第167話:リディスの嘆き
さて、声を掛ける前にしておく事があるな。
(一体全体どうしてああなっているんだ?)
『色々とあるけど、性格の不一致に、テロの際の行動についてとか、リディスに対しての態度とか……そんな所だね』
概要だけは分かっているが、やはり楽しいパーティーがあったようだな。
出来ればコーヒーでも飲みながら眺めていたかったが、巻き込まれるよりはマシか。
「お疲れ様です。歓談中申し訳ありませんが、迎えの馬車が来ているため、リディス様をお連れしても宜しいでしょうか?」
なるべく気配を薄くしながら近づき、声をかける。
アーシェリアとヨルム以外は何かしら驚いた反応を取るが、近くで見ると、アーシェリアの目が据わっているな。
「ハルナか……そうだな。ここで話していても意味など無いし、また今度話すとしよう」
「なんであんたが決めようとしてるのよ。でも、そうね……クルル。帰るわよ」
「はい。承知しました」
反応したマフティーにアーシェリアが噛みつくが、アーシェリアは直ぐに切り上げて去って行った。
あの感じでは、話す事が無意味だと思っている感じだろうか?
なまじ頭が良いせいか、怒って罵声を浴びせるよりも、さっさと見限る方にかじを切ったのだろう。
これがタラゴンさんだったら、相手を全員殴っていただろうが。
「なんか変な空気にしちゃってごめんね」
「気にするな。あれは元より性格に難があるからな。俺達も帰るとしよう。リディス達よ。また明日会おう」
アントワネットとマフティーもそのままいなくなり、頑張って無表情を維持しているリディスと俺のバッグからいつの間にかクッキーを盗んでいるヨルムが残される。
ヨルムの奴、また身のこなしのレベルが上がったな。
クッキーを食べ始めるまで気付く事が出来なかった。
単純な身体能力はやはりどうしようもないな……。
「無事ではないみたいですが、何事もなく帰ってこられたようですね」
「……帰りましょう。話は後よ」
先程の泣き言が嘘の様に……というか表面上は冷静さを保っているように見えるのだが、リディスは馬車へと向けて歩き始めた。
今はまだ馬車での通学でも良いが、近い内に馬車での通学は止めなければな。
帰る時間もマチマチになるし、距離的に身体強化等をすれば問題ない。
馬車で待っていてもらうのも大変だろうし、人件費削減にも繋がるので、後でメイド長に進言しておこう。
令嬢としては駄目だろうが、訓練の一環として見れば悪くないだろう。
馬車停で待っている馬車に乗ると、屋敷に向かって動き出す。
そして誰にも見られていないと分かると、大きくため息をついた。
「どうして私があんな目に遭わないといけないのよぉー……」
「首席だからじゃないですか?」
「関係ないでしょうが!」
まだ一週間も経っていないというのに、大分お疲れのようだな。
「それで、具体的には何があったのですか?」
「――あれは、ワインの工場を見学している時だったわ……」
遠い目をしながら話し始めたリディスの話は、屋敷に着くまで続いた。
大筋はアクマが言っていた通りだが、それ以外にもリディスの心労が溜まる事が多々あった。
アーシェリアについてはリディスも諦めているようだが、そこにマフティーとその取り巻きが加わり、更にアントワネットが加わった事により、常に空気がひりついていたらしい。
アントワネットが普通でないのは知っているが、この世界で平民から貴族に近づくなんて事は基本しない。
不敬罪で処刑……は流石に王都では起きないらしいが、取り入るならばともかく、友達の様に接するのは自殺行為と言って良い。
田舎者らしいが、普通ならば自分から遠ざかりそうなものだが……まあアントワネットの事は一旦おいておこう。
マフティーやその他の貴族はあまりアントワネットに嫌悪感を持っていなかったようだが、アーシェリアはアントワネットを嫌っている。
まあこれについてはまだ序の口だったらしく、件のワイン工場に着いた後、クルルがテロリストの人質にされた。
テロに屈しないとはこの世界でも同じらしく、アーシェリアはクルルを切り捨てる判断をしたのだが、そこでアントワネットが待ったを掛け、そこにマフティーが参加してそれはもう大変な口論となった。
一応ジョンとしては生徒を犠牲になんて出来ないので、あの手この手でクルルを救おうとしたらしい。
まあ最後は面倒になったヨルムが、転移でテロリストの背後に回り、全員倒すついでに工場を爆発させてしまった。
爆発にテロリスト達が気を取られている内に救ったと、建前を作るためにやったそうだが、この爆発がかなり酷い物であった。
アーシェリア達は言い合いをしており、更にジョンは少し離れてしまっていたため、動けるのは場慣れしているリディスだけであり、それはもう盛大に魔法を使ったそうだ。
おかげで生徒に怪我人が出る事は無く、テロリストは大怪我をしたものの命に別状は無しと万々歳の結果となった。
ヨルムの行動だけは咎められるものだったが、結果的に助かったのでジョンは強くは言えなかったらしい。
ただ、その盛大に使った魔法が魔法だったため、アーシェリアとアントワネットから色々と話しかけられ、更にマフティーが興味を持ち、おまけに他の生徒からは微妙な目で見られる事となったとか。
ついでにこれはリディスが感じた事だが、アーシェリアに対する視線に余所余所しいのが増えたそうだ。
これについては無理もないが、正しいのはアーシェリアだろう。
アーシェリアもクルルが嫌いだから見捨てたのではなく、貴族として当然の選択をしただけだ。
俺やヨルムなんてチートみたいな奴が居なければ、人質を助け出すなんてのは愚の骨頂でしかない。
テロリストも上手く進んでいる時ならばともかく、追い詰められれば人質なんて簡単に殺すのが目に見えている。
相手への牽制という意味でも、選択としては間違っていない。
それが子供にどの様な目で見られるのか。アーシェリアは間違いなく理解している。
俺の世界でも魔物との共存を訴える馬鹿な連中が居たが、そいつらのせいで犠牲になった魔法少女や一般人はそれなりの人数居る。
犠牲に対して魔法少女が悪い。魔法局が悪いなんて声も少ないが上がっていたが、一度人類滅亡に片足を突っ込んでいたので、メディアも一々不安を煽る様な行動を取らなかったので、炎上するほどではなかった。
平和であるからこその弊害……アーシェリアもこれで少しだけ肩身が狭くなりそうだな。
どうせ気にはしないだろうし、シリウス家が真っ当な貴族なら褒められる事はあっても、叱られる事もないだろうし。
何はともあれ、リディスからしたら散々だったようだ。
しかし、テロか……偶然と片づけるにはあまりにもおかしなものだ。
十中八九スティーリアが関わっていると見て良いだろう。
人質となったのがクルルなのを見るに、完全に下っ端による行いなのだろう。
情報は殆ど与えられず、切り捨て前提でのテロ行為。
あわよく誰かを殺せれば儲けもの……その程度だろう。
失敗してもスティーリア側が失うものはなく、不和の種を蒔くことが出来る。
おまけに学園外での出来事となるので、どれだけ調べても主犯格までは調べきれないと見て良い。
やっていることは最悪だが、やはりスティーリア本人は有能みたいだ。
「大変だったようですね。着きましたので降りましょう」
「……本当に他人事みたいな感想ね」
そりゃあ他人事だし、ヨルムがいる以上最悪は起こり得ない。
人の悪意程度は、リディスにも慣れて貰わなければ困るというものだ。
「その通りですから。それにヨルムがそちらにいる以上……」
「分かっているわ。こんなのでも、私より強いんですもの」
話を遮るとは、令嬢の癖にはしたない奴だ。
「それは何よりです。夕飯の準備がありますので、私は先に失礼します」
「……ええ、今日も頼むわね」
釈然としない表情をするものの、リディスは自室へと入っていく。
さて、今日の夕飯パスタとピザでも作るとしよう。
「ヨルム。行きますよ」
「うむ」
パスタは乾麺を購入しており、ピザ生地は適当で良いだろう。
ピザ位の料理ならば、アクマのレシピ通りに作ればミスる事はない。
パスタは……そうだな、ここはシンプルにペペロンチーノにして、ピザは肉とチーズの……ピザはピザだな。
ピザ生地作りはヨルムに任せ、具材の方の準備を進める。
どちらも特殊な技能が必要ない簡単な料理だが、量を作るとなると話が変わってくる。
ついでにここの厨房にオーブンはあるが、大量のピザを焼けるほどではない。
なので鎖で窯を作り、魔法で焼く事にした。
遠赤外線なんてものはでないが、焦げについては自分で調整できるので、焼きミスが起こる事はない。
そんなこんなで大量に作って良い感じに盛り付けて、ついでに適当なトマトスープを付けて出来上がりである。
中々雑な作り方ではあったが、案外美味しかった。




