第165話:一方その頃のリディス達
「あの、良かったら一緒に見て回らない?」
自由時間になって直ぐに、ストロノフが控え目に寄って来た。
丸々二時間の自由時間であり、二時間もあれば群馬からオーストラリアまで行って戦ってから帰ってくる事も出来る。
…………おっと、これは元の世界でならだな。
今思えば、現代社会に転移装置というのはかなり役立っていたな。
昔は飛行機や船で他国と行き来していたらしいが……まあその事はおいといて、とりあえずストロノフと一緒に街を見て回るのは構わない。
見たい場所があるわけでもないし、興味自体も薄いからな。
「構わないですよ。とは言っても、何も分からないので、見て回るだけになると思いますが」
「ううん、大丈夫だよ」
まあここに居る大半が、この街の地理を理解していないだろうが、知らない所でどう過ごすのかも勉強の一部なのだ。
迷子が出なければ良いが、その時のために複数の教師を同伴させているのだろう。
そんなわけで、ストロノフを伴って街へとくり出す。
こんな時に寄ってきそうなアンリとエメリナは前回と同じくお留守番だ。
時間が真昼間な事もあり、それなりに人の行き来がある。
大人だけではなく、普通に子供が居るのを見ると、妙な違和感を感じる。
義務教育があるのならばともかく、無いのだから昼間から子供が外に居てもおかしくない。
豊かであるならば、平民も含めて義務教育制度を導入すれば、更に発展すると思うのだが、そこは貴族制度の弊害というものだろう。
平民は平民らしく、馬鹿であれってことだ。
「街全体からも、なんだか匂いがするね」
「都市として作っているものが作っているものですし、それらが運ばれていたり、売られている関係でしょう」
嫌な匂いという程ではないが、花畑みたいに色々な匂いが混ざった匂いがする。
香辛料の類はここで買ってしまうのもありかもしれないが、リリア経由でフェニシアリーチェから仕入れた方が、安心感がある。
残念ながら俺には物の良し悪しを見抜く目はまだ無いため、専門家に任せてしまった方が良い。
仕事というのは、自分が出来るからと全てを自分でやっていては、時間を浪費するだけだ。
今の俺には浪費出来る時間がある訳だが、何事にも順序というものがある。
目利きなんて後で覚えれば良い。
そう言えば、選択授業についてもそろそろ考えておかないとな。
明日の最後のオリエンテーションが終わるまでには、どの授業を受けるかハロルドに提出しなければいけなく、ついでに教科書の類も明日か月曜日の午前中までに買っておかなければならない。
メイドとしての立場で言うならば、リディスに合わせるのが道理だろう。
既に何を選ぶのかは知っているので、合わせるのは容易い。
ただ、一部に授業では間違いなくアーシェリアがリディスの授業に合わせてくるはずだ。
アーシェリアの事は嫌いではないが、面倒ではあるので、出来れば避けたい。
最初に選択できる科目は五つ。
つまり、一日ごとに受ける授業が代わる事になる。
午前は普通に教室で座学をし、午後は選択を授業を受けるのが一年時の流れとなるが、取り敢えず受ける授業の一つは決まっている。
残りの四つはどうするかだが……ふむ。
「ストロノフさんは、来週からの授業をどうするか決めていますか?」
「授業? 一応決めてるよ。魔法薬学と魔法学でしょ、それから歴史と風の魔法の授業。それから魔導具作製だよ」
見事に戦闘関係の授業がほとんどないが、一応風魔法の授業だけは実技に入るか。
魔法薬学は選択するか悩んでいるが、この世界の薬学を学んだとしても、役立つのはこの世界に居る間だけだ。
他の世界に行っても多少は役立つだろうが、あまり学ぶメリットを感じないため、保留にしている。
学園で学ぶよりも、他で学んだ方が有意義な気もするからな。
「実技がほとんどないですね」
「あまり戦うのは得意じゃないからね。それに固有魔法の事もあるし」
精霊魔法については、ストロノフの意思を尊重するしかない。
ストロノフが好戦的な人物ならば、リディスみたいに鍛えて見るのも一興だが、まあエルフについてはリリアが居るし、あれで十分だろう。
もしかしたらリリアと会う事で、ストロノフの考えが変わるかもしれないが、俺から言えることは何もない。
「何を選ぶのかは本人の自由ですからね。それに、里のためというのもあるのでしょう?」
「うん。学園で学んだことを里で生かすために、学園へ来ているから。私の趣味で受ける授業もあるけどやっぱりお金を出して貰っている以上は、やる事をやらないとだから」
……そう言えば、学園へ入学するにあたり、出費らしい出費が無いな。
共通の授業で使う教科書はいつのまにかメイド長が揃えていたし、制服についてもいつの間にか用意してくれていた。
勿論俺から支払いをしていないが、バッヘルンが払っているのだろうか?
まあコランオブライトの件で恩を売っているわけだし、これ位はしてもおかしくないか。
俺としては金は大量に余っているので、世話を焼かなくても良いだろうが、向こうも何も言ってこない辺り、あくまでも貴族としての矜持って奴なのだろう。
後で嫌がらせとして、俺とヨルムに使われた分の代金を返してやるとしよう。
きっと良い表情をしてくれるはずだ。
「ハルナちゃんは受ける授業を決めてるの?」
「光魔法は決めていますが、後は未定ですね」
「えっ、大丈夫なの?」
「後は明日気分で決める予定ですね。特に受けたい授業がある訳でもないので」
選べる授業の数で言えば結構ある訳だが、その中で惹かれる様なものはあまりない。
光魔法を選んだのも、受けられる人がほとんどいないからだ。
Sクラスに居るアントワネットとマフティー。後は知らないが、居ても一人か二人くらいだろう。
学園に三人以上希望者が居なければ授業を行わない……なんて縛りが無ければ、誰も受けない様な授業を選択していただろうな。
ああ、でも一つだけ面白いと思える授業があったな。
リディスが立ち上げる部活にマッチしている授業だが、間違いなく人気なので、俺が選ぶ事は無いだろう。
後、間違いなく女子ばかりになるだろうし。
授業名は少しうろ覚えだが、お茶会のマナーの授業だ。
こんなのを授業として用意して良いのかと思わなくも無いが、ダンスの授業や、占いなんて授業もあるし、とりあえず選択肢は増やしたって奴だろう。
無意味だとは思わないが、多ければ良いというわけでもない。
「良かったら同じ授業を選んでくれたり……なんて?」
「気分次第ですね。ストロノフさんが選んだ中にはあまり好かれるものはありませんので」
「そんなー」
勇気を出したのだろうが、それはそれこれはこれだ。
ガックリと肩を下げているが、諦めろとしか言えない。
まあストロノフの同じものを選ぶ場合、Sクラスの面倒な奴らと会う確率は低いだろうが、明日考えれば良い。
「魔法学はアンリさんが居ますし、歴史に興味がありません。風魔法は使えませんし、魔法薬学は光魔法が使えるので、優先度は低いです。魔導具についてはこの鎖がありますからね」
「……そう言われると、確かに……友達と同じ授業を受けかったなー……」
「部活がありますし、午前中は同じ教室にいるではないですか。それに私以外にも知り合いを増やした方が良いですよ?」
俺が言えた義理ではないが、横の繋がりとは有って損はない。
閉鎖社会的なエルフがどうなのかは知らないが、大体の事は一人だけの力では解決しないので、繋がりから繋がりを頼り、人や材料などを集めるのだ。
エルフにはニーアさんという会社を経営しているエルフが居るので、いざと言う時は何とかなりそうではあるが、それはそれだ。
「分かってはいるけど、エルフがドワーフと違って社交性が低いって思われているせいか、誰も話し掛けてくれなくて……Sクラスの子も友達がまだいないみたいだし」
「社交性が低いのは事実ではないでしょうか? ドワーフはAクラスに居ないので分かりませんが、獣人の方や竜人も、既に友達はいるみたいですし」
「ううぅぅ……」
再び肩をガックリと落とし項垂れる
これだけ感情豊かなら自分から話し掛けてどうにかなりそうなものだが、このままいけばストロノフはアーシェリアと知り合いか友達となる事になる。
ぶっちゃけその縁さえあれば王国では問題無い気がしなくもない。
ストロノフは見ている分には面白いので、この事は話さなくても良いだろう。
さて、ただ見て回るだけだったが、そろそろ帰るとしよう。
「そろそろ戻りましょう。時間になりそうですから」
「うん。分かった」
スリや乱闘とかあれば、この時間ももう少し楽しくなったのかもしれないが、働く事がメインの衛星都市ではそう起こることではないか。
起こるとしたらリディス側か、アクマがフラグを立てた時だろう。
距離的に念話はギリ届く位だが、何も言ってこないってことは、ヨルムが対処出来る位の事しか起こっていないのだろう。
(向こうはどんな感じだ?)
『なんか会社見学中にテロに巻き込まれて、ヨルムが会社? 工場? ごと吹き飛ばしたみたいだね。それと、リディスが瓦礫から生徒を守ったようだよ』
……いやはや、面白そうな事になっているな。
帰ってから話を聞くのが楽しみだ。




