第168話:授業選び
オリエンテーションも最終日。
そしてストロノフがこの屋敷に来る日でもある。
騎士の間者が居るが、ここでは何もする予定はないので問題ない。
受ける授業についてだが、一晩考えた結果四つまでは決めた。
一つ目は最初から決めていた光魔法の授業。
人も居ないし、教師も知り合いなので、大分気が楽だ。
二つ目はリディスが受ける戦略科だ。
リディスが他に受けるのは剣術科や帝王学等となってくるので、合わせるなら戦略科が一番マシだった。
他に比べてあまり人気が無く、戦略科とは言ってもずっと机に嚙り付いている訳ではない。
俺としては一日中座って勉強でも構わないのだが、それはともかくとして。戦いは地図の上ではなく、現場で起きているという事で、それなりに外での授業もあるらしい。
だからこそ不人気なのだろうが、この科は後数年平和が続けば無くなるだろう。
戦略とは基本的に戦争で使われるものであり、戦争が無ければ無用の長物となる。
この国ではあまり学ぶ意味がないとされてしまっている。
世論により廃止という流れだろうが、戦争に弱くなったと分かれば、他国が侵略してくるのは目に見えているし、それを狙って無くそうとしている派閥が居る。
これだけ豊かな国が簡単に手に入る可能性があるのなら、数世代位我慢する国がいてもおかしくない。
まあその前に叛乱だか内乱だか侵略が起こるのはほぼ確定事項なのだがな。
三つ目は創造魔法科だ。
これも不人気であるのだが、これの今年の担当はアンリとなる。
科目の通り新しい魔法を作ったり、魔法の改良についての科だが、この世界は既存の魔法の熟練度を上げるのが主流となっている。
固有魔法を持っている生徒が受けたリするとか、ゼアーから貰った資料には書いてあったが、それでも受ける生徒は少なかったりそもそもいなかったりする。
ちなみに、今の学園では全学年でこの科目の授業は行われていない。
だからこそアンリが割り振られたわけだが、もしもこの科目を取る生徒が五人現れなかった場合、アンリはいくつかの授業の助手をする時以外は暇になる。
おそらく研究室に籠って自分の研究に没頭するだろう。
嫌がらせも兼ねて選んだわけだが、一つだけこの科目を選ぶデメリットがある。
おそらくアーシェリアが受ける可能性があるって事だ。
アンリとアーシェリアの研究は違うものだが似ている部分もあり、アーシェリアの性格を考えると受ける可能性が高い。
紛いなりにもアンリは名が知られているSランク冒険者であり、他国によく出掛けていたアーシェリアならばその凄さを知っているだろうしな。
有象無象と一緒に居るよりはまだアーシェリアの方がマシだろうと思っての判断だが、これがどう出る事になるか……。
一応人数合わせのためにヨルムには受けるように言ってあるので、もしも今日の時点で人数が足りない場合はこっそりと手を打っておくとしよう。
授業が無くなるのだけは避けたいからな。
そして四つ目は、無難に薬学だ。
薬学と言っても人気のある魔法薬学ではなく、ただの薬学である。
科目の名前は似ているが、内容は全くの別物だ。
魔法薬学は錬金術に近い物であり、ポーションの作製やバフやデバフの薬を作ったり、戦いで使う物がメインとなる。
薬学はどちらかと言えば植物学であり、薬草の育て方やポーションではなく生薬の作製。
そういった戦闘ではなく後方支援側の物がメインとなる。
なぜ魔法薬学ではなく薬学を受ける事に決めたのかだが、ポーションの作製は世界が変われば変わるし、そもそも無い世界の方が多い。
しかしただの薬ならばどの世界にもあるし、植物の育て方は様々なので応用が利く。
俺には必要は無いだろうが、技能としてあって困るものでもない。
もしもの場合に生計を立てる一助になる可能性もあるし。
「おはようございます。本日も欠席者はいませんね。まずは用紙を配りますので、軽く見て下さい」
教室に来るのも慣れ始めた今日この頃だが、ハロルドが入ってきて早々選択授業の申込用紙を配った。
裏には受けられる授業の一覧と場所が書かれているが、授業数が多いせいでかなり読みにくい。
一年次は午後ごとに一科目だけだから良いが、二科目とか受ける様になった時は、受ける授業をしっかりと選ばないといけないだろうな。
こんな広い学園の端から端の移動ともなれば、かなりの時間を取られる事になる。
「既に決めている方は直ぐに出していただいて結構ですが、今日の予定を話させて頂きます」
用紙が全員に行き渡ったのを確認したハロルドは、ホワイトボードに今日の予定を書いていく。
今日のはオリエンテーションと銘打っているものの、前にあったクラブのオリエンテーションと同じで、全クラス合同と言えば合同だが、自由と言えば自由である。
一番分かりやすい例えは、授業参観だ。
他学年の授業を自由に見て回る事が出来、それによりどの様な授業かを知ろうといった内容だ。
今日に限り授業の内容も一年生に合わせたものにしてくれているらしく、授業が先に進んでいるせいで理解が出来ないなんて事が起きない様に、教師たちも配慮してくれているらしい。
授業数が授業数のため、クラブの時とは違い丸一日自由に見て回る事が出来る。
授業を選ぶ身としては良い事だが、どうせ半分以上は暇な時間になる。
「……基本的に見て回るのは自由ですが、上級生の邪魔にならない様に心がけるように。また、用紙の提出は月曜日の午前中までとなります。何か質問はありますか? ……大丈夫そうですね。それでは、しっかりと授業を選ぶようにして。それと、月曜日からは通常授業となりますので、教科書等を忘れないで下さいね」
これで自由時間となるわけだが、そう言えば月曜日からは普通に授業だったな。
普通に学校に通っていた時は、教科書を置いて帰ってなんて事をしている奴らもいたが、俺は出来なかったな……。
そんな事をすれば次の日には盗まれ、金を請求されていただろう。
姉の慰安金で金だけはあったからな。
「なあ、ハルナは剣術科や騎士科とか受けたりするのか?」
全員が出て行くのを待っていると、シャナトリアが後ろを向いてきた。
「どちらもメイドには必要ありませんので、選ぶ予定はありませんね」
「なら火属性の魔法科は?」
「メインは光となるので、そちらだけで充分です」
一部の授業を除き基本的にどの授業も、魔物や対人戦を授業中にすることがある。
あれだけ負けたと言うのに、シャナトリアは俺と戦うために、同じ授業を受けたいのだろう。
「ぐぬぬ……」
「因みに、何を受けるのかを教えるつもりはありませんので、御了承ください。それでは失礼します」
唸っているシャナトリアを放置して、教室から出る。
このままリディスと合流をする……なんて事はなく、リディスとは別行動になる。
リディスは既に受ける授業が決まっているのと、今日は図書館に籠ると言っていたので、一緒に居る意味がない。
昼食は一緒に取るが、それ以外は別行動だ。
さて、何を見にいくか……。
(何か意見はあるか?)
『美術科がおすすめです』
『魔物科とか面白そうじゃない?』
『ダンジョン科なんてどう? 嫌っているみたいだけど、将来的に役に立つかもよ?』
『剣術科』
……一人多いが、上から順番に考えていくとしよう。
あくまでも提案であり、切り捨てるのは考えてからでいい。
美術科……設計兼デザイナーをしていたので、絵心は最低限あるとは思う。
ある意味絵で飯を食っていた訳だが、得意なのかと言われれば、別にそうでもない。
家で引き籠って仕事をするのに向いていたのと、大きな物件はどうしても顔を突き合わしての打ち合わせとなるので、嫌でも外に出なければならない。
その外に出なければならない状況というのは、俺にとってありがたい物であった。
まあ感傷はおいといて、見に行くだけ見に行くのはありだろう。
魔物科は……無いな。敵なんて殺すか殺されるかだし、魔物の生態とか知った所で意味はない。
魔法無効とか物理無効とかの、あまりにもファンタジーな魔物が出てくるならば別だが、基本ごり押ししか出来ない俺には関係ない。
ソラの勧めてくれたダンジョン科だが……興味は無いし、トラウマもあるのだが、将来的に考えれば悪くない選択とも言える。
小説でもある話だが、主要産業がダンジョンな世界なんてのがあってもおかしくない。
ダンジョンの歩き方やトラップへの対処。
注意しなければいけない点や定石等……。
アクマが居る限り大抵は問題無いが、俺自身が出来ておいて損は無い。
即死さえしなければ立て直せるが、即死してしまえばそこまでだからな。
まあダンジョンが産業として成り立っている世界ならば、ポーション等を作ってなんて方法もあるが、選択肢はあるに越した事は無い。
個人的なトラウマを抜きにすれば、見に行くのはありだ。




