しだけ表情を緩めた。


 「……ついてこい。村長に話を聞いてもらう」


 こうして、俺は彼女——後で聞いたらリーナという名前だった——に連れられて、エルフの村へと向かった。

  


 ◇◆◇◆◇◆◇◆



 村は思ったより小さかった。木々の間に点在する家屋は二十軒ほどで、住民も多くはなさそうだ。だが、その美しさは息を呑むほどだった。建物は全て生きた木を加工したもので、自然と調和している。

 村人たちが次々と俺を見る。そして、全員の頭上に数字が浮かぶ。


 【好感度:-25】


 【好感度:-18】


 【好感度:-32】


 全員マイナスだ。まあ、見知らぬ人間が村に来たら警戒するのは当然か。村長は白髭を蓄えた老エルフだった。彼の好感度は【-5】と意外と低くない。


 「ふむ……記憶を失った人間の若者か」


 「実は、最近この森に魔物が増えてな。人手が足りておらん。お前、しばらくこの村で働く気はあるか? 代わりに住む場所と食事を提供しよう」


 【好感度:-3】


 おっ、また上がった。なんだ、意外と簡単に上がるな。100なんて余裕かもな。


 「はい、ぜひお願いします」


 【好感度:+2】


 初めてのプラスだ。村長は満足そうに頷いた。

 

 「よろしい。リーナ、この若者に仕事を教えてやってくれ」


 「……わかりました」


 リーナの好感度は【-5】まで回復していた。最初の-15から考えれば、だいぶマシだ。


  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから二週間が過ぎた。

 俺の仕事は主に雑用だった。薪割り、水汲み、畑仕事。戦闘スキルがないから、魔物退治には参加できない。だが、この好感度表示スキルが予想外に役立った。


 例えば、村の若いエルフ——トーマという男がいる。彼は最初、俺への好感度が【-28】だった。明らかに人間を嫌っている。だが、彼が薪割りをしているときに様子がおかしいことに気づいた。好感度表示の数字が揺らいでいたのだ。


 「トーマ、腕痛めてるのか?」


「……別に」


【好感度:-28→-24】


図星だ。数字が反応した。俺の前では嘘は嘘で無くなる。好感度の上げ下げで見破れるからな。



 「無理すんなよ。俺が代わるから」


 「……人間が、俺たちエルフの仕事を?」


 「仕事に人間もエルフもないだろ」


 俺はそう言って、斧を受け取った。トーマは複雑な表情で俺を見ていたが、やがて小さく頷いた。


 【好感度:-24→-10】


 一気に上がった。

 こんな調子で、俺は村人たちの好感度を少しずつ上げていった。誰が何に困っているか、何を求めているか。普通なら気づけないような小さな変化も、好感度の揺らぎで察知できる。

 そしてある日、村に緊急事態が起こった。


 「魔物だ! 大量の魔物が村を襲ってくる!」


見張りのエルフが叫んだ。村人たちが武器を手に取る。だが、俺には戦闘スキルがない。足手まといになるだけだ。


 「人間! お前は避難所にいろ!」


 リーナが叫ぶ。彼女の好感度は今【+18】まで上がっていた。心配してくれているのがわかる。

だが、俺は避難所には向かわなかった。

 村の防衛で一番重要なのは、連携だ。そして、この村の戦士たちには問題があった。村長の息子であるエルダと、リーナの幼馴染であるカイン。この二人は犬猿の仲で、いつも衝突していた。


 【エルダの好感度(対カイン):-45】


 【カインの好感度(対エルダ):-38】


 俺の好感度表示は、自分に対するものだけじゃなかった。集中すれば、他人同士の好感度も見えることに気づいていたのだ。


 「エルダ! 右翼はお前に任せる! カイン、左翼だ!」


 村長が指示を出すが、二人は互いに牽制し合っている。これじゃ防衛ラインが崩れる。俺は駆け出した。


 「エルダ! カインが魔物を引きつけてる間に、右から回り込め!」


 「人間が指示するな!」


 【好感度(対俺):+12】


 言葉とは裏腹に、好感度が上がった。つまり、悪くない作戦だと思っているんだ。


 「カイン! エルダが突破したら、すぐに合流しろ! 二人同時に攻撃すれば、大型の魔物も倒せる!」


 「……わかった!」


 【好感度(対俺):+8】


 二人は俺の指示に従って動いた。エルダが右から回り込み、カインが正面で魔物を引きつける。そして——


 「今だ!」


 俺が叫ぶと同時に、二人の攻撃が大型魔物に叩き込まれた。魔物は嫌な悲鳴を上げて倒れる。


 【エルダの好感度(対カイン):-45→-38】


 【カインの好感度(対エルダ):-38→-30】


 互いの好感度が上がった。完璧な連携を見せたことで、少しだけ認め合ったんだ。

 その後も俺は戦場を駆け回り、戦士たちに指示を出し続けた。誰と誰を組ませれば効率がいいか、誰が疲れていて交代が必要か。好感度の揺らぎを見れば、すべてわかる。

 戦いは夕暮れまで続き——ついに、最後の魔物が倒された。

 村人たちは歓声を上げた。そして、俺の方を見る。

 

 【リーナの好感度:+18→+45】


 【村長の好感度:+2→+38】


 【トーマの好感度:-10→+22】


 【エルダの好感度:+12→+35】


 【カインの好感度:+8→+29】


 と、好感度が一気に跳ね上がった。みんな、笑顔で俺を見ている。


 「お前……戦えないのに、なんであんなに的確な指示が出せるんだ?」


 リーナが不思議そうに聞いてきた。


 「わかるんだよ。人の気持ちが」


 それは嘘じゃない。好感度が見えるということは、その人が何を感じているか、何を求めているかが見えるということだ。

 村長が俺の肩に手を置いた。


 「お前は戦士ではない。だが、指揮官としての才能がある。これからも、この村にいてくれるか?」


 【好感度:+38→+52】


 「はい。俺でよければ」


俺はそう答えた。



  ◇◆◇◆◇◆◇◆


 それから三ヶ月が経った。

 村はすっかり平和を取り戻し、俺は正式に村の一員として認められた。エルダとカインは今では親友のように仲が良く、トーマは俺に剣の使い方を教えてくれるようになった。

 そして、リーナ。


 彼女の好感度は今【+78】だ。


 「なあ、お前……もしかして、特別なスキルを持ってるのか?」



 「まあ、ね」


 「どんなスキル?」


 「秘密だよ」


 【好感度:+78→+80】


 「いつか教えてくれよ」


 「そのうちな」


 俺のスキルは戦闘能力ゼロだ。魔法も使えないし、怪力でもない。ただ、人の気持ちが数字で見えるだけ。

 でも、それで十分だった。

 人と人を繋ぐこと。誰かの気持ちに寄り添うこと。それが俺にできることで——それが、俺がこの異世界で生きていく道なんだと、今ならわかる。

 俺は空を見上げた。青い空に、白い雲が流れている。


 「この世界も、悪くないな」


 そう呟いた俺の言葉に、リーナの好感度がまた一つ上がった。

ねこラシです!

他にも数多くの短編、連載作品を投稿しているのでぜひ見ていってください!

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