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第35話:おっ?殺るのか?

 料理とは、案外疲れるものだな。


 数人分ならともかく、十数人分ともなるとかなり時間が掛かる。


 若干疲れを感じながらも初日の料理を終えた次の日、予定通りヨルムの親との顔合わせとなる。


 リディスには念話で自習するか、ゼアーであるゼラニウムから勉強を教えて貰えと言っておいた。


 驚いて悲鳴を上げていたが、煩いのでさっさと切った。


 弟の確執が無くなった今ならば、一緒に勉強をして問題ないだろう。


 さて、今日の朝食は軽いものでも作ろうと思っていると、ヨルムが寄ってきた。

 

「出来れば、母様にもハルナの料理を振舞って欲しいのだが、駄目だろうか?」

「構いませんよ。何かリクエストはありますか?」

「唐揚げを頼む」


 ヨルムの母親がどんな奴か知らんが、ヨルムは良い話し相手となっているので、それ位はお安い御用だ。

 

 最初は殺して素材にしようとしていたが、殺さなくて良かった。


 厨房からパクってきた肉を揚げて、直ぐにアイテムボックスに入れる。


 ついでに何か作ろうと思ったが、面倒になったので止めておいた。


 別に料理とか好きなわけではないし、あれやこれやと作れる技量も無いからな。


 とは言え、唐揚げだけと言うのは味気無いので、パンをそこそこ入れておく。


 ヨルムが住んでいた地域は寒暖差が激しく、このメイド服を着ているとは言え、生身では少々危険を伴う。


 なので前回と同じく、魔法少女になってから移動する。


「それでは準備も終わりましたし、行くとしましょう」

「うむ。頼む」


 






1







 転移でやって来たのは、宝物庫の中だ。


 此処ならば雨風が凌げ、転移後に襲われるなんて事もない。


「こっちだ」


 宝物庫を出て、ヨルムの後を付いていく。


 宝物庫の外はただの洞穴なのだが、ヨルムが壁の突起物を押し込むと、高さ二メートル程の扉が姿を現す。


 隠し扉って奴か。


(中に人は?)


『反応が一つ。ヨルムの母親だろうね』


 それはそうだろうが、父親は居ないってことか。


 ヨルムが扉を開けると、そこはエントランスとなっており、どう見ても人用の間取りとなっている。


「母様! 今帰ったぞ!」


 ヨルムの声に釣られるように、向かって右側の扉が開く。


 そこから出て来たのは、リディスと同じく黒い髪を腰まで伸ばした、背の高い女性だった。


 柔らかい雰囲気を纏っているが、油断しない方が良いだろう。


「そんなに大声を出さなくても聞こえてますよ」

「うむ。すまぬのだ。どうも嬉しくて声が大きくなってしまった」

「もう、ヨルムったら」


 びょーんと飛び付いてきたヨルムを女性は抱き抱え、頭を撫でてから姿勢を正す。


 ヨルムの抱き付き癖は母親のせいだろうか?


「初めまして。ヨルムの母親であり、神の一柱である、クシナヘナスと申します」


 …………ふむ。この展開は考えていなかった。


(解説のアクマさんや)


『はいはい。自己紹介の通りで、彼女は主に死と闇を管理している神で、ヨルムの義理の母だよ。そして、管理者がハルナのお詫びとして呼んだ存在でもあるね』


(なるほど、ヨルムを殺すなって言ったのは、そう言う事か?)

 

『理由の一つではあるね。一応魔物としても特殊な部類に入るからってのが一番だけど、神が暴れるなんて事になれば、世界への影響は計り知れないからね』


「初めまして。一応飼い主をしているハルナです」

「話はヨルムから聞いています。先ずは中へどうぞ」

「母様。料理を持って来たので、一緒に食べぬか? ハルナの料理はとっても美味しいぞ」

「それは楽しみですね」


 二人揃って俺を見る様は、血は繋がっていないらしいが、正に母子と言った感じだ。


 しかし神様ねぇ……元の世界では一度だけあった事があるが、正直よく分からないんだよな。


 人とは基本的に関りが無いし、俺自身もそこまで興味がない。


 取引先の営業の名前は知っていても、その社長の名前を知らないのと同じだ。


 とりあえず話を始める前に、飯にするとしよう。俺も腹が空いたし。

 

 クシナヘナスの案内で屋敷の部屋に入ると、そこはこじんまりとしていて、エントランスの大きさからすると、かなり不釣り合いな部屋だ。


 用意されたテーブルの上に料理をポンポンと出し、囲んで座る。


「まあまあ。これがヨルムの言っていたからあげかしら?」

「うむ。とても美味しいのだ」

「それではいただきましょう」


 流石にこう何度も唐揚げを作っていると、味が安定してきたな。


 上げる時間はアクマ任せなので問題ないが、味付けは俺が適当にやっている。


 とは言っても、生姜やニンニクの量を変えたり、片栗粉を付けて竜田揚げにしたりするくらいだ。


「あら。本当に美味しいわね。お肉を揚げるなんて聞いた時は驚いたけど、美味しさが溢れてくるわね」

「そうであろう。ハルナの料理は美味しいのだ」


 母子揃ってパクパクと唐揚げとパンを食べ、あっという間に無くなっていく。


 ヨルムはともかく、クシナヘナスも良く食べる。


 唐揚げ屋でも始めれば、結構稼げるのではないだろうか?


「美味しかったわねー。ヨルムが無理を言ったようで、ごめんなさいね」

「この程度なら問題ありません。それで、私を呼んだ理由とは?」


 使い終わった食器をヨルムに洗わせている間に、本題に入る。


 呼び出すと言うことは、相応の理由があるはずだ。


 何も無いならば、クシナヘナスが俺のところに来れば良い。


「先ずは創造主に代わり謝罪を。色々と無理をお願いしてしまいすみません」


 立ち上がったクシナヘナスは、膝を付いて頭を垂れる。


 確か日本で言う、土下座みたいな奴だったかな。


 管理者にはイラっとしているが、その下に居る神達に罪は無い。


「謝罪は受け入れますが、それはそれ、これはこれです」

「はい。なので、これを渡すようにと承っています」


 懐から麻袋を取り出し、差し出してきたので、とりあえず受け取る。


 中を見ると、白い種が大量に入っており、取り出して見ると……。


「……これは喧嘩を売っていると言う事で宜しいでしょうか?」

「いえ。その種は一ヶ月もあれば成木になり、十日もあれば成熟する、特殊な種子になります。また、育成はヨルムに任せていただければ大丈夫です」

 

 入っていたの、コーヒーの種子だった。


 これを炒ればコーヒーを飲めるが、袋の感じから埋めて育てろと感じだ。


 流石に木の方までは詳しくないが、種から育てるとなれば、数年経たなければ収穫は出来ない。


 それまで俺に待てと言うのは、暴れても良いと捉えても問題ないだろう。

 

 まあ、流石にそんなに待つ必要はなさそうだが、それでも一ヶ月か……。


「それと、別に飲むように準備してありますので、此方もどうぞ」


 今度はしっかりと、容器に保存されている種子を渡される。

 

 先にこっちを出せば良いのに……。

 

「それではありがたく受け取ります。それと、座って貰って大丈夫です」

「はい。これで創造主からは以上となります」 

 

 一先ず目標であるコーヒーを手に入れることが出来たが、育てる場所を後で決めないとな。


 ヨルムならば転移できるのでどこでも良いだろうが、コーヒーは育てる場所によって味が変わる。


 一ヶ所で全て育てるよりも、分散して育てた方が俺の生きる糧となる。


 コーヒーについては、また追々考えるとしよう。


「次は私から少し良いでしょうか?」

「何でしょうか?」

 

 椅子に座り直したクシナヘナスの後ろにヨルムが近寄り、その背中に登る。

 

 しかしクシナヘナスは全く気にせず、俺の方を見たままだ。


「あなたは強いのでしょうか?」

「それなりには。一応死を管理している神となりますので」


 それは喜ばしい事だ…………じゃなくて聞く事を間違えた。


「間違えました。私がこれ以上強くなる方法とかあったりするでしょうか?」

「強くですか?」

「はい」


 クシナヘナスに俺の経緯を軽く説明する。 


 どうやら、俺の事の説明はほとんど受けていなく、異界からの客とだけ知らされていたみたいだ。


 それで管理者が少々一方的なお願いしたため、代わりにお詫びしておいてとお願いされていたそうだ。


 因みに俺の経緯についてだが、鼻歌交じり世界を崩壊させることが出来る存在と戦わなければならないとだけ伝えておいた。


 俺の事はアクマが言うアカシックコードを見れば分かるので、それを見る様にお願いした。


 説明とか面倒だし。

 

「なるほど。異界とは聞いていましたが、此方以上に殺伐としているようですね」

「何度か滅びかけていますからね。戦えるのは全体で言えば一部の人間だけでしたし」


 この世界は魔力さえあれば誰でも戦うことが出来るが、俺の世界では一握りの女性だけしか戦えなかった。


 しかも、長くても二十年位だけだ。


 滅亡の危機は乗り越えたが、これから先強い魔法少女が居なくなったら、どうなるか分からない。

 

「話は分かりましたが、強くなる方法ですか……確認ですが、ハルナはどれ位強いのでしょうか?」

「本気を出せば、恐らくこの星を破壊できると思います。現状ですと、大陸の半分くらいですね」


 アルカナの同時開放は使用を禁止されていて、アルカナも現時点ではほとんど……そう言えばソラが育ってきたから、 それなりに長い時間使う事が出来るか。


 とは言っても、二分から十分に伸びる位だ。


 ――ふむ。十分あれば世界を崩壊させられるか?


 試す気は無いが、少し気になって来た。

 

「……それは本当ですか?」

「試して良いのでしたらやりますが?」

「……本当にそれ以上強くなる必要があるのですか?」


 あるんですよ。なんなら、せめて三倍から五倍くらい強くなりたい。

 

 分体より本体が強いのは当たり前であり、本気すら出していないような分体に相打ちがやっとでは、この後の戦いは厳しい。


 後は場所の問題もあるが、同時開放すれば結界……現実に被害を与える事の無い空間を作り出せるし、最悪アクマの上司を働かせれば何とかなるだろう。


「完勝出来たのならば、今頃私は此処には居ませんよ。それで、何かありますか?」

「先ずは一度戦ってみましょう。私の権能で、意識だけを別空間に送る事が出来ますので、そこでなら被害も、死ぬ事も気にしないで戦うことが出来ます」 


 流石死と闇を司る神なだけあり、面白い能力を持っている。


(どれ位までなら戦っていい?)


『少し待ってね。権能とやらのデータを読んでるから……ふむふむ。基本はシミュレーションと同じ様な感じだけど、魔力とかの消費は本体依存だね。それと、死ぬと少しの間不調が続くようになるみたい…………とすると、今の状態なら五割。あれの身体を使ってなら、アルカナを十分って所かな』


 それなりに楽しく戦うことが出来そうだな。


 問題はクシナヘナスの強さだが……戦ってみれば分かる事だろう。


「分かりました。それでお願いします」

「……一応この身は依り代ですが、神を名乗るのに相応しい力を持っています。貴女が向こうの世界でどれだけの者かは知りませんが、本当に良いのですね?」 

 

 俺が即答したのが癪に障ったのか、早口で捲し立ててくる。


 確かに、神と呼ばれるほどなのだから、この世界でも有数の存在なのだろう。


 しかし、高々星の一柱程度の神を倒せなければ、俺に先はない。


 なので、本気を出させるために煽る。


「あなた程度ならば、本気を出せなくても問題ありませんよ。私が戦わなければならない相手は、世界そのものを破壊出来る存在ですからね」

「……そうですか。ならば、あなたの思い違いを正すとしましょう。――神とは絶対的な存在なのだと」


 突然全てが黒く染まり、見渡す限りの荒野となる。


 これが意識を別空間に移している状態と言うわけが。


(防御は出来るか?)


『基本的にハルナの魂はエルメスがプロテクトを張っているから大丈夫だよ。今回はわざと受けただけだし』


 アクマと話していると、カツンと地面を叩く音がした。


 クシナヘナスが、身の丈を越える大鎌の石突きを地面へと突いたみたいだ。

 

 見るからにやる気……いや、殺意が滲み出ていて、身体が震えてしまいそうだ。


 あまりにも愉快でな。


「言葉は、もう、必要ありませんね。この権能は、どちらかの死をもって解除されます」

「そうですか」


 杖を取り出し、三つの魔法を一息で唱える。


 背中から白と黒の翼が展開され、四肢にも小さな翼が生える。

 

「冥神クシナヘナス――参ります!」

「魔法少女イニーフリューリング――せいぜい楽しませてください」


 それでは、神殺しといこうか。

 

  

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― 新着の感想 ―
まさかの神の一柱だったお母さん。しかし、割と普通にお母さんしてるのだから驚きです。 神ですら抗えない唐揚げの魅力は本当にすごいですね… そして、神相手にも隙あらば喧嘩売ってしまうハルナなのであった。…
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