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第24話:兄弟対決。メイドを添えて

 この世界に来て一ヶ月と少し。


 杖や剣を作ったり、魔法無しの戦いで反則勝ちしたり、ゼアーが来たりと色々とあったが、遂にアルカナの使用許可が出た。


 本当ならばもっと早く許可が出るはずだったが、ヨルムとの戦いで何度も無理をし、その後メイド長との戦いでも無理をしたため、遅れてしまった。


 魔法で治せると言っても、やりすぎは良くないとアクマに散々怒られた。


 その結果、身体を壊す訓練は全面的に禁止にされ、ヨルムやメイド長に全敗している。


 やはり、俺に剣の才能は無さそうである。


 剣の練習をするようになり、某七位の魔法少女がイカれた存在だと、改めて理解できた。


 そんな訳で試運転がてらアルカナを使おうと思ったが、今日は少々用事かあるので、やるにしても夜だろう。


 ヨルムに起こされ、朝食を食べてからリディスの部屋に一緒に向かう。


 ヨルムについてだが、暇を見てメイド長に教育してもらっている。


 メイドの教育と言うよりは、一般的な常識を主にお願いしてあるため、少しずつヨルムから野性味が抜けてきた。


 まあ今も鎖で運んでいるので、何とも言えないが。


「失礼します」


 いつものように部屋に入ると、リディスがソファーの上で震えている。


 原因は、今日の予定のせいだろう。


「無理……絶対無理……私なんかが……」


 ふむ。予想していたが中々酷いネガティブっプリだな。


 今日は、リディスとネフェリウスが対決する日であり、ある意味リディスの今後が決まるかも知れない日だ。


 ゼアーがおかしな真似をしていない限り、リディスが負けるなんて事はないだろう。


「何を震えているんですか」

「だってぇ……」


 虚勢を張っている者程、一度崩れると大変らしいが、本当みたいだな。


 散々家族から虐げられ、一人だけ使用人用である東館に追いやられている。


 何とか一念発起したわけだが、いざとなると腰が引けてしまう。


「私が教えたのですから、負ける事はありません。それに、いざとなれば全て滅ぼせば良いのです」

「うむ。壊す事なら任せろ」

「それはそうだけど……」


 いまだにリディスは膝を抱えたままだが、いざとなれば鎖で無理やり運ぶ方法もある。


 人間始める前は躊躇ってしまうが、始めればわりとどうにかなる事が多い。


 俺がなんやかんや魔法少女を続けているのも、そんな感じだ。


「早く腹を括らなければ、こうなりますよ?」


 鎖で吊っているヨルムを、リディスの前で振る。


 使用人達は一体どんな視線をリディスに向けるのだろうな?


「うっ……分かったわよ行けばいいんでしょう。本当に私は勝てるのよね?」

「ミスをしなければ勝てる筈です」


 この一ヶ月で、ゼアーから貰った過去問も満点を取れるようになり、魔法もプチ・エクスプロードが使えるようになっている。 


 流石に剣は全く教えられておらず、戦い方も拙いものだが、今回の勝負に対戦は組み込まれていないので、大丈夫だろう。


 リディスをソファーから立たせ、部屋から出る。


 向かうのはネフェリウスの部屋……ではなく、ゼアーが暮らしている客間だ。


 これはネフェリウスがリディスを私室に呼ぶのを嫌がったのもあるが、公平性の観点からゼアーの客間となった。


 リディスの斜め後ろに立ち、静かに後を付いて行く。


 メイドとしての仕事も板に付いたし、これ一本でも食っていけるだろう。

 まあそんな事をせず、ヨルムをドラゴンにして、鱗を剥いで売れば金には困らない。


 正直アクマの提案に乗ったのは後悔しているが、金に困らないと思えば多少気が楽になる。


 客間に近づくにつれてリディスの足が遅くなるので、その都度ヨルムでせっつく。


 そしてなんとか客間に着いた。


「開いてるから入って良いわよ」


 扉を叩く前に中から声がしたので、叩くのを止めて扉を開く。


「失礼します。リディス様をお連れしました」

「来たか。早く始めるぞ」


 部屋には既にネフェリウスが居り、どう見ても機嫌が悪そうだ。


 部屋には机が三つあり、どれも衝立で仕切られている。


 うん? 三つ?

 

「机が一つ多いようですが?」

「何を言っている。貴様もやるに決まっているだろう」

 

 ゼアーに話し掛けたはずが、何故かネフェリウスが答え、首を振って早く座れと促してくる。


 ゼアーの方を見ると、首を振られた。


 ついでにリディスの方を向くと、縋り付かれた。


 どうやら、俺もやらなければならないようだな。


「仕方ないですね」

「流石ハルナね!」

「ですが、やるからには全力でやるので、もしも私に負ける様なら……」


 吊っていたヨルムを床に下ろし、真っすぐ伸ばした鎖をリディスの眼前に突きつける。


 微かに悲鳴を上げ、リディスは後ずさる。


「手足の一本……覚悟しておくように」


 リディスにだけ聞こえるように小声で話す。


 何度も頷いているので、鎖を離してから椅子に座る。


 前回はアクマの力を借りてズルをしたので、今回は自力でやるとしよう。


 ネックとなるのは歴史だけだ。


 文法についてはアルカナの能力で勝手に翻訳してしまうので、全く問題ない。

 

 数学も仕事の関係上得意なので、計算間違い何て初歩的な間違いも起こさないだろう。


「三人共座ったわね。始める前に、今回の勝負について話をしておくわ。勝負については、学園の入試に基づいた座学と魔法試験の二つの合計点で決めるわ。そのメイドについては一般代表って所かしらね、何か質問は?」

「勝ったら、約束通り教えてもらうぞ」

「私じゃなくて、相手はリディス様ですので、お忘れなく」


 なぜか敵対心を剥き出しだが、貴族の子共ってのはプライドが高いもんだ。


 どうせ出来レースみたいなものだし、俺は適当に楽しませてもらうとしよう。


「まったく……試験時間は三時間。終わったなら手を上げてね。それじゃあ……始め!」


 





1






 

 試験開始から一時間半程経った頃。全て終わってしまった。

 

 何なら見直しをする余裕すらあったが、よくよく考えればこれは中学入試の様なものだ。


 歴史も日本で言えば戦国時代の大まかな戦い程度の問題であり、国語も世界が違うとはいえ、中学校レベルだ。


 暗記しなければならない歴史だが、これだけ勉強する時間が有ったので、全て埋める事が出来た。


 我ながらやってしまったかもしれないが、やるからには手を抜くつもりはない。


(二人の様子はどうだ?)


『どちらも必死に解いてるよ。特にリディスの方は鬼の形相って感じだね!』


 あれだけ脅したのだし、これで負けるようなら、それまでの覚悟だったのだろう。


 二度目の悪魔召喚をさせないために、相応の手段を取るだけだ。


 これ以上待つのも何だし、さっさと手を上げてゼアーに解答用紙を回収してもらう。


「お疲れ、出来はどう?」

「私の中身を知っているなら、想像できるのでは?」

「まあね。どうせ真面目に勉強していたんでしょ」


 それなりに長い年月この世界で生活しなければならないのだし、学ぶのは当たり前だろう。


 言葉一つ間違える事で、争いを生む可能性もあるのだからな。


 面倒だが、仕方ないのだ。


「風任せに生きるのが普通だと思うけどね。折角違う場所に居るのだし、楽しんだらどうなの?」

「これでも楽しんでいますよ。それとか」


 いつの間にかソファーで寝ているヨルムを指差す。


 因みに俺とゼアーの会話は聞かれても良いように、言葉は濁している。

 

「そう言えば、あれってどうしたの? 見た目通りじゃないのは分かるけど、いったい何所で拾ったのよ」

「少し素材が必要になったので、出向いた先で拾いました。これで分かりますか?」


 左手の甲をゼアーに見せると、眉をひそめてから納得したように頷く。

  

 俺とは違い、ちゃんと知識を持っているらしいゼアーなら、これでも理解できたようだ。


「契約紋ね……それにその紋様は……また大きなのを拾ったわね」

「近接戦の訓練には良い相手ですよ。頑丈ですし、思い切りも良いですからね」


 最初の戦いでは隙を突いて一撃を入れられたが、それ以降は察してほしい。


 人とは違い魔物のせいか、隙らしい隙も無いし、攻めるにしても避けるにしても思い切りがある。

 

 魔法を使えば一方的に勝てるが、いつかは剣だけで勝ちたいものだ。


「そりゃあ頑丈でしょうね……。そうそう、私に頼みたい事とかある?」


 ゼアーの待遇と言うか、境遇的に俺から何か仕事を頼まないと、またゼアーが怒られてしまうんだよな。

 

 ふむ……そうだな……。

 

「学園の入学生についてと、出来るならリディスのバックアップを」

「了解。後で調べておくわ」


 学園内まで付いて行く気は無いので、あまり意味はないかもしれないが、何かの役に立つかもしれない。


 侯爵家なのであまりちょっかいを掛けられないと思うが、受験と不正なんてセットの様なものだからな。


 こっそりと、裏で行動するのも手だろう。

 

 特にすることもなく、かと言って部屋から出るわけにもいかないので、紅茶を淹れてからゼアーと一緒にのんびりと待つ。


 三十分ほどするとヨルムも目が覚めたので、暇つぶしに魔法について勉強を始めた。

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