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雪によって隔離された生活は案外暮らしやすい。食糧は備蓄があるようで普段の暮らしと変わらない。今までの仕事に追われる日々から離れた反動かぼんやりと外を見ているだけで1日が過ぎてゆく。しかし滞在させてもらっている身でくつろぎすぎるのも居心地が悪く、家事の手伝いを申し出た結果掃除を頼まれた。
(掃除の甲斐がなさすぎる……)
こんなに広い屋敷、さぞ掃除のしがいがあると思っていたというのに濡れ雑巾は黒く汚れるどころか髪の毛一つとらえることはなかった。これ以上綺麗にするのは与えられたものだけでは難しい。
(せめて換気はしたほうがいいかもしれない。雪で家に篭りっきりでは空気の入れ替えが普段より疎かになりがちだもの。)
いざ窓を開けようとしたところで、この家の窓ははめ殺しばかりなことに気がついた。窓の向こうは掃除をしている間にも雪が積もり続けている。
「あった!」
がちゃりと鍵を開ける。冷気に身を構えつつ開け放った窓の向こうにあったのはいつもの冬の山だった。カサカサと音を立てる葉は茶色く干からび、地面は落ちた葉に覆い尽くされている。この地域の乾燥し、雪など降らない冬にふさわしい景色が目の前に広がった。咄嗟に他の窓を見渡す。どこも銀世界が広がっているなか、この窓だけが見慣れた冬を映している。
「なに、これ。」
この状況を正しく説明できる現象が思いつかない。どう考えても人間にできる所業ではない。思えば全て奇妙だった。外観からは想像できない豪奢な家、あまりに清潔すぎて生活感のない部屋、真冬にあんな場所で私と出会う人間。噂好きばかりのこの田舎で話題にならずにいられるのだろうか。これ以上ここにいるべきではない。気づいた時には窓から飛び出していた。素足に突き刺さる枝の感覚も今はどうでもいい。ただ傾斜を下り続けた。
10分ほど走っただろうか。
(ある程度はあの家からも離れられたはず。)
一息つき、ふと下に目をやると足には無数の引っ掻き傷ができ、血が滲んでいた。アドレナリンのおかげで痛みは感じない。きっとこのまま走り続ければ麓に戻ることができる。はずだった。
「見つけた」
ここ数日私に唯一の話し相手だった人の声がした。つい数十秒前までここには私しかいなかったはずなのに、伊織さんが目の前に立っていた。端正な顔に笑顔を浮かべ一歩ずつこちらに迫ってくる。
「ご、ごめんなさい、違うの」
突然逃げ出そうとしたのだ、どんなことをされるかわからない。恐怖で立ちすくむ私を彼女はふわりと抱きしめた。
「よかった。突然出ていったから心配したんだ。」
フィーリングで書いているのでフィーリングで読んでください。




