第68話:新たな武器(置き土産)
「テレサ様が使っていた武器は、どう言った物だったのですか?」
「魔力を込めることで刃を形成したり、二本に分けたり出来たの。お父様が誕生日にくれた物だったけど……」
そんなものを使うなと言いたいが、武器は使ってこそである。
だからと言って、落ち込んでいる少女に追い討ちをするのは、流石の俺でもしない。
後程ソラに何か言われるのも癪だし、代わりの武器でも作ってやるとするか。
(ヨルムの素材で作った場合、俺が壊したのとはどっちの方が性能が良い?)
『ヨルムの素材の方が段違いで上だね。ヨルムなら魔界でも王の次位には強い存在だし、当たり前と言えば当たり前だけど』
それなら問題ないか……壊したものより下の物を贈るのは、あまりよろしくないからな。
「そうですか。相手の力量を見極める事が出来ず、武器を駄目にしたのはテレサ様のせいですが、私も鬼ではないので、代わりの物をご用意しましょうか?」
「……言葉に棘が有るけど、あなたにヘリアンサスと同じ様な武器が用意できるの?」
「可能です。全く同じは無理ですが、出来る限りご要望にお応えしましょう」
テレサは耳をピコピコと動かしながら、腕を組んで考える。
耳って動かせるんだな……。
「その……ハルナが使っていた剣みたいなのは出来るかしら?」
「出来ますよ。私が使っていた剣の主な能力は、重量の調整と、二刀への分割が出来ると言ったものです」
「それでお願いするわ」
「分かりました。直ぐに戻りますので、待っていて下さい。それと、決してついてこないように」
「……分かったわ」
魔法少女の姿を見られるのは別に構わないが、武器を作るにはエルメスに準備をしてもらわなければならない。
言い訳をするのも面倒なので、待っていてもらうのが一番だ。
部屋から出た後は鎖で窓の外に出て、城の天辺へと登る。
(頼んだぞ)
「任せるです」
声を掛けると、エルメスが素材を抱えて出てくる。
いつもより少し等身が高いのは、素材のせいだろうか?
俺のレイティブアークは、悪魔と恋人の素材が混ざった関係で黒と赤を基調にした禍々しい色の剣だが、ヨルム由来の素材だけならばもっと良い色合いになる。
そもそも色合い自体は調整可能なのだが、俺の時は操作を受け付けてくれなかった。
エルメスが描いた魔法陣の上に素材を置き、イメージしてから魔力を流す。
サタンやルシアにバレないように、結界を張るのも忘れない。
魔力を流す事で光りだし、一本の大剣が完成する。
「中々のモノですね」
「そうですね。初めての時よりも、良い物が出来たと思います」
出来上がったのは半分が白銀で、半分が黒の大剣だ。
今回の剣は大剣の状態よりも、二本に分けて戦う事を想定したモノとなっている。
能力は俺のとほぼ一緒だが、数段こっちの方が下になる。
具体的に言えば俺のを百とすれば、これは十位だろう。
どう考えても俺のレイティブアークはオーバースペックである。
まあリディスのよりは少し上だがな。
ついでにこの大剣には少しギミックを追加してある。
流石に大剣をそのまま二分割しただけでは、今のテレサでは大きすぎる。
なので、分割した際に長さが短くなるようになっている。
「それでは戻るとしましょう」
「はいです。私は出来る女ですので、我儘は言わないです」
それだけ言い、エルメスは俺の中に戻る。
アクマが文句を言っているのが聞こえるが、無視しておこう。
作った大剣を鎖で持ちテレサの部屋に戻ると、テレサは目を見開いて武器を見た。
「お持ちしました。これが先ほど言っていた武器となります」
「……この短時間で作ったの?」
「ご想像にお任せします。血を垂らせばテレサ様との契約が成され、正式に使えるようになりますのでどうぞ」
柄をテレサへと差し出すと、テレサは剣を持ち上げる。
しかしやはり重いらしく、少しずつ剣先が床へと垂れて行く。
テレサは剣を床へと置き、ナイフを取り出して指を切る。
そして血を垂らすと、大剣は淡く光ってから血を吞み込んだ。
これで正式に、大剣はテレサのモノとなった。
「こんな武器があるのね……天界ではこんなのが普通なのかしら?」
「その辺りはサタン様やルシア様の方が詳しいかと。大剣の使い方は問題ないですか?」
「ええ。血を垂らしたら頭の中に入ってきたわ」
テレサは、先程は両手でやっとだった剣を片手で持ち上げ、軽く振るう。
黒と白が良いコントラストとなっており、中々似合っているな。
アニメのヒロインとして出れば、人気になりそうだ。
この世界にアニメなんてないけど。
「……これってもしかして、二本の状態で使う事を前提としているのかしら?」
「正確には二本でも問題なく使える剣ですね。長剣の二刀流は流石に無理がありますので」
俺の場合は特殊だが、長剣の二刀流はやはり無理がある。
刀と剣の二刀流なんて馬鹿な事をしている人も居るが、あれは例外だろう。
テレサが大剣を二本の剣に変えると刀身が短くなり、大体九十センチ程になる。
因みに大剣の時は、約一メートル七十センチほどの長さとなる。
「良いわね。片刃なのが気になるけど、練習すればなんとかなりそうね」
「それは何よりです」
罪滅ぼしも出来たし、軽く魔界の事を知ることも出来たから、もうそろそろ出るとするか。
あまり時間は残っていないからな。
「それでは私はこれで失礼します」
「待って……その、ハルナはまた魔界に来るのかしら?」
「魔界には来ますが、此処に来ることは多分ないかもしれませんね。今回は少し特別だったので」
また後でもサタンから話を聞こうと思うが、先に後六つの国を回ろうと考えている。
あわよくば喧嘩を売り…………強者と戦いたい。
本気ではないサタンですらあれだし、きっと楽しむことが出きるだろう。
まあ、アクマとエルメスの許可が出てからだけどな。
あるいはフユネが限界になったりしたら来るかもだが、ともかくサタンへ会いに来るのは先の話となる。
「――そう……なのね」
「はい。もしかしたら魔界の何処かで会えるかもしれませんが……では」
扉から出る時に、何やら真剣な顔をしていたが、どうせ会うこともないだろうし、見なかったことにしておこう。
さて、廊下に出たのは良いが、此処からどうやって外に出れば良いかが分からない。
……いや、その前に一度ライネに会いに行くか。
コーンポタージュ……コンポタを飲んでから考えていたのだが、トウモロコシの醤油焼きが食べたくなってきた。
コンポタを作ってやる代わりに、数本持って帰って良いか交渉しよう。
嫌とは言わないだろうがな。
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「その程度で良いのでしたらどうぞどうぞ」
厨房に入り、トウモロコシを貰えるならばコンポタを作ると伝えたら、笑顔で快諾してくれた。
食の前にプライドなんて無意味なのだろう。
「ついでなので、何か魔界特有の面白い食材とかありますか? 昼食を作る時に貰ったのとは別にして」
「魔界特有と言われても、何が魔界だけなのかが分からないかな。あっ、これとかどう」
ライネは何やら白い粉が入った袋を取り出した。
……えっ? 麻薬?
いや、現代とは違い、麻薬を禁止する法律とかないだろうし、あってもおかしくないのか?
「これは?」
「アラクネ印のシルク粉よ。美味しくて美容だけでなく、健康にも良いのよ」
……麻薬よりはマシだが、あまり食べたいとは思えないな。
とりあえずヨルムに食べさてみて、反応を見てから自分でも食べるか考えるとしよう。
「食べ方は何が良いですか?」
「デザートを作る時に混ぜても良いし、パンとかにもオススメよ」
シルク……そう言えば昔の群馬では、特産品の一つとして扱われていたとか教科書で見た記憶があるな。
日本にあった特産品の中には、始まりの日と呼ばれる事件により消失したものがある。
魔物の前に、ただの人は無力だ。
鉄パイプや包丁程度では、弱い魔物すら倒せない。
生き残れただけでも、凄い事だったのだろう。
「それではありがたくいただきます。今から作るのでしばらくお待ち下さい」
「期待して待っているわ」
昼食を作る時と同じく鎖を使って下処理をして、鍋でコトコト煮込んで出来上がりである。
下処理だけは面倒だが、作るだけならやはり簡単だな。
……鍋……鎖……円。ふむ、入試の時に使う魔法に良さそうだな。
少し面白い魔法を思いついたので、後で試すとしよう。
「お待ちどうさまです。とりあえず鍋にギリギリまで作っておいたので、適当に飲んでください」
「ありがとうね。天界から来たから、もっといけ好かない子かと思ったけど、テレサさまよりも素直ね」
厨房を使うために鎖で背を高くしているが、それでもライネのほうが背高く、それを良い事に頭をぐりぐりと撫でてくる。
微妙に痛いが、人とは力の加減が違うのだろうから仕方ない。
「それでは私はこれで失礼します。また機会があれば」
「ええ。今度は魔界特有のモノとか調べておくわね」
握手を交わした後、厨房を出る。
さて、街にくり出すとするか。
テレサ「良し、先ずは強くなるわよ!」