第170話:ダンジョン科へ
リディスが負けた盤遊戯だが、端的に言えば将棋のようなものだ。
互いに王となる駒は固定で、そこから決められたコストまで様々な駒を選び、盤の上に設置する。
そこからは交互に駒を進めていき、先に相手の王を取るか、三分の二以上の駒を倒した方が勝ちとなる。
勝利方法が二種類あるのは戦争を元にして作られた遊戯だからだろう。
兵が一定以下まで減れば、例え勝ったとしても次に繋がらない。
そして王が居なければ、同じく兵士が居たとしても意味が無い。
中々考えられた遊戯だ。
昼食中に聞いた話では、リディスは相手の王を取る戦法を選択し、相手の教師も同じような手で進めていたらしい。
しかし途中で上手くリディスの手は躱され、リディスの駒が王を取るよりも早く、リディスの駒が三分の二以上取られ、リディスの負けとなった。
綺麗に型に嵌められ、逆転の手すら封じられての敗北。
あまりにも不甲斐ない結果となり、リディスは自分に腹を立てていた。
遊戯については教師から中々の手だと褒められたらしく、それが更にリディスにダメージを与えたのもあるみたいだ。
ゲームはそこそこやってきたが、将棋とかはあまり得意ではないので、俺としては頑張れとしか言えない。
まあ思考系の物ならばアクマに任せればほぼ勝てるだろうが、それはあまり面白くないからな。
「上手く嵌められたって事ね。まだ入学したてなんだから、次に生かしなさい」
「……承知しています」
年長者らしくアンリがなだめ、リディスはふくれっ面を止めた。
「どんな事でもそうだけど、知識だけでどうにかなるなら、人はここまで争わないし、魔物だって消えているわ。経験を積み、その経験の上に知識を積み重ねて、人は成長するのよ」
「そうですね。どちらも疎かにしないことが、いざという時の勝利を呼び寄せるのです」
食後の紅茶を飲み、気を取り直し始めたリディスの事を一旦おいといて、午後について考える。
午後行く予定となっているダンジョン科は、例の森にあるダンジョンにて授業が行われる事があり、今日はそちらで授業をしている。
流石にダンジョン内に入るのではなく、ダンジョンの外で青空教室をしているとか。
貴族なのにそれで良いのかと言いたい所だが、ダンジョン科は貴族の割合がかなり少ない。
まあダンジョンに潜るって事は冒険者になるって事であり、貴族が冒険者になるパターンを考えれば、学園で貴族が少ないのは当たり前と言える。
既に実家に見切りをつけているか、没落する可能性があるか、或いは奇特な奴か。
大体そんな感じだ。
「もう直ぐ時間になりますので、先に失礼させていただきます。ヨルム。基本的に手は出さなくて大丈夫ですからね」
「うむ。心得ている」
「……」
じっとりとした目を向けてくるリディスを放置して、研究室から出る。
ダンジョン科が授業をするダンジョンは森の中なのでそれなりに距離があり、少し早めに向かい始めた方が良い。
ダンジョンへと向かう道はしっかりと森が切り開かれているので、迷うことなく歩くことが出来る。
ついでにダンジョン科はこちらと看板が立て掛けられているので、尚更迷うことはない。
くまさんで出てきそうな森を歩いていると、小高い丘が見えてきた。
丘には人工的な門が取り付けられ、近くには部活動用の小屋も立っている。
そしてホワイトボードや椅子が外に置かれ、生徒達が寛いでいる。
知り合いがいないと良いと思いながら軽く見渡すと、一人だけ知り合いが居た。
居たが、シャナトリアやアーシェリアじゃないので、被害が出ることは無いだろう。
そして知り合いは俺に気付き、ふらっと近寄ってきた。
「おや、まさかこんな所でお会いするとは思いませんでした」
「私もです。学園内の教会か、光属性の魔法科辺りの手伝いをしていると思っていました」
ダンジョン科に居た知り合い。それはエメリナだった。
宗教科か他の学年の光属性辺りの手伝いをしていると思ったので、驚いた。
「ダンジョン科の方にお誘いを受けまして。少し手伝ってほしいと」
「そうだったのですね。差し支えが無ければ、教えて頂いても? ついでに、ダンジョン科について教えて頂けると」
「良いですよ」
まだ時間があるので、エメリナにダンジョン科についてと何をしているのかを聞いた。
大雑把な事は知っているが、実際に何をしているかまでは知らない。
そんな訳でダンジョン科についてだが、科目の中でもダンジョン科は他とは違った授業をしている。
一年生から四年生でパーティーを組み、そのパーティーで学園のダンジョンの攻略を目指す。
どうしてなのかは省かれたが、考えれば分かる事だ。
ただダンジョンを攻略していくだけならば、学年ごとにパーティーを組めば良いが、ダンジョン内では何か起こるか分からず、仲間の脱退や加入。そして育成なんかもしなければいけなくなる。
そのための混合パーティーなのだろう。
育成のしかたを学ぶと共に、初心者が居る際の注意点や生き残るための術。
責任感やリーダーとしての資質を育むことが出来そうだ。
ついでにダンジョンは見た目は一つだが、中には三つのコースが存在している。
初心者コースと中級者コース。そして上級者コース。
詳細は後で聞くとして、上級者コースでは実力次第では死者が出ることもあるらしい。
死者が出るとは穏やかではないが、上級者コースは外のダンジョンとほぼ同じらしく、このコースをクリアできれば外のダンジョンでも、それなりに活躍は出来るらしい。
上級者コースをクリア出来ないからと卒業出ない訳でもなく、無理に挑まないからこその評価もあるとか。
そしてエメリナが呼ばれた理由だが、見学者達にダンジョン内を案内するためだ。
見るのは初心者コースであり、ダンジョン科の生徒や教師が居るとは言え、不測の事態が起こらないとも限らない。
保険の保険。そんな所だろう。
「ハルナは将来冒険者になるのですか?」
「考え中ですね。リディス様が卒業するまではメイドの予定ですが、その後はまだ考えている最中です。お金はあるので、どこかでひっそりと暮らすのもありかもしれません」
「……まるでお爺さんみたいですね」
まあひっそりと暮らす事は無いだろうが、卒業後の事はまだ考えている最中だ。
天界と魔界に旅行に行くのは確定だが、合わせても一年も掛からないだろう。
そうなると大体半分の五年余ることになるので、その五年をどうにか埋めなければならない。
まあ焦って考えるものでもないので、その時になったら考えれば良い。
「時間になりましたので、皆さん座ってください!」
エメリナと世間話している間に時間となり、エメリナは教師の方に歩いて行き、俺は空いている椅子に座る。
俺以外に居る一年生は二十人位か……。
見学だけとはいえ、結構多い気がするな。
「ダンジョン科にお越しの新入生諸君。ダンジョン科へようこそ。私達の紹介は後回しにして、早速授業といこう」
完全に見るだけだった美術科とは違い、危険を伴うので、しっかりと説明はあるか。
「いつもならここでダンジョンの説明をするだけだが、今年はSランク冒険者のエメリナさんが来てくださっているので、実際にダンジョン内を案内しようと思う。危険は無いとは思うが、どんなダンジョンであっても、気を抜いたものから怪我をし、最悪の場合死んでしまう。私達も十分注意するが、諸君も気を抜きすぎないようにしてくれ」
注意というよりは脅しって感じだが、その通りとしか言いようがない。
相手がどんな魔物であれ、魔物である以上こちらの命を狙ってくるのだ。
先日のオリエンテーションでも、武器も牙も折られた魔物が立ち向かってきたように、どんな状況であれ殺しに来る。
だからと言って常に気を引き締めていては、直ぐに疲れてしまうが、それについてはどうせ話してくれるだろう。
「それでは早速ダンジョンに……と行きたいが、ダンジョンに入る前にいくつか注意事項がある。よく聞いておくように」
勢いのままダンジョンを見て回ると思ったが、教師はダンジョンへ入る際の注意点を話し始めた。
大体は火事の際のおかしと一緒だ。
何が起きても慌てず他人を押さない事。
逃げる時は駆け足で逃げる事。
基本的に休憩の時以外は喋らない事。
後は指示に従うや無闇に物に触らない等、実にありきたりの注意事項だ。
大声さえ出さなければ歩きながら雑談は問題ないと最後に付け加えていたが、これだけ言われて話をする奴はいないだろう。
「それでは、実際に入るとしよう。二年と三年は前に一年生を挟んで四年生は後ろの警戒をするように。それでは――行くぞ!」
態々気を引き締めるような号令をしてくれるが、まあ気楽に楽しむとしよう。




