第80話:ハルナ式人心掌握術
(こんなもんか)
『そうだね。これ以上は身体に悪影響が出ちゃうからね』
身体が欠損しないよう、丁重に五回ほど瀕死まで追い込んだら物言わぬ屍一歩手前になった。
途中で泣いていた様な気もするが、訓練は最初が肝心だ。
しっかりと身体に教え込まないといけない。
それにほんの一時間ほどの訓練だったが、追い込んだおかげか結構魔法の扱いが様になって来た。
流石に複数の魔法を同時に操るとまでは行かないが、同じ魔法を同時に使うなんて技を見せてくれた。
実戦はここまでにしておくとして、生き返ったら少し座学といこう。
「少し休憩としましょう。しばらく休んでください」
「……うぅ……」
返事の代わりに呻き声が漏れ出たので、俺もティータイムに入るとしよう。
リリアに見られないように魔法少女に変身し、木を加工してテーブルと椅子を作る。
それと、訓練用にちょっとしたものを作っておく。
ついでにコンロモドキを作り、変身を解いてからお湯を沸かす。
水やケトルは、アイテムボックスから取り出してある。
「いや~、中々のスパルタぶりだったね~」
「これでもちゃんと手加減していますよ。私の世界の様にシミュレーターとかあれば、もっと追い込むことが出来るんですがね」
「ハルちゃんの世界は本当に修羅の国だね~」
一時は夢も希望も無い世界だったから、修羅の国と言うのもあながち間違っていない。
実質、修羅と化した魔法少女も居たしな。
日本ランキング第三位だった魔法少女である、魔法少女桃童子。
味方を守るために単身で魔物に挑み、そして俺が殺した魔法少女だ。
人としては勿論、その生き様は凄まじく、俺が尊敬する人でもある。
魔法少女は強化フォームと呼ばれる、通常よりも遥かに強くなれる形態がある。
個人差はあるが、乗用車とスポーツカー位の差があり、正にチートと呼べる様な強さがある。
そして桃童子さんはとある事情により、強化フォームの更に上の形態になれたのだ。
副作用があるものの、正に修羅と呼ぶに相応しく、俺も本気で挑んだが一度負けてしまった。
あれは結構悔しかった。
懐かしい事を思い出している内に水が沸騰したので、コーヒーの用意をする。
「コーヒーを飲むんだ~。へ~」
そしてシルヴィーが距離を詰めてきて、自分の分もと強請ってくる。
こいつには飲ませたくないが、飲ませてやる代わりに少し働いてもらうとしよう。
「淹れてあげても良いですが、その代わりメイド長の部屋から、メイド服と下着を一セットお願いします」
今回リリアを鍛える際に使ったのはほとんど火の魔法であり、リリアが着ているのは何の変哲もない服だ。
何とか局部だけは守られているが、服ではなくただのボロ切れである。
あのまま帰すわけにもいかないので、服を工面する必要があったのだ。
「任せてよ~」
そう言い残し、シルヴィーは目の前で消える。
何の予備動作もなく、気配すら残さず。
やはり能力だけならば、シルヴィーは厄介だな。
コップを温めてからコーヒーを三杯淹れて、ついでに余り物のクッキーを出しておく。
「戻ったよ~」
「ご苦労様です。倒れているあれに渡してきて下さい」
「了解~」
ふらふらしながらシルヴィーは服を渡しに行く。
今の現場を他の人が見れば、俺は打ち首にされるかもな。
神を働かせるなんて、罰当たりなんてレベルではないからな。
「戻ったよ~」
「……」
直ぐにシルヴィーは帰ってきたが、後ろには怯えているリリアが居た。
エルフのメイド服……悪くないな。
これで器量が良ければ、そちら方面でも使えるかもしれないが、戦闘に特化しているみたいだし、無理だろう。
「ありがとうございました。二人とも座ってください」
シルヴィーが座ってからリリアはよそよそしく座り、俺を窺ってくる。
少しやり過ぎてしまったかな?
「少し休憩にしましょう。訓練はメリハリが大事ですからね」
「は、はい。あの……この黒い飲み物はなんですか?」
何故か敬語に変わってしまったが、生意気な態度よりは良いか。
「コーヒーと呼ばれる飲み物です。後程ニーアさんを通して店で売られる予定となっています。とても苦いので、一口飲んで駄目そうならミルクか砂糖を混ぜてみてください」
「そう……なのですか」
既にシルヴィーは、コーヒーを飲みながらクッキーを齧っている。
俺が言うのもなんだが、コーヒー好きすぎではないだろうか?
滅茶苦茶笑顔だし。
「……苦いが、何だかホッとする。それに、クッキーも悪くない……」
シルヴィーを見習うように、恐る恐るコーヒーを飲んだリリアは、ホッと一息吐いてからクッキーを食べる。
俺が作ったクッキーだが、不味いと言われなくて良かった。
さて、休憩がてら少し話をするとしようか。
「魔法の使い方は悪くありませんが、密度が足りないですね」
「……それは魔法が弱い……と言う意味ですか?」
「それもありますが、魔法を使ってから、次の魔法を使うまでの間が長いと言う意味です。もしくは数が少ないと言い換えても良いですね」
今回リリアが使った魔法は、精霊魔法と思われる氷の剣以外は、ほとんど単発式だった。
それなりに範囲のある魔法もあったが、何の捻りもない魔法では鎖で破壊して終わりである。
氷の剣以外では鎖一本で全て対処できていしまった。
「その……エルフの中でも、それなりに魔法が得意と自負しているのですが……」
「魔法で作った鎖一本で対応できる程度では、たかが知れていますね」
「すみません……」
俺が魔法少女の時に使う詠唱魔法は、出は遅いものの連続して発動できるし、使い方次第では自動発動なんて事も出来る。
そして俺が今リリアに無理を言っているのは、俺自身も理解している。
この世界の魔法の体系では、魔法を並行して発動するのが難しいのは、俺が一番良く理解している。
最初の頃は鎖を二本使うだけでも四苦八苦していたし、鎖を維持した状態で他の魔法を使うのも無理だった。
片手でお手玉をしながら、もう片手で図面を描き、更にランニングしてながら歌を歌うくらいの難しさがある。
そもそも実際には出来ないが、難易度的にはそれくらいある。
「先ずは同じ魔法を、四つ以上一緒に使えるように訓練しましょう。一週間……いえ、三日間以内に」
「そんなの無理だ! 二つだって習得するまで五年間掛かったんだ! それに、そんなに沢山使える人間があなた以外に居るのですか?」
無理難題かもしれないが、おそらくメイド長は使えるだろうし、魔法体系が違うがリディスも可能だ。
更に言えば、見た目が人であるヨルムも可能だろう。
ふむ。わりと居るのではないだろうか?
それに……。
「やりなさい」
「ほ~い」
頭上に数十個の風の塊。おそらくエアロボムと思われる魔法が現れる。
感覚的にリリアが使った奴の、二倍以上の威力はがありそうだ。
「なっ! ……馬鹿……な」
「そんな考えですから、自分から喧嘩を売って負けるのです。他人を見下して貶すのではなく、自分自身を見下し、這い上がりなさい」
リリアは展開された魔法を見て絶句し、俺の言葉を聞いて涙を流す。
やはりシルヴィーは神なだけあり、能力もあるわけだな。
本当にこいつの部下達には同情する。
有能なのにやる気のない上司とか、どう考えても害悪だろう。
「私は……私は……」
「人間死ぬ気になれば、わりと何でも出来るものです。ニーアさんを慕っているようですが、あなたにはニーアさんを慕える資格があるのですか? エルフの汚点とすらなりえるあなたに?」
「……」
「さて、聞き直すとしましょう。やれますか? やれませんか?」
ちょっとした人心掌握術だが、最初の判断は難しいものを与える。
出来る限り無理難題にし、相手が断るものが望ましい。
その次に相手を追い詰め、はいかいいえの答えを用意してやる。
二択となると人は案外覚悟を決めるもので、相手に向上心やプライドどがあれば……。
「――やります。やってみせます!」
ご覧の通り、覚悟を決めてくれる。
これで諦めるのならば、適当に捨てて終わりだ。
「もう少し休んだら次の訓練に移りましょう。コーヒーは温かい内に飲むに限りますからね」
「お代わり貰える~?」
この神は本当に……まあいい。魔法を使ってもらった礼という事にしておこう。
それに、これから先も色々と活用してもらう予定なので、先払いだ。
鎖を使ってお代わりを淹れてやり、シルヴィーを意識の外においておく。
「その、次の訓練とは何をするんですか?」
「今日はこれ以上身体を痛め付けられませんので、軽い座学と実技です」
がむしゃらに戦い続けるだけでは、どうしても限界が来る。
これが剣や武術ならばそれもありかもしれないが、魔法はそうもいかない。
正確な知識やイメージが必要であり、学べばその分強くなる。
特にこの世界の魔法は、正確なイメージをすればその分威力が上がる。
詠唱とはイメージを言葉にすることで、発動できるようにしているのだが、その言葉だけのイメージでは足りないのだ。
「先ずは水と氷の魔法についての勉強をしましょう」
「お願いします」
真剣な眼差しでリリアは返事をするが、口の端にクッキーの欠片が付いているので、色々と台無しである。
とりあえず、やるとするか。




