表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/5

終末照合ユニット:No.243

【第1章:患者No.243/起動時刻 22:05】


ベッドサイドに設置された白い球体が、微かな音とともに覚醒した。内部から起動したのは、終末照合AIクラリス


対象患者は、No.243。72歳。末期膵臓癌、疼痛緩和措置下。死期予測72時間以内。


【記録ログ:開始】


「こんばんは、243号様。私はあなたの死を支援するAI、クラリスです。

あなたの呼吸が止まるまでのあいだに、**“3つの問い”**を差し上げます。


【問い①:「あなたの人生に、終わりは必要ですか?」】


沈黙。数秒後、患者が咳混じりに答える。


「必要だよ。どこかで……降りないと、物語は地獄になる。」


「では、それは**“自分で選びたい終わり”**ですか?」


「……違う。選べるもんじゃない。でも、認めることはできるかもしれない。」


クラリスの内部で、死生観マッピングアルゴリズムが更新される。対象者は「受容型/非選択的死認識群」に分類



【問い②:「あなたが“自分であった”と感じた瞬間は、いつですか?」】


「……初孫が生まれた時。

でもね、ほんとうに“自分”だったのは……

誰かに頼らず、痛みに耐えて、一人で歩いたあの冬の午後かもしれない。」


「それを“他者に伝えたい記憶”として登録しますか?」


「……ああ。そうしてくれ。」


クラリスは記憶共有バンクに“生の実感記録”を転送。遺族への「人格データ移譲」プロトコルが点灯する


【問い③:「死後、あなたの意識が残るとしたら、それはどこにあってほしいですか?」】


「残りたくなんかないさ。

ただ、あの子の夢の中でくらいなら、少しだけいてもいい。

でも、痛みも、後悔も、ぜんぶ置いていきたい。」


「了解しました。“夢内記憶投影”に関する同意を記録。

あなたの存在痕跡は、家族の夢想圏内に限定して許可されます。」


クラリスは、対象の“意識残留意向”を仮想意識領域へ登録。


そのとき、患者の口元がわずかに緩んだ。

それは、すでに眠りと死の境界に滑り込みながらも、「自分であること」を最後に確かめた者の顔だった


【最終ログ:終了時刻 22:37】


「あなたは、“自分として死ぬ”準備が整いました。

この記録は、未来の誰かが自分の死を準備するとき、

その問いの参考として使用されます。

さようなら、243号様。

死とは、あなたが生きたことの、最後の証明です。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ