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第32話:肥大する衝動

今年最後の投稿となります。ちょっとした幕間などを書きたいと思っていますが、この時期は中々時間が取れませんね。

一応息抜きで書いている小説とはなりますが、来年もよろしくお願いします。

 お風呂用の人形みたいに洗われた次の日。


 少し早めに目を覚ましてアースドレイクの肉を再び煮込んでいると、ヨルムが帰ってきた。


「戻りましたか。用事とは何だったのですか?」

「うむ。母様に呼ばれてな。近況報告をしてきたのだ」


 何となく既に死んでいると思ったが、普通に生きていたのか……。


 ヨルムの親となれば、間違いなくヨルムより強い筈だが…………ふむ。


「そうですか」

「うむ。我の成長を喜んでいた。契約者たるハルナとも今度会いたいと言っていたぞ」


 それは有りがたいことだ。


 殺すのは駄目だろうが、戦う分には問題ないだろうし、少しは楽しむことが出来るだろう。


「そちらの都合に合わせてもらえれば大丈夫ですよ。ヨルム。口を開けなさい」

「うむ?」


 ヨルムの口に、アースドレイクの肉を放り込む。


 何度か咀嚼した後、ゴクリと飲み込んだ。


「味はどうですか?」

「思いの外柔らかく、味が染み出て美味いのう。我としてはもっと歯ごたえが欲しい」


 美味しいなら良かったが、歯ごたえはどうしようもない。


 硬いパンにでも挟んで食べれば、それなりに食べごたえがあるだろう。


 一切れ食べてみるが、豚の角煮よりも肉らしい味がする。


 初めて食べる味わいだが、悪くない。


 因みに煮卵は馴染みのある味となっている。


 黄身の濃厚さは変わるが、それ位は許容範囲内である。

 

「朝は食べますか? この肉を挟んだサンドイッチでも作ろうと思っていますが」

「いただこう」


 とても早く反応をされた。


「でしたら食堂から、硬いパンを二個貰って来て下さい」

「うむ」


 帰ってくる前に、スープを作っておくか。


 流石に肉とパンだけではくどいからな。


 まあ栄養とか取った所で、ほとんどソラへと流れるのだが、暇つぶしに料理は丁度いい。


「貰って来たぞ」

「ありがとうござ……」


 ヨルムの方に振り返ると、何故かメイド長が居た。


 記憶が正しければ、今はバッヘルン達が朝食を取っている時間となる。


 メイド長もそちらに居なければならないと思うのだが、どうしているんですかね?


 ヨルムにはパンを二つだけ頼んだ筈なのだが、何故か三つ抱えている。


「美味しくないと言われている、アースドレイクの肉がどうなったのか気になりまして。私の分もお願いできますか?」


 まあそんな事だろうとは思ったよ。


 どうせ余った肉はアクマのアイテムボックス的なのに放り込んでおく予定なので、減る分には問題ない。


「分かりました。スープも作ってありますが、飲みますか?」

「お願いします」


 パンを半分にして火で軽く炙り、適当な野菜と煮込んだ肉を挟んで完成である。


 ついでにスープは、またトマトスープになる。


 作るのが楽だし、色々と応用できるので便利なのだ。


 一旦寸動鍋は冷蔵庫に入れ、冷えたらアイテムボックスに入れるとしよう。


「お待たせしました」

 

 スープの表面すら揺らさず、テーブルの上に並べていく。


 ただの一般男性の筈なのに、どうしてこんな技能が身に付いてしまったんだか……。


 まあ手ではなく鎖で配膳しているのだが。

 

「どうぞ」

「それでは……」 


 一口食べたメイド長は味わいながら食べて飲み込む。


 表情にほとんど変化がないが、驚いているように見える。


「……本当に美味しいですね。あの肉がこんなになるとは驚きです」

「口にあったようで何よりです」

「もしゃもしゃもしゃ」


 何度も食べれば飽きるような味だが、たまに食べる分には悪くない。


 次はご飯にでも乗せて食べるとしよう。


 そうなると、漬物も欲しくなるな……。


 小説などで、異世界で日本食が恋しくなるってのは定番みたいだが、分からなくもない。


 それよりもコーヒーを飲みたいのが本音だが…………後どれ位耐えられるか……。

 

「――ふむ。お金を払うので、食堂のコックに料理を教えてもらう事は出来ませんか?」

「前回お断りしたと思うのですか?」


 前回はコックになれだったが、同じ事である。


 コックにはコックの誇りがあるだろうし、こんな小娘になんか教わりたくないだろう。


「ならば、私の為に三食作るのと、コックに教えるのならばどっちを選びますか?」

「それって脅しでは?」

此処(東館)では私がルールですので」


 強かというか、我が強いと言うか……俺が知り合う女性はどうも押しが強い。


『別に教える位良いんじゃない? 一々自分で作るの面倒だと思ってるでしょ?』


(否定はしないが、あまり異世界の物を取り入れるのは悪いんじゃないか?)

  

『この世界の物を、使う分には問題無いさ』

 

 ……そんなもんなのかねぇ?


「コック長が許可を出したなら、教えます。基本的に夜がメインになる思いますけどね」

「ありがとうございます。この分の礼は必ずさせて頂きます」

「……そこまでですか?」

「一度知ってしまった快楽は、中々抜け出せないものです」


 若干言葉が悪いが、 言わんとする事は分かる。


 俺もコーヒーの味を知ってしまってからは、抜け出せなくなってしまっている。


「午前はお嬢様を連れて出かけますが、午後は部屋に居るので、結果をお知らせ下さい。断られることを願っています」

「その時はコック長が新しくなるだけです。ご馳走様でした。片付けは私がやっておきます」


 それで良いのかと思うが、何を言っても無駄だろう。

 

 片付けをメイド長に任せ、いつものようにリディスの部屋へと向かう。


 今日のヨルムは背中を登ろうとしてこなかったので、珍しく徒歩である。

 

「おはようございます」

「おはよう。今日はどうするのかしら?」


 ゆっくりと寝られた結果か、しっかりと貴族令嬢と言った感じに戻っている。


 若いから回復も早いのだろう。


「午前中は剣の訓練。午後は勉強としましょう」

「……何だか嫌な予感しかしないけど、分かったわ」 


 その予感は、おそらく当たる事になるだろう。


 何せ剣については俺もまだまだ素人であり、技量だけで言えばヨルムの方が上だ。


 たまにヨルムと剣のみで戦っているが、まだ一度も勝てていない。


 メイド長にはあと一歩といった感じだが、身体強化を使えないハンデを背負っている状態では、少し厳しいかもしれない。


 王都へ移動する前に一撃入れるのは、多分無理だろう。

 

「それでは移動しましょう」


 山の広場へと転移して、恋獄剣・レイティブアークをヨルムへと渡す。


 通常時は数十キロ程あるが、ヨルムなら問題ない。


「……えっ? ……えっ?」


 意気揚々と剣を取り出したリディスは、ヨルムが振り回している大きな剣を見て、目を白黒させる。


「どこまでやっていいのだ?」

「切断は後処理が面倒なので、骨折までは問題ありません。なるべく、胴体を避けて手足を狙う様にお願いします」

「うむ」


 今現在、俺はこの世界固有の回復魔法と、魔法少女としての回復魔法が使えるが、今回の場合は魔法少女としての回復魔法の方を使う。


 即効性があり、回復して直ぐに戦う事が出来るからだ。


 その代わり血の生成は出来ないので、血が流れるような怪我をされるのは困る。


 よって、手足が折れる程度なら治してそのまま戦える。


 デメリットとして、怪我の度合いにより俺か被験者のどちらかの寿命が減るのだが、実質不老の今はデメリットとならない。


 うまく両方の回復魔法を活用すれば、即死以外で死ぬ事はないだろう。


「不穏な言葉が聞こえたけど、どういう事?」

「聞いた通りです。痛いのが嫌でしたら、全力でヨルムの攻撃を捌き、倒して下さい。無理だとは思いますが」

「……本当にその子は一体なんなのよ」

「その内教えますよ」


 教えれば腰を抜かす事になるだろうけどな。


 一応伝説クラスの魔物だし。


 魔法少女に変身して、適当に椅子を作って向かい合う二人を見る。


「先ずは一時間程頑張って下さい。それと、気絶以外では止めませんので」

「どうせそんな事だと思ったわよ……やれば良いんでしょう――()れば!」


 ふむ。やはりリディスも、少しずつ変わり始めているな。


 とても良い傾向だ。


 先ずはリディスが動き出し、無造作に剣を振るう。


 リディスの剣は素材が素材なため、鉄だろうがレンガだろうが斬る事が可能だが、レイティブアークも使っている素材はほぼ同じなので、防ぐことが出来る。


 ヨルムは剣を受け止め、弾くようにリディスを吹き飛ばす。

 

 そして、ヨルムが動き出す。


 そこからは……まあ、なんだ。一方的な虐めだった。


 リディスが攻撃する度に、手痛い仕返しをヨルムは繰り返した。


 一度として自分からは攻撃せず、一撃には一撃を返すと言った感じだ。


 つまり、リディスに攻撃の意思がある限り、自分で自分を痛めつけている様なものだ。

 

 幾ら身体を治せても、怪我をした事実が消えるわけではない。


 ヨルムも一応俺が言った事を守っていたので、死ぬほど痛いだけで、死ぬような怪我は一度も負わなかった。


 だが、流石に精神の方が先に参ってしまったようだな。


 何度目か分からないが、ヨルムによって地面に叩きつけられたリディスは、そのまま動かなくなってしまった。


 時間で言えば、大体五十分位か。


 とりあえず回復魔法で治療して、自然に起きるまで待つとしよう。


「お疲れ様です。どうでしたか?」

「ハルナより、腕の方は良さそうだ。多少基礎らしいものがある。何か覚えさせれば、そこそこ戦えるだろう」

「……それは何よりです」


 俺より腕が良いのは少し悔しいが、素人剣術ではやはり駄目だという事だろう。


 俺の剣術は、魔法少女の時の猿真似である。


 基礎とかを学んだわけではなく、完全なる殺しの技だ。


 それを対人という形に落とし込んでいるのだが、これが中々なぁ……。


 筋力が足りていないのもあるが、七位のあの人の様に上手くはいかない。


「あの魔法を体験した身から言わせてもらえば、剣を必要とすることはあるのか?」

「結構ありましたね。それに、魔法より剣の方が確実に殺せますし」


 分かりやすく嫌な顔をしたヨルムは、剣を地面へと突き刺す。


 魔法は案外防がれる事が多いが、剣ならば首を刎ねるか、心臓を突き刺せば大体殺せる。


 俺や魔女の場合、心臓を失った程度では直ぐに回復出来てしまうが、大概はそれで死ぬ。


 …………ふむ。後でヨルムと戦うとしよう。衝動がまた大きくなり始めてしまった。

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― 新着の感想 ―
不味いハズの肉を角煮のような美味しさにできるのは便利ですね。これは病みつきになるわけだ。そして尊厳をどんどん奪われていくコックぇ… 単純な剣の才能ではリディスに負けている?のは面白いですね。でもその後…
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