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第22話:真っ向勝負に弱い魔法少女

「……服がボロボロだけど、何してたのよ?」

「少々手合わせを。服はその内直るので気にしないで下さい」


 着ているメイド服は特別製であり、破れても勝手に治るし、下手な鎧よりも耐久力がある。

 

 なのにあちこち破けたり穴が開き、正にボロボロである。


 ヨルムとの戦いは、全てを後の先で返され、ならばと後手に回れば一方的に攻められる。


 いくら鎖で強度を上げた所で限界があり、ちょっとお見せできない程酷い有様となった。


 流石に手足を吹き飛ばされることは無かったが、力に力で対抗しようとした結果、腕が潰れたなんて落ちもあった。


 今回の一番の学びは、物理は避けようだ。


「そ、そう。なら気にしないわ」

「ふふふ。我に掛かればこんなものだ! 不意さえ突かれなければ、負けることなどない……と言えればカッコ良いのだがな」


 上がったテンションが急転落したヨルムだが、戦っている最中、調子に乗り始めたので、最後の一戦は何でもありで戦うことにした。


 あくまでも素の状態でなので、俺は魔法少女にならないし、ヨルムもドラゴンの姿に戻らない。


 魔法少女であっても、素の状態であっても、俺の戦い方は物量による力押しが基本だ。


 そもそもが能力的に純後衛しか出来ないのだが、いざという時のため、剣の練習をしているにすぎない。 


 最後のヨルムとの戦いが始まると同時に、暴虐な神を貶める鎖グレイプニルアライメントを発動し、全方位からの波状攻撃でヨルムを簀巻きにして勝利した。


 通常時の鎖ならばヨルムでも破壊出来るだろうが、俺が攻撃のために使った鎖を壊すのは無理だった。


 まあ一本や二本壊せたとしても、魔力が続く限り幾らでも生み出せるので、一撃で全ての鎖を壊されない限り、負けることはない。


 簀巻きにした後は、しばしの間椅子代わりにして上下関係について教えてやった。


 ペットの躾は、最初が肝心だからな。

 

「さて、今日は帰って少し勉強するとしましょう」

「もう帰るの? 折角なら一日中練習したいのに……」

「ネフェリウスとの勝負がありますからね。魔法の方は奥の手があるので良いとして、勉強は時間が全てですから」


 もしもネフェリウスの魔法の威力が俺の予想以上になったとしても、勝つ算段はある。


 その代わりリディスには、死ぬ程痛い目にあってもらう事になるが、背に腹は代えられない。


 本当は魔女相手に使おうとも思っていた魔法だが、諸事情により使えなくなかった。


 威力は折り紙付きだが、範囲や威力は魔力量依存なので、使い勝手は少々悪い。


 まあそんな魔法を使わなくても勝てるだろうが、手札は多い方が良いだろう。


「ついでにヨルムも勉強しましょうか」

「我もか?」

「はい。学びは力とも言いますし、損はないと思いますよ」


 こてんと首を傾げたヨルムは、少し固まった後に頷いた。


「そうだな。僅かな知識差で勝敗が分かれることがあると、昔母様が言っていた」

「それでは帰る……前に、一度洗いますか」


 リディスとヨルムはかなり汚れてしまっているので、魔法少女になってから二人揃って丸洗いした。


 水の魔法は日常使いでならやはり便利である。







1





 


 ギリギリ昼前に屋敷へ帰り、リディスの昼食が終わってから、勉強を開始した。


 過去問があるおかげで勉強の範囲が絞れるので、無作為に勉強しなくてすむ。


 リディスの物覚えは悪くないので、この調子ならネフェリウスとの戦いも、学園の入試もなんとかなりそうだ。


 ヨルムの見た目は俺と同じくちんちくりん……小さいが、中身はドラゴンなだけあって頭が良い。


 考え方の違いはあるが、一度教えれば理解してくれるので、とても楽である。


 勉強を始めて三時間程すると、先日魔力灯の件で助けたメイドがクッキーを差し入れしてくれたので一度休憩を取り、その後夜まで通しで勉強をした。


 ぶっちゃけ勉強自体は嫌いだが、ヨルムに話した通り知識は力になる。

 全てをアクマに頼るわけにもいかないので。覚えられる事は自分で覚えた方が良い。

 

「それではここまでとしましょう。お疲れ様でした」

「やっと終わりね……」

「人の世とは面白いものよのう」


 机に突っ伏すリディスと、これと言って疲れてなさそうなヨルム。


 何とも対照的な二人だ。


「それでは私達はこれで失礼します」

「ええ。また明日もお願いね」


 ヨルムと共に部屋から出て、自室に戻ろうと思ったが、今日の夕飯は何となく唐揚げか食べたいので、食料を貰いに行くとするか。


「おや? ハルナとヨルムではありませんか。食堂で食事ですか?」

「いえ。食材だけを貰いに来ました」


 食堂に入ろうとすると、運悪くメイド長に遭遇した。


 時間的にバッヘルンの所に居ると持ったのだが、珍しい。

 

「そうですか…………私も頂いても構いませんか?」

「大丈夫ですが、食堂で食べなくて良いのですか?」


 俺一人くらいならコックも何とも思わないだろうが、メイド長がコックではなくて俺の料理を食べている事が知られれば、流石に不味くないだろうか?


 俺がコックならば、多分落ち込むだろう。


「……正直此処の食事より、ハルナに作って頂いた食事の方が美味しいのです。いっそメイドではなくてコックになったらどうですか?」

「メイド長としてそれで良いんですか?」 

「東館では私が一番偉いので大丈夫です」


 それはただの職権乱用だが、多分誰もメイド長に意見できないのだろう。

 俺がメイド長に扱かれている時も、皆見守るだけだったし。


 別にメイドだろうがコックだろうが何だって構わないが、メイドを辞めようとすると、間違いなくアクマが煩いだろうから、辞める事は出来ない。

 

「今の所メイドを辞めるつもりはありません。リディス様の事もありますからね。それより、食事は作りますのでさっさと食材を貰って部屋に戻りましょう」


 因みに食料を貰う際、コック長は涙目であった。




 

 




2



 

 



 


 鳥っぽい肉と小麦粉やらなにやらが入った箱と、ヨルムを鎖で吊るしながら部屋へと戻った。


 メイド長には待っている間、ヨルムの教育をお願いしておいた。


 折角ならば、所作もそれなりの物にしておいた方が良いだろう。


 ヨルムの泣き声ならぬ、鳴き声をBGMにして下ごしらえを進める。

 

 鶏肉は味が染み込むまで寝かせたいが、そんな時間は無い。


 一応米を炊く時間位ならば寝かせられるので、アクマの言う通りの分量で、生姜やらニンニクやらで揉んでから放置した。


 そう言えば、コーヒーは無いくせに、米はあるんだよな。


 パンでも米でも食えれば一緒だが、コーヒーが無いのは釈然としない。


 付け合わせに何か作ろうと思ったが、面倒なのでコンソメスープもどきに適当な野菜を入れた物程度に留めておいた。


 男の料理など、これ位適当なのだ。


 まあ油を大量に使うと処分に困るので、家で唐揚げなんて作ったことないけど。


「お待たせしました。唐揚げとスープになります。熱いので気を付けて下さい」


 大きな皿に唐揚げを盛り、鎖でテーブルの上に置く。


 ついでに人数分のスープや、ご飯などの配膳も一括でやる。


 思考のリソースを大きく奪われるが、少しずつ慣れて来た。


「これはまた面白い料理ですね。溶いた小麦に鶏肉を付けて揚げたものですか」

「良い匂いだな。どれ先ずは一口」

「そんなはしたない事をしてはいけません」

 

 ヨルムが唐揚げを摘まもうとすると、メイド長が引っ叩いて止めた。

 

 子地味良い音が聞こえ、ヨルムは若干涙目でメイド長に謝った。


 料理を作っている僅かな間だが、しっかりと教育されているようだ。


「それでは食べましょうか」


 席に座り、適当に作った唐揚げを食べる。


 味付けはアクマ任せだったが、中々美味い。


「前回のグラタンもですが、これも美味しいですね」

「うむ。サクサクホクホクだ」

「ヨルム。フォークを握る手はこうです」


 ご飯はあるが、流石に食べるのは箸ではなくフォークである。


 俺だけ箸でも良いが、これ位は合わせておいた方が良いだろう。

 

 ヨルムにテーブルマナーを教えながら、粛々と夕飯を済ませる。


 因みに俺のテーブルマナーは、メイド長から合格を貰っているので完璧である。


 貴族の食事会に出して問題無い、とお墨付きである。


「食事が終わりましたら、またお手合わせお願いできますか?」

「良いですよ。食後の運動はした方が良さそうですからね」


 唐揚げは美味しいが、かなりカロリーが高いからな。


 女性としては少々気になるか。


 いくら食べても全く太らない俺からすれば、逆に羨ましい限りだ。


 こちらに来てそこそこ経つが体重は…………ああ、そもそも成長が止まっているのを忘れてた。


 そりゃあ太るわけもないか。


「むむむ……食事とは難しいものよのう」

「慣れれば大丈夫ですよ」

「これも学びと言う物か……」


 勉強の時はケロリとしていたヨルムは、食事が終わる頃に疲れ果てていた。


 プライドが高く、我が強そうだが、根を上げない根性は称賛に値する。


 バタンと転がったヨルムを放置し、食器を片付けてからメイド長と一緒に裏庭に向かう。


 ヨルムと死闘をしたおかげで、何となく戦いの感覚が掴めた気がする。


 代償に二桁を越える回数骨を折られたり潰されたりしたが、戦いとは痛みを伴ってこそだ。


 おかげで、フユネの圧が大分収まった。


「それでは、お願いします」

「――どうぞ」


 剣をヨルムがしていたように、下段で構える。


 鎖による強化はしていないので、力も速度も下がっている。


 素の状態での俺の剣。

 

 前回は惨敗だったが、どこまで通用するだろうか?

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