第158話:研究室で待ち合わせ
「お疲れ様です。怪我などはないですが? 大丈夫でしたら、最初の地図とチェックポイントで手に入れた地図と魔石を渡してください。魔石は換金が終わり次第後日呼びます。本日はこれにて終わりとなるので、帰っていただいて大丈夫です」
森を抜けるとハロルドが待機しており、シャナトリアが地図と拾った魔石を渡して終了となる。
此処にハロルドが居るということは、他の場所にも教員が待機していて、生徒が帰ってくるのを待っているのだろう。
つまり、リディス達がどこに帰ってくるか今の状況では分からない。
「お疲れ様でした。私はリディス様を待ちますので、これで失礼します。エメリナさんにはしっかりと伝えておきますので、それでは」
「おう。また明日な」
「お願いね」
「お。お疲れ様」
三人と分かれ、森…………ではなくてアンリの研究室に向かう。
どうせ直ぐには帰ってこないだろうし、まずは一杯だ。
鍵のかかっている扉を開け、お湯を沸かしながら二杯分のコーヒ豆を挽いて、サイフォンで抽出する。
軽くヘラで回し、火を止めて落ちてきたのをカップへと注ぐ。
「ありがとうね~」
「一杯も二杯も変わらないので、気にせず」
いつの間にか椅子に座っている、シルヴィーへとコーヒーを渡してから、俺も座る。
ふむ。今回のコーヒーは透明感があり、スッキリとしているな。
それでいてほんのりと酸味が駆け巡るので、焙煎次第ではアイスコーヒーに向いていそうだ。
「学園も大変そうだね~」
「そうでもありませんよ。大変というよりは、退屈と言った方が良いですね」
「それはハルちゃんだけじゃないかな~? あっ、美味し~」
このコーヒーはシルヴィーも気に入ってくれたようだな。
シルヴィーの言う大変とは、策謀や人間関係とかだろう。
森に現れたというそれなりに強い魔物も、誰かの手引きにより呼ばれたものだ。
確かアクマの話では、リディスのパーティーはマフティーとアーシェリア。それからヨルムだったはずだ。
ヨルムとアーシェリアが狙われる可能性は低いので、魔物を呼び寄せた存在の狙いはマフティーかリディスのどちらかの命だろう。
そしてアーシェリアが居る中で行われたのを見るに、最低でもシリウス家の派閥は関わってはいない。
そして大派閥を敵に回しても構わないと考えているのを見るに、狙いはリディスだな。
マフティーを邪魔だと思っている派閥は、アーシェリアとは敵対したく無いはずだ。
だがリディスを狙っているスティーリアにとっては、どちらの勢力も関係ない。
なんなら巻き込んで殺せれば御の字……ってところか。
「神としては介入する予定はあるのですか?」
「私は無いね~。森を全て焼き払ったりすれば別だけど、一つ国が滅びる程度は良くあることだからね~」
私は……つまり、場合によっては介入してくる神も居るって事か。
まだ二人しかあっていないが、今言ったように、あの糞でかい森を焼けばとは言ったが、無理だとシルヴィーは思っているのだろう。
まあエルフがそれなりに居て、ニーアさんが居る以上、どの勢力も森を焼くなんて暴挙はしないか。
俺もコーヒーの件でお願いをしているので、敵対する気は無いしな。
「因みに、介入するかもしれない神は居るのですか?」
「う~ん。ここは一応作物が多いから、場合によってはユリちゃんが守るために介入するかもしれないけど、私と同じ位だから可能性はあっても確率は低いかな~?」
(説明をくれ)
『土と豊穣の神で名前はユリーベルウカ。日本生まれのハルナなら大体分かるんじゃない?』
分かると言えば分かるが、始まりの日以降は神様よりも魔法少女の方が有名になったらしいからな……。
まあ、土と豊穣と言われれば、誰だって理解は出来るだろう。
「なるほど。因みにその神はどこかに定住してるのですか?」
「基本的には、栄養の少ない土地を巡っているみたいだよ~。因みに、私と似た感じの子だね~」
徘徊系でシルヴィーに似てるならば、会う機会は当分無さそうだな。
学園を卒業するまでは、王国から出ることは早々無いだろうし、王国に痩せた土地はほとんど無いらしいし。
さて、それなりに暇を潰せたが、リディスの方はどうかな?
(そちらの様子はどうですか?)
『……一応順調よ。後二十分もしないで学園に戻れそうよ』
二十分……大体俺と一時間位の差か。
順調というには少々遅い気もするが、ヨルムが殺した魔物以外にも、何かしらちょっかいを掛けられていたのだろう。
(随分と遅いですが、私はそれまでティータイムでもしています)
『……もう帰って来てるの?』
(三十分ほど前には既に。今はアンさんの研究室にシルヴィーと一緒に居ます)
『嘘でしょ!』
(本当です。何なら森でそれなりに休憩もしていましたが……まあチェックポイントが違えば距離も変わるのでしょう。私はAクラスですが、そちらはSクラスですからね)
軽く煽りつつも、決して遅いのはリディス達ではないと遠回しに話す。
俺がされれば間違いなくイラっとするだろうが、それはリディスも同じだろう。
『……なるべく早く帰るわ。それから、いつもの紅茶を用意しといて』
(ここではなくて、屋敷で良いのでは?)
『用意して待ってて!』
思いの外ダメージがあったようだな。
学園に帰ってきてからアンリの研究室までは十分位掛かるが、準備だけはしておいてやるか。
「あれ? 紅茶を淹れるの~?」
「はい。もう直ぐリディス達が帰ってくるので、出迎えのために淹れようかと」
……あっ、丁度都合よくシルヴィーも居る事だし、あれについても聞いておくか。
「これらの果実の名前や味を知っていますか?」
ぽいぽいとテーブルの上に、森で取った果実を置いていく。
それを軽く眺めたシルヴィーは並べ替えていく。
「左から、ミカン。リンゴ。梨。イチジク。レモン。グレープフルーツだね」
…………まあ俺が知っている見た目とはかけ離れているが、味についての翻訳の結果だろう。
そしてシャナトリアが食べたのはミカンで、キアラがグレープフルーツ。ヴィットリオはレモンだったのか。
見事にヴィットリオは外れを引いた訳だな。
しかしレモンならば、使いようがあるな。
蜂蜜もあるし、蜂蜜レモンを作ったりレモンティーなんてのも有りだろ。
偶然かもしれないが、果実系の料理やデザートはほとんど見ていない。
確かブロッサム家の厨房には置かれていたが、量的に摘まむための物だったのだろう。
まあ俺としても果実……フルーツを使った料理やデザートと聞かれても、フルーツポンチ位しかパッと出て来ない。
そもそもフルーツは好きか嫌いかと聞かれても、気が向いたら食べる程度の物なので、あまり関心がない。
折角の異世界という事だし、少しは作れるようになっておくとしよう。
「ありがとうございます。因みにどれが好きですか?」
「ミカンかな~。いつでも美味しいからね~」
「なるほど。でしたら、ミカンを使って何か作るとしましょう」
「わ~、ハルちゃんありがと~」
ふよふよと空中に漂いながら抱き着こうとしてくるので、鎖で椅子に座らせる。
ミカンだと、シャーベットにしたり、ヨーグルトに入れたりが無難か?
杏仁豆腐や寒天なんかも有りだが、少々材料が必要となるので、調べなければならない。
紅茶を淹れる準備が終わり、その間に二杯目のコーヒーを淹れる。
二杯目のコーヒーをシルヴィーに渡すと、そのまま姿が消えていく。
どうやら、もう帰ってくるという事だろう。
(何人だ?)
『三人だねー』
リディスのパーティーが誰かは知らないが、知らなくてもアクマの一言で察することが出来る。
俺の知り合いと呼んでいいかは分からないが、それに当て嵌まるのは今の所四人だ。
アーシェリア、マフティー。クルル。そしてアントワネット。
この中でここまで押し入ろうとする奴は、一人しかいない。
まあ、追い出す理由があるわけでもないし、追加でもう一個カップを用意するとしよう。
「帰って来たわよ」
普通にお湯を沸かしていると扉が開き、リディスとヨルム。それからアーシェリアが入って来た。
軽く摘まめるように、クッキーを乗せた皿を三つテーブルの上に準備してあり、最後に入って来たアーシェリアは軽く目を細めるものの、気にせず座った。
因みに研究室内の匂いは、シルヴィーが去り際に換気してくれているので、コーヒーの匂いはほとんどしていない。
ついでに、果実の内ミカンだけは持っていかれた。
情報料として考えれば安いものだし、どうせ数はあるので問題は無い。
そんなわけで、紅茶を三人の前に置いた。




