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いたずらに頭に首に手が伸びる度に身体が強張る。
「可哀想。酷い扱いをしても家に戻るように躾けられて。戻っても君のお父様は喜ばないよ。」
「それでも私は帰りたいの。帰らないとわからない。あなたのような人に私の家族を語られたくない。」
首に這う指の感覚が呼び起こす恐怖を隠すように言い返す。
「本当に強情だね。だからかわいいんだけど。」
呟くような言葉と伸ばされた手が最後の記憶になった。
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「あの家、取り壊すらしいわよ。」
「あんな継げる人もいない気味の悪い家があったら村のためにならないわ。」
「男は皆殺し、女衆も一人残らず狂っちゃって、まぁ今までやってきたことが返ってきたんでしょ。」
「娘ちゃんがいなくなった時も、『あと7年だ〜』なんて大騒ぎしてたもの。あっこの旦那。」
噂好きの住人たちにとっては凄惨な事故事故も娯楽に過ぎない。
「狂って皆殺し、自分も死んじゃうなんてねぇ。女氏もおかしくなっちゃったんだから、やっぱどこかおかしい家だったんでしょ。あれは血筋か先祖のが返ってきたのよ。」
「やだえ〜、あんなに威張り散らしてお屋敷建ててもね〜」
悪意を隠すこともなく、女たちは続ける。
「高価なものがすっかりなくなっていたのは狂った旦那さんがやったらしいじゃない。」
「お屋敷の中は目も当てられない様だそうよ。でも女衆『綺麗〜』なんて言ってたらしいわ。」
「綺麗?……『綺麗な顔』って駐在さんは言ってたわよ。」
「そうだったかしらねぇ」
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ほのかに差し込む光が夢の世界から私を現実に戻す。もそりと上体を起こし、手元に視線を落とす。両手にべっとりと血がつき、爪にはよくわからない物体が引っかかっている。
「イヤッ!!!」
悲鳴をあげ、反射的に固く閉じた目を開けた時には長い爪も、手を染める血も消え、己の手があるだけだった。
「どうしたの、怖い夢でも見た?」
隣で眠っていた愛しい人を起こしてしまったようだ。心配そうな目を向けながら私を抱き寄せた。
「なんだかとても恐ろしいものを見た気がしたの。見間違えだったみたい。」
彼女に抱きしめられ、あやすように撫でられる。
「寝惚けているところもかわいいね。」
「怖いものが何かもわからないのに、不思議。なんだったのかな……」
「思い出さなくていいことは無理に思い出さなくていいよ。」
脳に霞みがかかったみたい。何かを考えようとしても強い眠気が思考を停止させる。
「おやすみ、幸せそうな顔をしていて。」




