第160話:街の見学へ
いつも通りに朝起きて、朝食と一緒にお弁当を作り、軽く夕飯の下拵えを済ませてから屋敷を出る。
四日目ともなれば、この流れも慣れたものだ。
リリアには昨日の内に連絡を取り、休日に会いに行くと伝えておいた。
ついでに買いたい物の商品リストと、金も渡しておいたので、用意してくれるだろう。
一応警備の為に働いているが、もっぱら俺専属になってしまっている。
少し悪いとは思うが、相応の貢献もしているし、落している金もかなりの額なので、許して欲しいところだ。
まあシルヴィーが俺の所に居る以上、ニーアさんが文句を言えるわけがないのだがな。
馬車で学園まで来たのだが、結局この後王都の中を回るので、遠回りである。
アンリの研究室で時間を潰してから向かうには微妙な時間に着いてしまい、ストロノフにリリアの件を先に伝えようと思い、教室へと向かう。
「あっ、おはよう」
「おはようございます」
リディス達と別れてAクラスの教室に入ろうとすると、ストロノフと遭遇した。
良いタイミングだ。
教室内で話すと馬鹿が寄ってくる可能性があるので、とても助かる。
「先日の件ですが、どうやら問題ないようです」
「えっ! 本当! ありがとう!」
「お気になさらず。外出の申請と、必要な物は事前に用意するようお願いします。それでは」
教師の来る前の教室とは、基本的に騒がしい物である。
それもあってなるべく教室には居たくないのだが、まあ貴族が多いおかげか、小学生みたく騒いでいる奴はいない。
それでもそれなりに煩いが、一々気にしていては四年も生活は出来ないだろう。
運が良い事にシャナトリアは他の席の生徒と話しており、後ろの席の生徒も本を読んでいるらしく、とても静かだ。
本か……週末に買ってみるのも有りか?
「おはようございます。本日のオリエンテーションは王都内の見学になります。王都と一口に言っても、様々な部門を担当している都市の集まりであり、他の国ではあまり見られない構造となっています」
時間となりハロルドが教室に入って来て、軽く話をする。
見られないというか、衛星都市と言う概念自体が、割と未来的な概念だからな。
俺の世界では確か、千九百年前半辺りに誰かが提唱した気がする。
無秩序や、必要だからと都市を作るのではなく、計画的に都市を作るのはかなり難しい。
当たり前の様に戦争があるこの世界では、尚更だろう。
おそらく衛星都市の概念もこの世界ではロストテクノロジーであり、どこからか入手したのだろう。
もしくはシルヴィーを神と崇めている辺り、シルヴィーが流した情報なのかもしれない。
「中には王都で暮らしていて、既に知っているという生徒もいると思いますが、改めて王都の事について考える機会となればと思います。さて、本日の流れですが……」
ハロルドはホワイトボード少し大きめの丸と、それを囲む幾つかの丸を描く。
それは王都の簡易地図であり、その丸にどんな都市なのか単語で表していく。
ザックリと分けるならば、北側は第三産業が中心であり、南側は第一産業。
そして東と西は第二と第三が半々といった感じだ。
南側は他国までかなり距離があり、東西は他国までの距離が近い。
北側は森が広がり、森を越えたとしても山脈があるため、侵略をされる心配はない。
そこら辺もしっかりと考えられている。
今日は他クラスとの合同ではなく、Aクラスだけでのオリエンテーションであり、幾つかの衛星都市や、中央の大都市を軽く見て回る流れとなる。
ただ、バスがあるならばともかく、この人数を一度に運べる馬車は無い。
有ったとしても、街中を走らせるのはかなり危険だろう。
この世界の仕組み的に、車が開発される事はまずないだろう。
流通が良くなるだけならばともかく、車が台頭すれば様々な分野が加速的に成長を始める。
それがこの世界の管理者にとって、好ましくない事態なのは目に見えている。
俺の知識ならばアクマの手助け無しで、魔石を原料とした車を作り出す事も可能だが、そんな事をすればまたアクマを通して止めてくれと注意される事になるだろう。
転移が出来なかったら移動手段として、多少の無理を言って作ったかもしれないが、俺から積極的に敵対する気は無いので、この知識を世間に教える事はない。
まあ何が言いたいかって事だが、一年生全員が王都を回るとなると大量の馬車が必要となる。
通常の馬車が大体四人。大型だと八人から十人乗りがあるが、大きくなれば街の中を動くのは大変になる。
荷馬車の様な奴ならもっと沢山乗れるだろうが、貴族が多い中で粗末な馬車を用意なんてしないだろう。
一クラスで大体五台から六台。
一台当たり馬を二匹使用し、御者も必要となる。
このオリエンテーションだけでいくら掛かっているのやら……。
王国として他国者他種族の生徒に国力を見せつけるための行為なのかもしれないが、無駄でしかないと感じる。
食料が豊富だから馬を育てるのに苦労せず、馬が居れば木材とかを運ぶのにも苦労しない。
だから馬車も作れるというのは分かるが、もう少し建設的な事で国力を示せばと思う。
まあこの国の場合、豊かになった結果戦力が減っているなんて実情もあるのだが、これも他国が関わっているとゼファーからの報告書に書かれていた。
王として国を豊かにするのは間違いではないが、守る力が無ければ奪われて終わってしまう。
それが分かっていないのは馬鹿としか言えないが、愚者ならば最後に大きな花火を打ち上げて欲しいものだ。
俺も合法的な状態となれば、幾ら動いても問題ないからな。
「私達のクラスは中央都市を通り、東の都市の内二つを回る事になります。どちらも自由時間を設けていますので、昼食については街のレストラン等で各自食べて下さい。制服を着ていれば代金については問題ありませんので、安心して下さい」
レストランと言われても、知らないところで探し出して食べろってのは結構難易度が高いな。
それに、あるにしてもほとんどは大衆食堂程度の物なので、貴族からしたらあまり良い場所ではないはずだ。
ペポの街で俺が入った様な貴族向けのレストランもあるだろうが……ああ、数店舗あれば、三十人程度ならば収容できるか。
学園というか国から補助も出ているだろうし、今日一日通常の客を取らなければ、満席になんてなる事もないだろう。
貴族の中にはシャナトリアみたいに、あまり気にしない奴も居そうだが…………まあどうでも良いか。
今日はリディス達に弁当を渡していないが、適当に食べるだろう。
元々この世界の食事をしていた訳だし、別にまずいだけで食べられないわけではないからな。
しかし、そうなると弁当が余ることになるな。
アイテムボックスに入れているので、賞味期限なんてのは存在せず、別に明日に回しても良いが、明日用の食材は準備してあるので、備蓄として取っておくことになる。
あまりアイテムボックス内の物を増やしたくはないので、出来れば処分してしまいたい。
「また、今回は引率として臨時講師の御二人も同行します。あくまでも引率となるので、迷惑を描けないように」
……あいつらに食わせれば良いか。
それとストロノフとシルヴィー辺りにもお裾分けすれば、全部食べきれるだろう。
シルヴィーの事だし、呼べば来るだろう。
「馬車や自由時間の際の組み合わせは自由にしていただいて良いですが、ローデリアス学園の生徒として恥ずかしくないようにして下さい」
ハロルドの説明も終わり、馬車が用意されているグラウンドに移動する。
大量に並んでいる馬車は爽快だが、綺麗に整列されているのは違和感を感じる。
おそらく、魔法で並べたのだろう。
馬車は六列横に並び、クラス数分縦に並んでいる。
前の方がグレードが高く、後ろにいくにつれて、少しずつ質素になっている。
学園の方針的に、クラスごとに差をつけるのは当然と言えば当然か。
Aクラス用の馬車の所にはアンリとエメリナが既に待機しており、雑談しているのが見える。
俺に気付いたのか、手を振って来たので解釈しておく。
「Aクラスはこの列の馬車になります、Sクラスが出発次第出ますので、早めに乗って下さい」
俺達が馬車の前まで来た時には、既にSクラスの生徒の姿はほとんどなく、既に馬車に乗り込んでいるのだろう。
アーシェリア達と入れ違いになって良かった。
さて、乗る馬車だが…………面倒だし一番奥ので良いか。
どうせ他の生徒達は手間から乗っていくだろうし、運が良ければ少しくつろげる空間が出来るかもしれない。
人目を気にしなければ馬車に鎖を繋ぎ、その先に鎖の台を作れば寝っ転がることも出来る。
……まあやらないけど。




