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第2話 魔法

本日中にもう一話更新します。

 翌日、起きて小屋の外に出てみると魔法使いのお姉さんがいた。


「おはよう。今日から魔法を覚えてもらうけれど、その前に朝食を取らなきゃね。マルファルファを用意したんだけどそれでいい?」

「まるふぁるふぁ?」

「うーん、わからないか。これなんだけど」


 見せてくれたのは、サンドイッチのような物だった。但しパンはペタンコだからパニーニっぽい感じがする。中にはクリームとチーズに包まれたお肉が入っていてクロック・ムッシュのようでもある。これは悪くない。食欲をそそられる。


「美味しそうですね」

「自信ないんだけど……。あっ、レマルトーレの果汁が合うと思うわ。今、持ってくる」


 彼女は走って家の中に入るとすぐにコップに入ったジュースのようなものと奇妙な果実を持ってきた。


「ええーっ、と……。知らないみたいだからレマルトーレを持ってきたわ。この果汁はこれを絞ったものなの」


 見た目は瓢箪みたいな感じ。堅い殻に包まれているけど、形はリンゴや桃、梨のような普通の丸い果物と同じ。

 彼女は下に小さなナベを置き、その上にざるをセットし、レマルトーレをぱかっとふたつに割った。すると中はブドウのような皮に包まれたぷるんぷるんの果物が現れた。確かににこれは美味しそうだ………と思った途端、はじけた。


「キャッ……あー、ちょっとこぼれちゃった。うわー、染みになってるーー」


 皮は破けやすいらしい。果汁は十分に取れたのだが、はねた果汁が彼女の自慢のマントに飛んでしまった。


「大丈夫?」

「あっ、うん。平気平気。それよりマルファルファを食べてみて。レマルトーレとも合うはずだから」


 僕はうなづいて、そのぺたんこサンドイッチをパクついた。思ったよりも濃厚なソースがたまらない。パンもどっしりとしていてこれ一個で十分お腹は満たされそうだ。そして、このジュース。ものすごく美味い! 爽やかぁ、って感じで炭酸でも入っているんじゃないかとも思うけど、後味が全然違う。


「おいしい。こんなの食べたのは初めてだよ」

「やっぱりね。君が異世界から来た、ってことが改めてわかった気がする。これは少しだけ高級だけど、この世界では誰でも食べたことがあるはずだから………。でも、嬉しいわ。美味しいって言ってくれて」


 どうやら単に朝ごはんを持ってきてくれただけではなかったらしい。試されるのは嫌だけれど、僕のことをいろいろ考えてくれているみたいだから、何も言わないでおくことにした。



 食事が終わったら、早速魔法のトレーニングになった。

 最初は光魔法の『ライト』からだった。生活魔法で夜に出歩いたり、本を読むのにぴったりの魔法であるらしい。なぜ僕に向いている火魔法ではなく光魔法を最初に教えるのかというと、出力の問題があるからなのだそうだ。火魔法への適性が高い僕が最初に『ファイアーボール』を唱えた場合、暴発して大事故が起こる可能性があるらしい。そこで、最初は光魔法の『ライト』、旅をするときに必須の水魔法『ウォーター』を経て火魔法を教えてくれるらしい。


「それじゃあ『ライト』から。右手に杖を持って。左手は私と繋いで」


 杖は昨日、樫の木を削ったものに魔石を取り付けて作った初心者向けのものなのだそうだ。僕はそれを右手に持ち、左手を彼女の右手と繋いだ。


「それじゃあ、魔力を流すから感じ取れたら教えて」

「うん」


 彼女の右手は少し冷たかったが、握っていると不思議な暖かさが流れてきた。でも彼女の手の温度が変わったわけではなく何とも不思議な感じがする。


「なんか暖かいものが手から伝わってくる感じがする」

「そう。それが魔力の流れよ。それがわかったら、今度はあなたが右手の杖にそれを流すイメージを練習するのよ」


 彼女は僕から手を離して「やってみて」と言った。

 僕は右手に持った杖に魔力を流してみた。彼女に魔力の流れを教わると、自分にもそれと同じものが体にあることがわかったのでそれを動かすようにするのは簡単だった。

 杖の魔石がほのかに光り出した。


「これが『ライト』?」

「ううん。これは杖が励起状態になっただけ。これだけ準備ができれば大丈夫。あとは光をイメージしながら『ライト』って唱えてみて」


 僕は言われた通り、右手に流れる魔力に意識を集中しながら光をイメージして呪文を唱えた。


「『ライト』」


 杖を一瞬ピカッと光って、すぐに消えた。一応成功したのかな?

 でも、これじゃあ夜に本を読むには向かないと思う。どちらかというとカメラのフラッシュみたいだ。


「ちゃんとできたじゃない」

「でもこれじゃあ夜に本なんか読めないよ」

「それはあなたのイメージが光を一気に開放する感じだったからよ。月の光みたいにずっと光続けるイメージにすれば大丈夫よ」


 僕はもう一度挑戦し、1分ぐらい杖を光らすことができた。時間を伸ばしたり、光量を調節したりは後で練習すればどうにでもなると聞いたので、水魔法の『ウォーター』を教わりそれも見事クリア。

 いよいよ火魔法の『ファイアー』を教えてもらうことになった。


「最初は『ファイアーボール』を教える、って言ってたよね」

「ええ。でも『ライト』も『ウォーター』もあんなに簡単に発動させることができたんだもの。きっとあなたの魔力は思ったより多いのよ。だから、まずは竈門の種火に使うような『ファイアー』を先に覚えてもらうことにするわ。火魔法に適性があるからとにかく魔力を抑え気味に唱えないと危ないと思う。やり方は同じなので、火が燃えるイメージを持ちながら『ファイアー』と唱えればいいのだけれど……ちょっと待って。もしもの時のために準備するから………………いいわ」


 彼女は少し下がり杖に魔力を込めた。どうやら僕が火事を起こしたらすぐに消し止められるように水魔法を用意しているらしい。そんなに危険なのかな。まあ、いいや。とにかくやってみよう。少し控え目に小さな火をイメージして……。


「『ファイアー』」


 ボオォォウ


「うわっ」


 びっくりした。

 1mぐらいの火柱が上がり、3秒ぐらい経ってから消えた。杖の先端が少し焦げている。


「よかったわ。この程度で済んで……。やっぱり調整が必要みたいね。それまでは魔力抑制の指輪をするといいわ」



 そこで一旦、魔法の練習はおしまいになった。

 初めて僕は彼女の家に入った。そこで、彼女は火魔法の抑制用の指輪を作りながら僕にこの世界のことを教えてくれた……。とは言っても大半は、僕が向かうここから4時間のところにある町についてのことだったけど。

 そこには、貴族がいて大きな商店街があり住宅があり公園があり……要するに普通の町だと言うことだ。気をつけることは貴族の機嫌を損ねないこと。魔法が使えればいろんな雑用の仕事を受けることができるので、苦労はしないはずだと教えてくれた。


「これでOK、っと。試してみましょうか……。でも、念のため外に出ないとね」


 まだ、信用はないみたいだ。僕は彼女から指輪を受け取り右手の中指にはめた。


「ああ、念の為『ライト』で試してみて。指輪に意識を集中すると抑制が働いているのが認識できると思う」


 言われた通り意識を集中すると魔力の通り道を広くしたり狭くしたりできるのがわかる。あくまで感覚的なものだけれど、それはスイッチにも似ていて思いのままにONにしたりOFFにしたりできる。今は魔力を制限したいのでONにして呪文を唱える。


「『ライト』」


 豆粒みたいな灯りがついた。寝る時につける豆球みたいだ。

 お試しはうまく行ったので、次は外で『ファイアー』の練習だ。


「ねぇ。できれば杖から火を出すんじゃなくて、少し先……そうね。腕一本分くらい前から出すようにできないかな?」


 言いたいことはわかる。さっきはファイアーで杖を焦がしてしまったから。

 難しいけどとりあえずやってみよう。


「『ファイアー』」


 うまく行った。

 杖の前50cmに炎が浮かぶ。炎の高さは10cm強。15秒ほど燃えた後、魔力を絞ったところで静かに消えた。


「できた!」

「できちゃったわねぇ。今日はここまでにしましょう。明日は『ファイアーボール』を覚えてもらうから。今日の夕食は豪勢にしましょう」


 魔法使いのお姉さんは手を叩いて喜んでくれたけど、どこか寂しそうにも見えた。

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