第29話:空に飛ばされるメイド
27話を投稿するのを忘れていましたので、読んでいない方はご注意ください。
やはり、騒動とは外で見るに限る。
リディスが門番に名前を告げると、気を失って後ろに倒れてしまった。
思いの外肝っ玉の小さい奴だが、恐らく心労もあったのだろう。
それがリディスの本名を聞いて、キャパオーバーしてしまった。
突然の事態にリディスは、どうするのかと俺に視線を寄越す。
「放っておいて、中に入ってしまいましょう。場所は私が案内しますので、その調子でお願いします」
「分かってるわよ」
転移して直ぐに、リディスには貴族らしい対応をするように話してある。
個人的に少し心配だったが、流石貴族子女にだけあり、門番とのやり取りや動きに問題なさそうだ。
最近というか、基本的に泣きながら弱音を吐く姿ばかり見ていたので、少々感慨深い。
ヨルムに門番を端へ運ばせてから、町の中に入る。
町は閑散としており、外には誰も居ない。
閉じこもっても意味はないと思うんだが、他人の考える事は分からん。
(何所に向かえばいい?)
『真っすぐに進んで行くと大きな噴水があって、そこを左に進んで暫くすると少し大きな屋敷があるから、そこに町長が住んでいるよ』
(了解)
しかしこれでは、折角計画していた食べ歩きも難しそうだな。
いつもなら人が行きかっていそうな噴水の広場も、今は水の噴き出す音がするばかりだ。
ヨルムが俺の肩の上で物珍しそうにキョロキョロとするが、地味に負担になるので止めてほしい。
つか、何故俺は肩車をしているのだろうか?
アクマに言われた通り左へ曲がり、しばらく歩いていると、大きな屋敷が見えてきた。
「あそこが目的地ですね。この町の町長が住んでいます」
「分かったわ。さっきみたいに話せば良いのよね?」
「あれで問題ないかと。ただ、もう少しだけ威厳を出すようにしても、良いと思います」
「分かったわ」
一度深呼吸をしてから、リディスを先頭にして屋敷に向かう。
アクマが向かえと言っていたので、町長が留守なんて落ちは無い。
……あれ? こういう時ってメイドが先に話を通すのだったのだろうか? それともこのまま、リディスに任せても良いのだろうか?
――まあいっか。
リディスが屋敷の呼び鈴を鳴らすと、中からメイドらしき人物が出て来た。
「ど、どなた様でしょうか?」
「近隣に現れた魔物について話に来た。町長は居るか?」
「少々お待ちください!」
今のリディスはそれなりに威圧感があり、少女とはいえ侮るなんて事は出来ない。
しっかりとした鎧があって良かった。
しかし、名前を聞かずに戻って行ったが、大丈夫なのだろうか?
数分待っていると、ただの再びメイドが戻ってきた。
「お待たせしてすみません。どうぞ中にお入り下さい。案内させていただきます」
「分かった」
先程の驚きが嘘かのように消え、冷静にメイドが案内をしてくれる。
屋敷と言ったが、大きさ的に大きな一軒家を少し大きくした程度だ。
なので、直ぐに町長の居る部屋に着いた。
「入れ」
「失礼します」
メイドが扉を叩き、中から男の渋い声が聞こえる。
中には少しハゲ始めている、壮年の男が座っていた。
リディスを見た男は驚いた後に、妙に悲しげな表情をする。
「アインリディス様……ですか?」
「私を知っているのですか?」
「ええ。先ずはお座り下さい。お茶を用意させます」
名前を言われて、今度はリディスが驚く。
今更になってヨルムを下ろし、三人でソファーに座ると、案内してくれたメイドが紅茶を淹れてくれる。
普通に座って普通に用意してくれているが、メイドなのに良いのだろうか?
対面へ座った町長にリディスが門番の時と同じく、書類を差し出す。
「確かに……。これは、侯爵様からリディス様に直接?」
「はい。一応そうなります」
ちらりとこっちを見るな。
ついでに一応も付けるな。
「そうですが……とうとう侯爵様は決めたのですか……」
何故か町長は落ち込み、やるせない雰囲気を出す。
これは…………勘違いしているな。
「アインリディス様。この依頼が意味することを分かっているのですか?」
「はい」
「――それでも、挑むのですね?」
「? はい。それが私の責務ですので」
「くっ、 分かりました。報告では、魔物は北門の先にある森で確認されました。詳細を知りたい場合は、冒険者ギルドを訪ねてみると良いでしょう」
町長は涙ながらに話し、それを見てリディスが此方を見るので、足を踏んでおく。
出された紅茶だが、いつも飲んでるのと産地が違うのか、香りが独特である。
これはこれで悪くない。
「もしも、もしも気が変わりましたら、そのまま……いえ、これは私が言うべきではありませんね。どうか、宜しくお願いします」
「はい。それでは失礼します」
町長にお茶のお礼を言って、メイドに見送られながら外に出る。
「ねえ、何であの人あんなに悲痛な感じだったの?」
人目がなくなり、遂に我慢できなくなったリディスが聞いてくるが、やはり分かっていなかったか。
「リディス様が魔法を使えないのは、かなりの方が知っていますよね?」
「貴族の大半は知っているはずよ。……ここの町長も確か男爵だったかしら?」
「そんなあなたが、父の命令で魔物の討伐に一人で来た。勘のいい人はこう思うはずです。――遂に捨てられたのか……と」
「え?」
リディスの足が止まり、俺を見つめる。
合法的に、使えない娘を捨てた。
つまり、町長はリディスが勝てるはずもない魔物へ挑みに来て、死ぬと思っている。
なのにリディスが、これも役目だと気丈に振る舞っていると思い、同情していたのだ。
「私、死にに来たと思われてるの!?」
「はい。ほぼ確実に」
「ええー……」
げんなりとするが、十二歳の少女が推定Aランクの魔物の討伐に来たのだから、町長の反応は正しい。
しかもお供として居るのも、見た目は同世代くらいの少女二人。
さぞ健気な少女だと思われただろう。
「……まあいいわ。少し前なら、自殺行為と変わらなかったわけだし。それで次はギルドへ向かうの?」
「いえ、このまま北門から出て森を目指します」
出来れば軽く買い物などもしたかったか、この様子では下手に店に入らない方が良さそうだな。
「分かったわ」
「ヨルム。先行して様子を見てきてもらえますか?」
「分かったが、ここに来たように転移しないのか?」
「どこに人の目があるか分かりませんし、リディスには普通を体験させた方が良いですからね」
服に隠していた鎖を一本操り、ヨルムへと巻き付ける。
軽く慣性をつけてから、北の方に向かってヨルムを放り投げる。
人目につかないほど高く投げれば、後はどうにかするはずだ。
飛んでいく瞬間、心なしか喜んでいたように見えたが、きっと気のせいだろう。
「……大丈夫なの?」
「はい。今頃空の旅を楽しんでいるでしょう。 北門を出た後ですが、リディスには身体強化をして走ってもらいます。やり方は分かりますか?」
「一応ね。教えてもらっているし」
……あれ? 教えてたっけな?
まあ出来るなら良いだろう。
「君達……えっと……これから外に出られるのですか?」
北門に着くまで人には出会わず、門番はリディスを見て動揺を露にする。
身分社会だと、年下でも貴族ならば敬わなければならない。
リディスがいくらポンコツでも、身分は絶対なのだ。
「はい……魔物の討伐の依頼を受けましたので」
「し、失礼しました! どうぞお通りください!」
紙を見せれば、それ以上何も言わずに道を譲る。
職務に忠実なのは良いことだ。
そして、門番が見えなくなるくらいまで歩いてから足を止める。
「それでは、ここから森まで走ってください」
「ハルナはどうするの?」
「私は身体強化がまだ出来ないので、こうします」
鎖をリディスの胴体に巻き付け、自分の身体を鎖で持ち上げる。
こうすれば、リディスが走れば俺も一緒に移動でき、リディスの訓練にもなる。
「えー……私一応貴族なんだけど……」
「さっさと走りなさい。それと、走る時はなるべく歩幅を小さくするように」
「分かったわ」
俺も身体能力が出来るならば一緒に走っても良いのだが、今の俺には使う事が出来ない。
身体強化は結構繊細な魔法であり、まだ魔法の調整が今一な状態では、どこかしら破裂してしまうのだ。
身体を動かさない状態ならまだしも、動かした瞬間に肉が弾けて血が飛び出てしまう。
身体に鎖を巻いて強化骨格の様にすればとりあえず強化できるが、そこまでして付き合う必要も無かろう。
しょぼくれた顔でリディスは走り出すが、色々とさせていたおかげで、基礎体力は結構あるな。
一応本人の言う通りに貴族子女なので、あまり筋肉を付けさせるのは駄目だろうが、引き締まった筋肉は曲線美を作り出す。
顔も悪くはないので、しっかりと身体を作れば良い感じになるだろう。
「見えてきましたね。ここからは歩いてクールダウンしましょう」
「や……やっと……着いた……の……ね」
途中で「疲れた」や「もう無理」と弱音を吐くリディスを無理矢理走らせ、森に着いた。
大体二十分位だが、結構な速さで走らせていたので、町からの距離はそこそこある。
戦いが始まる前から力尽きかけているが、休めば大丈夫だろう。
「待っていたぞ」
「魔物は居ましたか?」
「うむ。居たぞ。姿も確認済みだ」
どうやら本当に魔物は居るみたいだな。
これがガセだったらどうしようかと思ったが、運がいい。
「魔物の名前は?」
「確かアースドレイクだったはずだ。本に書かれていた特徴に照らし合わせればな」
「アースドレイクって本当にA級じゃない……本当に戦うの?」
アースドレイクは、ザックリ言えば土属性の大きな蜥蜴だ。
鱗は硬くて物理に耐性があり、魔法も効きに難い。
足は遅いが土属性なだけあり、その攻撃は大木をもへし折る程となる。
つまり、リディスでもなんとかなるだろう。
「当たり前ですよ。それに、これは領民を守るためでもあるんですから、気合いを入れなさい」
「……はい」
…………初めて会った時の、あの暗い様子は一体どこに消えたのやら。
後で少し思い出させてやるとするか。
「それでは案内をお願いします」
「うむ」
ヨルムを先頭に森の中へと入り、しばらく歩いていると、大きく地面が抉れている場所が増え始め、折れている木が目立ち始める。
そして、ヨルムが足を止める。
「ここより少し進んだ広場に、アースドレイクが居る」
「ありがとうございます。リディス」
「……なに?」
後少しで魔物と戦う事が分かり、リディスはあからさまに緊張している。
「アースドレイクは、ヨルムよりも弱いので、アースドレイクに勝てないようでは、ヨルムに傷一つ付けられませんよ?」
「えっ? そうなの?」
「はい。それと、この程度の魔物には寿命を対価にされても助けないので、頑張って下さい」
「……分かったわよ。やれば良いんでしょ! やれば!」
手元に杖を召喚したリディスは、アースドレイクが居る広場へと駆けていく。
どうやら真正面から戦うみたいだが、バカなのだろうか?
戦いの基本は、奇襲からの一撃必殺だと言うのに……。




