第201話:ラグナロク(耐久限界)
『流石だねー』
(そうだな。だが、だからこそ面白い)
流石神だな。
開幕ブッパを軽く防がれ、天と地からの挟撃。
そして魔力が使い放題だからと愚者の出せる卑怯染みた空間破壊もさらっと塗り替えられてしまった。
折角シルヴィー対策をしたのに、困った困った。
しかし、辺り一面に広がっている炎が厄介だが、これってプロキカーヌス以外の二人にダメージが入ってないか?
いや、シルヴィーの様子を見るにこれは無差別攻撃だな。
クシナヘナスも何やら黒いものを纏っているし。
俺の場合は纏っている服やマントのおかげで環境ダメージ程度は問題ないが、少し暑く感じる程度だ。
さて、ここからは俺も気合を入れ直すとしよう。
「見えざる者の一手」
シルヴィー用に自動迎撃用の魔法を展開する。
シルヴィーがその気になれば、俺が気付く間もなく後ろから攻撃をする事が出来る。
なので、近くに何かが寄ってきたら勝手に迎撃するようにしたのだ。
来ると分かれば後はどうとでもなる。
「さあ、抗ってみせな!」
「あまり暑いのは嫌だけど、仕方ないわ……ね!」
火力が高い魔法はどうしても派手になるが、龍の次は灼熱の雨で、似非悪魔の次は異形の怪物か。
俺が開幕吹雪モドキの切削魔法を使った仕返しか。
俺のが血液すら塵にするなら、プロキカーヌスのこれは血液すらも灰にするって感じだろう。
まずは灼熱の雨を氷の雨で相殺し、地上から迫ってくる怪物を見る。
…………これはまた厄介そうだな。
怪物は降り掛かる灼熱の雨を、呑み込みながら迫ってきている。
闇そのもの。分かりやすく言えばアンチマジック。
それでいて食われればその時点で負けとなるだろう。
見たところ、呑み込んで糧にしているみたいなので、許容量を越える魔法を使うのが定石だが、神の本気の魔法なので無理だろうな。
そうなると、呑み込めない程の魔法を使うしかないのだが……。
「それ~」
「よいしょ~」
「あ~れ~」
見えざる者の一手を展開すると同時にちょっかいをかけて来たシルヴィーが地味に邪魔だ。
思考を加速させて対処する時間を稼いではいるものの、シルヴィーの魔法もそれなりの威力があり、片手間に対処することが出来ないため、異形の怪物を倒すための魔力を練ることは出来ない。
戦争でも同じだが、ゲリラ戦術程厄介な戦い方は無い。
(さてさて、どうしたものか……)
『流石に三人は厳しいかな~?』
(そうだな。出来れば愚者だけでやり切りたかったが、これじゃあ無理そうだ)
おちょくる様な声で聞いてくるが、負けたとしても死ぬ事が無いので気楽なのだろう。
言ってはなんだが、アクマとエルメスはアルカナの中でも異端であり、覚悟ガン決まり系だからな。
さて、この状況を切り抜けるには愚者では分が悪いが、愚者を解除すると灼熱の雨を凌ぐのが難しくなる。
だからと言ってこの状態で対処しようにも、下の異形を放置できないし、シルヴィーを倒すのも難しい。
エルメスで対魔法特化の形態になれば、とりあえず危機を脱することは出来るが、それではつまらない。
(あれを使うが、大丈夫か?)
『おっ、ついに使うんだね。勿論大丈夫さ。ただ、制限時間には注意してね。それと、能力は使ってからのお楽しみさ』
アルカナ以外の残された一手。
選ばれた魔法少女だけが使える強化フォーム。
その力は通常時の数倍から数十倍であり、至れば魔法少女として成功者となる。
俺の通常の強化フォームは唯一無二であり、状態次第では魔女を倒せるだけの意外性と威力を出せる。
その代わり代償があまりにも重いのだが、この世界へ来るにあたり、何やら変更されているらしい。
賭けにはなるが、分の悪い賭けって程ではない。
「春に歌え”椿”」
1
空気を焦がし、全てを灰にする灼熱の雨。
その雨すらも呑み込みながら空中に居るハルナを喰らおうとする異形の怪物。
そしてそのハルナを牽制する不可視の風の魔法。
誰が見ても完全に詰みの状況だが、神達は慢心することなくハルナの状況を眺めていた。
特にクシナヘナスはハルナが隙を晒そうものならいつでも大鎌で刈り取れるように、ジッと見つめている。
「あれは……」
「前回とは違うわね。何をするのか……」
シルヴィーの遊撃により何も出来ないはずのハルナの全身が花に包まれ、蕾へとなる。
そして空間全体に重圧を感じる程の魔力を放ちながら蕾は花開く。
中から現れたハルナは黒いローブに身を包み、右手には剣。左手には杖が握られている。
身長は百七十程まで伸び、顔も少女から女性のモノへと様変わりしていた。
「なるほど。そう来ましたか」
ハルナは強化フォームになった事により、どの様な能力を得たのかを理解した。
元のハルナの強化フォームは対価を払う事により、対価に見合った現象を引き起こすものだった。
しかしその能力はあまりにも危険なため、この世界では代わりの能力が与えられていた。
斬撃を異形の怪物へと飛ばし、数え切れないほどの小さな魔法陣を展開して、灼熱の雨を迎撃する。
更に空間が崩れ去り、再び荒野へと様変わりする。
「おいおい。これを吹き飛ばすってのか。異世界は怖いねぇ」
「近接の方がまだマシかしらね。シルヴィー。プロ」
「分かってるよ~」
「おうよ」
あまりにも常識外れの攻撃に神達は呆れるが、ならばと直ぐに行動を開始する。
プロキカーヌスはその両手に赤く燃える炎を纏い、クシナヘナスは大鎌を構え、シルヴィーは姿を消す。
ハルナが魔法の方が得意というのはシルヴィーからクシナヘナス達へ伝わっており、クシナヘナスとプロキカーヌスが前衛。
シルヴィーが遊撃をする事に決めた。
ハルナは杖を一振りして自分の後方に大量のアイスランスを展開し、その全てをプロキカーヌス達へと放つ。
それをプロキカーヌスは、自らの炎で溶かしながらハルナへと殴り掛かる。
炎を推進力として放つ拳は近寄るだけで燃え尽きるが、ハルナは剣で捌きながらいつの間にか上空から放たれたシルヴィーの魔法を防御し、お返しとばかりに追尾性のあるレーザーを放つ。
そしてプロキカーヌスの攻撃の隙を援護するように振るわれる大鎌を軽々と避け続ける。
「接近戦は苦手じゃなかったのかよ!」
「そのはずなんだけどね……」
「私を挟んで会話をしないでくれませんか?」
「なんか追ってくるよー!」
攻防が行われるごとに空間へ罅が入ったり、異空間が現れたりと正に神々の戦いなのだが、その会話はなんともほんわかとしている。
無論表情は真剣そのものだが、声には戦いへの喜びが隠しきれていなかった……シルヴィーは別だが。
この世界での強化フォーム。それは、疑似的にアルカナの同時開放をするものだった。
そもそもアルカナの同時開放とは本来あり得ない事なのだが、強化フォームによって増えたリソースと、ソラにより肉体的にも強度が増した事により、下位互換とは言え成ってみせたのだ。
それでもソラを併用して七割。ソラ無しならば五割ほどだが、その戦闘能力は群を抜いている。
文字通り人が神に抗う程に……。
「いてててて……もうそろそろ終わりにしないと危ないかな~?」
なんとかハルナの魔法を相殺したシルヴィーは、ハルナ達と周りを見て危機感を抱く。
いくら神が作り出した空間であり、意識だけを飛ばしている状態とは言え限界がある。
神同士の戦いが禁じられているため、空間が耐えられないなんてことは起こりえないのだが、開幕から空間をぶち壊し、その壊した空間を壊し、更にぶち抜くなんて所業をしているのだ。
現に空間はあちこち崩れたり罅が出来始めている。
決着が先か、空間が壊れるのが先か。
残念ながらこの場に居る誰の頭にも、戦いを途中で止めるなんて考えは無い。
そう、シルヴィーでさえもだ。
創造神の駒とはいえ、長い年月生きていればどうしても潤いが欲しくなってしまう。
何よりも、神が全力で戦える事はこれまで一度も無く、案外楽しいのだ。
シルヴィーは権能を使いハルナへの死角へと回り込み、他の二柱の邪魔にならないように攻撃を仕掛け、ハルナの攻撃を防ぐ。
プロキカーヌスは炎の腕を追加で二本作り出し、攻撃の量を倍に増やし、クシナヘナスは絶えずハルナへとデバフをかけ続けながら大鎌を振るう。
互いの攻撃は一撃でも当たれば流れを変え得るものだが、流れが変わった位ではあまり意味がない。
ハルナは痛みを無視して動ける強い自我があり、更に今のリソースならば半身が吹き飛ばされた程度ならば瞬く間に再生することが出来る。
そして再生できるのは神側も同じであり、一撃で命を刈り取らなければ流れは直ぐに元に戻ってしまう。
なので……。
「あっ」
空間を維持しているクシナヘナスが最初に気付き、少し遅れてハルナやプロキカーヌスも異変に気付いた。
「……」
「……」
「やっぱりか~」
ハルナやプロキカーヌスがやった塗り替えではなく、空間が完全に崩壊を始めた。
ある意味文字通り世界を一つ壊した形となるが、この空間が崩れ去れば戦いは終わりとなる。
既にクシナヘナスの手ではどうしようもなく、全員の意識がはじき出されてしまった。




