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第64話:修羅場?

「デモンが飛び出してからそう時間は経っていない筈だけれど、流石に早すぎるわよね……」


 ルシアと思われる女性はサタンをチラ見した後、辺りを見渡し俺の所で止まる。


 それからサタンに鋭い視線を送った。


「……あなた、その子はどうしたのですか? まさか……」

「慌てるでない! 先ずは俺の話を聞いてくれ!」


 それから暫くサタンによる、命乞いの様な言い訳が続き、完全には納得しないものの、ルシアはとりあえず俺が此処に居ることについて不問とした。


 因みに俺は、シルヴィーの客と言うことになった。


 正確には、研修生擬きと言ったところか。


 サタンの手伝いをさせられた建前、そう言うことにしておかなければ、お仕置きされると思ったのだろう。


「まあ良いでしょう。居るのは今日一日だけかしら?」

「夕方には帰らせていただく予定です。夕飯を作らなければいけませんので」

「神が食事をするの?」

「趣味みたいなものだそうです」


 どうせシルヴィーも食べるので、一応嘘ではない。


 神は人の形をしているし血も流すが、魔力の集合体の様なものだ。

 

 腕や足を切り落とす程度では直ぐに再生するし、一種の不死性を持っている。


 それは悪魔も似たような感じだが…………そこら辺の詳しい事情は別に良いだろう。

 

 ざっくり言えば人と違い、死に難いって事だ。


「趣味ねぇ……あれは気に入らないけど、サタンの仕事を手伝ってくれたことには礼を言うわ。まったく……まさかサボっているなんて思わなかったわ」

「ちゃんと処理しただろう……」

「手伝いをさせておいてあなたは……まあいいわ。お茶を用意するから少し待ってなさい」


 ルシアは持ってきた道具で紅茶を淹れて、俺とサタンに出す。


 一応妃の立場だと言うの、こんな事をして良いのだろうかと思うが、人間とはそこら辺の価値感が違うのだろう。


 来客用のソファーに座り、紅茶の匂いを嗅いでから一口飲む。


 透き通るような味わいだがしっかりと味を主張しており、風味も味と同じく、スッと入ってくる。


 コーヒーで言えばさっぱり系だが味が濃く、休憩には中々良い紅茶だな。


 茶葉が違うので優劣は付けにくいが、メイド長よりも上に感じる。

 

「とても美味しいですね」

「そうでしょう。これでも魔界では一家言あるのよ。茶葉は勿論、水も拘っているわ」


 魔界の茶葉か……お土産としては良いのではないだろうか?


 サタンの手伝いの駄賃として、交渉してみるのも有りかもしれないが、また後で考えるとしよう。

 

「よろしければ、少し茶葉を分けていただく事は出来ないでしょうか?」

「……構わないけど、私に料理を作ってくれないかしら? 少し気になっているのよ」

 

 ルシアの物言いにサタンはジッと俺を見てくるが、何を考えているかまったく分からない。


 もうそろそろ昼なるので作るのは構わないが、俺の持っている食材はあまり使いたくない。


 それなりの量はあるが、常に備えておかなければ何があるか分からない。


 初見の食材で料理と言うのは難しいかもしれないが…………まあアクマがいればなんとかなるだろう。

 

「承知しました。ですが、魔界の食材での料理は初めてですので、期待しないで下さい。それと、厨房の設備は大丈夫ですか?」

「問題ないわ。こっちはあんなのとは違い、三食しっかりと食べていますから、設備や食料に問題ないわ」


 食べなくても生きられるはずだが、しっかりと……いや、全員が全員と言う訳ではないのだろう。


 夫婦という事は、おそらく子を産むはずだ。


 魔界に自然発生した悪魔ではなく、母体から生まれた悪魔は普通の生き物なのだろう。


 そう考えれば、食べているのにも頷ける。


 あくまで俺の考えなので実際はわからないが、とりあえず厨房に向かうとしよう。


「そうですか。それでは作りたいと思うのですが……」

「案内するから付いて来なさい。この城は誰かさんのせいで無駄に広くなっているから、一人で歩くのは危険よ」

「ま、待て! 俺も付いて行く! それと、俺だって好きで広くしたわけではない」


 誰かってサタンの事か。


 確かに年季と言うものをあまり感じられない部屋だったが、増築した部屋だったのだろうか?


 ついでに言えば、部屋が新しいって事はサタンもまだ王になってそう日が経っていないのだろう。


 サタン的には俺とルシアを二人きりにしたくないのだろうが、ルシアはサタンに自分で書類を運べと怒り、早足で出て行く。


「……下手な事をするなよ」

「あの姿以外では自分から仕掛ける気は無いので安心して下さい。自己防衛に留めておきます」


 と、言うがクシナヘナスには喧嘩を売っているんだよな……。


 まあサタンは知る由もないし、噓も方便だ。


 ルシアを見失わない内に廊下へと出て後を追う。


「気になったのですが、使用人とかは居ないのですか?」

「居るわよ。ただ、下手な使用人をあの人に付けると、直ぐにサボるから、手が空いている時は私が相手をするようにしているのよ」


 なるほど、流石妻なだけはありサタンの事をよく理解しているのだろう。


 よくよく考えれば、俺が暴れている時にサタンが来たのもおかしな話だ。


 国があるって事は、防衛戦力があっての当たり前だろうし、本来はその防衛戦力が先に俺の所に来るのが普通だろう。


 兵の代えは幾らでも居るだろうが、王は一人だけなのだ。


 今更だがいくら強いとは言え、単騎で出てくるとは馬鹿なのではないだろうか?


 正直人の事を言えないが、俺の場合はしがらみがある訳でもないので問題はない。


 そもそも戦い方が、味方が居る事を想定していないので、居られても困るだけだ。


 巻き込んで殺すのは目に見えている。


「それよりも、あなた……名前は何だったかしら?」

「ハルナと申します」

「そう……あなた、天使ではないみたいだけど……人……とも言い切れないわね、あの神の部下なのかしら?」

「正式ではないですが、似た様な形になります」


 俺とシルヴィーの関係は、今の所だただの知り合いと言った感じだろう。


 だが正直に話せば面倒になるし、サタンには満足させて貰った借りがあるので、曖昧に誤魔化しておく。


 もしも俺がサタンと殺し合いをして、あと一歩で殺す所だったとルシアが知れば、どう反応するかわからない。


「此処が厨房よ。ライネ!」

「はいー!」


 厨房は普通と言えば普通だが、かなり広く感じる。


 いや、広くないと駄目なのだろう。


 ルシアの声で、下半身が大きな蜘蛛の女性が文字通り跳んでくる。


 全高二メートル。全長は三メートルくらいありそうだな。


 種族的に言えばアラクネって種族に分類されるだろう。


 それと、厨房には他に人……悪魔は見当たらない。


 いや、一々分けるのもあれだし、全員人で良いか。


「着たわね。この子に厨房を使わせてあげて」

「承知しました……けど、その子は一体誰なんでしょうか?」

「一応天界からの来客……研修生みたいなものよ。敵対行動しないようにね」

「はぁ……」


 アラクネ……ライネは分かりやすく驚いた後に、渋々と返事をした。

 

 一応上は人だが、普通に話を出来ているのを見ると、これぞ異世界って感じに思える。


 ヨルムの時もそうだが、異形の者と普通に話を出来るのは結構感慨深い。


 元の世界では話の出来るような魔物はいなかったし、そもそもが生き物ではない。


 魔力の塊であり、侵略者だ。


 話し合いが出来たとしても無駄な行為であり、分かり合う事は不可能である。


「ハルナは適当に一品作ってくれれば良いわ。厨房の事はライネに聞いてね。それじゃあ楽しみにしているわ」


 ルシアはさっさと厨房から出て行き、ライネと二人で残される。


「……」

「……」  


 視線と視線が合うが、ライネは不思議そうに俺を見るだけで、声を掛けてこない。


 どうすれば良いんですかね?


「料理……出来るの?」

「一応出来るので此処に来ました。背丈とかは気にしないで下さい。方法はあるので」


 ルシアは何も言わなかったが、厨房は広く、そして高い。


 俺の背では天板が見えない程だ。


 ライネは不思議そうにしていたのではなく、困り果てていたという訳か。


 とりあえず鎖を脚にして身体を持ち上げ、副腕みたいに数本鎖を出して実演する。


「まるで蜘蛛みたいね……って、蜘蛛は私か。一応自己紹介をしておくね。ルシア様に拾われて、此処でコックをしてるライネよ」

「ハルナと申します。コックはライネさんだけなのですか?」

「兵士や使用人の分を作る分は別にあるのよ。此処で作るのはルシア様一家の分だけだから、私だけで十分なのよ」


 十分とは言うが、その言葉には棘が……いや、決意が見える。


 自分だけが造る事を許されていると言う誇り。


 気高い事は良い事だ。


「それでしたら私は別で作ってきましょうか? 何となくですが、ルシア様が悪戯したような感じもしますので」

「……いいわ。命令は絶対だし、その鎖から感じる魔力が異常なのも分かるわ。あなたと敵対するなとも言われているし……説明するから付いてきて」


 渋々だが、ライネは自分に言い聞かせ、俺に厨房の設備や食材の場所等を教えてくれる。


 基本的に魔石を使った設備であり、食材も地上で見たことがあるのも多い。


 なぜか聞いたところ、たまに持ち帰ってくる悪魔が居たのだとか。


 どうやら悪魔でも、召喚無しで地上に行く方法があるらしい。


 後はクシナへナスとシルヴィーが希に現れて、要望を聞いてくれるのだとか。


 神と悪魔と言ったら敵対して殺し合う仲だと思うのだが、サタンとシルヴィーの様子を見るに、そうとも言い切れない。

 

 敵対しているのは確かだろうが、世界のバランスを保つ関係……日本で言う地獄と天国と言った所だろう。


 とりあえず厨房を使うのは問題ないと分かったが、後は何を作るかだろう。


「色々と教えて頂きありがとうございます。因みに今日作る予定の料理は何ですか?」

「ベヒモスのステーキと旬の野菜のサラダ。それとデザートにプリンアラモードを出す予定よ。後はパンをお出ししておく位ね」


 ふむ……無難な感じだな。


 ベヒモスがどんな生き物か分からないが、牛とかそう言った類いだろう。


 同じ料理を作って反感を買うのも嫌だし、今回はスープを作るとしよう。


 トウモロコシっぽいのがあったし、コーンポタージュでも作るとするか。


 大量に作って、余った分を持ち帰っても良いし。

 

「それでしたら私は、スープでも作ろうと思います。宜しいでしょうか?」

「大丈夫よ。ただし、不味かったらルシア様の命令でも出させないからね」

「承知しました」 

 

 命令には従うが、命令を拒む芯の強さも持ち合わせていると。


 正直これほど大きな人に睨まれると、加虐心が疼いてしまう。


 ……フユネの悪いのがまだ残っているようだな。

 

 気分を変えて、サクッと作るとしよう。

 

 

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― 新着の感想 ―
史郎さんときの昔の同僚とかにいそうな ついご家庭内のやり場のないつらみをのせちゃったり そんな憤怒…憤怒?もいいと思うなアクマだもの(流れ弾 さて魔界の料理、どんなんだろ あっちでの傾向と似てるとい…
この世界の悪魔の方々もなんだかんだ人間の範疇なんだなとなりますね。妻に小言言われたりちゃんとプライドもある料理人もいて…。 そして意外とSっ気のあるハルナなのであった。 ???「イニーに責められると…
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