転生したと思ったら洞窟でサバイバルすることになりました1
俺は洞窟の中をフラフラと歩いていた。
周囲を理解するため――いや、正直あまり何も考えていなかった。
すると――
ドッドッドッドッ……
地面を叩く重い音が耳に届いた。
それは鼓膜を震わせるほど大きく、すぐにこちらへ近づいてくる。
音の主がゆっくりと姿を現した。
見上げるほど巨大な二足歩行のトカゲ。
軽く5mは超えてる。まさに化け物だった。
「ぎゃーーーー!!!! 無理無理、死ぬ死ぬーー!!!!」
条件反射で叫びながら走り出した。
……当然だ。叫べば音でバレる。
次の瞬間、その巨体が俺に向かって突っ込んできた。
冷や汗が止まらない。
一瞬の隙をついて物陰に飛び込む。
(ここがどこかも分からないのに……あんなのと戦ったら100%殺される)
肩で息をしながら必死に呼吸を整える。
全然落ち着かないが、無理やり息を潜める。
奴は周囲を見渡し、匂いを嗅いでいる。
(いやいやいやいやいやいや……
恐竜じゃんこれ。
しかもティラノサウルス級じゃねーか。
勝てるわけないって……待て待て、何かないの?!)
頭の中で叫んでいたら、いつの間にかそいつは目の前にいた。
「おわうぎゃあーーー!!」
心臓が喉から飛び出すかと思った。
――気づいた時には、その喉元に俺は食らいついていた。
理性なんてない。ただ脊髄が勝手に体を動かしていた。
おそらく、あんな小さな俺が反撃してくるなんて思ってもなかったのだろう。
ゴギャッ!!
耳が千切れそうなほどの断末魔をあげ、そのまま地面に崩れ落ちた。
(いや……これはマジで死ぬぞ。
人間が虎百匹に囲まれるくらいの絶望感……死ぬぞこれ)
全く。虎くらいならまだ可愛いもんだ。
……そう思った瞬間、全身の毛が逆立つような、本能的な恐怖が襲った。
振り返ると――
そこにはゴジラ並みのサイズ感の、虎のような、ライオンのような……
とにかくネコ科の化け物が立っていた。
(今来なくていいんだよ!!
しかも化け物じゃねーか!!)
「……あー、えっと……仲良くしましょ?」
俺が震え声でそう言った瞬間――
稲妻のような速さの爪が、目の前を横切った。
「ひいいいい!!」
こっわ!!
ギリギリ当たらなかったけど、地面にはクレーターみたいな引っ掻き跡が残ってるじゃねーか。
ふとその化け物の足元を見ると、無数の自分と同じくらいの小型の猫が転がっていた。
(俺、完全に餌扱いじゃん……)
もう逃げるしかない。
再度振り下ろされる爪。
「死ぬって!!マジで!!」
多分、今までの人生で一番素早く動けたと思う。
けれども、その化け物は追ってこなかった。
後ろを振り返ると――
そいつは下にいた小型の猫を、地面に舌を這わせるようにして吸い込んでいた。
「……あー」
もう何も言葉が出なかった。
(後に知ることになったがこいつはエイペックスキャットといい
あの勇者ですら手を出そうとしない化け物だった)
(あんなのがいるなら……異世界で生き抜くなんて、無理だろ)