第157話:三日目のオリエンテーションの終わり
「まずは最初のチェックポイントですね」
三回ほどの襲撃を受けたものの、それ以外は何も起こることなく、最初のチェックポイントに着いた。
チェックポイントには分かりやすく旗が立てられ、教師が二人魔法で作ったと思われる椅子に座っている。
「来たか。地図は持っているね。なら次はこの地図を見て進めば帰れるよ。それじゃあ後も頑張ってくれ。ああ、水の補充はそこの魔石から出来るから、忘れないようにね」
教師から新たな地図を受け取り、シャナトリアが俺達にも見える様に広げる。
一応方角は覚えているので、チェックポイントで新たな地図を貰わなくても帰れるのだが、学園に帰った時に地図を持っているか確認しそうだな。
「此処までの時間が約一時間半。太陽の向きと方角からするに、真っ直ぐ帰れば一時間もしないで帰れそうね」
地図を見たキアラは拾った木の枝で早速計算を始め、かかる時間を導き出す。
これだけの計算が出来るのならば、学園の入試も満点は取れていただろう。
魔法も光属性だがそれなりに威力も有り、Cクラスに収まるようには見えない。
何かしら訳ありって奴だろう。
Bクラスまでは貴族が多いが、Cクラスからは一気に少なくなる。
それを狙ってCクラスに入った……それが一番有力だろう。
見た限り、サボれるならサボりたい性格の様に見えるし。
「うし、なら早速帰ろうか!」
「いえ、その前に少し休憩を取りましょう」
「ぐへぇ!」
シャナトリアが歩き出そうとするので、鎖を身体に巻いて阻止する。
個人的にはこのまま帰ってしまいたいが、森の中を歩くというのは結構疲れるものだ。
それに、キアラの計算は真っすぐ帰った場合であり、森の中を真っすぐ進むのは不可能だ。
行きの時の休憩の取り方からも、ここいらで一度休憩しておかないと、転んで怪我をするなんて事もあり得る。
チェックポイント付近ならば魔物避けとかしているだろうし、休むならば此処が一番だろう。
「いてて……何すんだよ!」
「勝手に先に進もうとしたからです。もう一度言いますが、一度休憩を取りましょう。キアラさん達は何か意見はありますか?」
「ないわ」
「お、同じく大丈夫……」
シャナトリアだけは悔しそうにしているが、世の中の基本は多数決だ。
程よい大きさの木の周りの草を鎖で刈り取り、座れるようにする。
森の中や山の上で飲むコーヒーは良い物なのだが、今日の所は水で我慢しておく。
「それにしても、本当にこの森は広いな。一体どれくらい広いんだ?」
ゼアーの調査に書かれていたが、学園から森の端まで真っ直ぐ進んだ場合、抜けるまでは二日程掛かるそうだ。
また森を抜けた先には山脈があり、その先には別の国があるが陸路はなく、海路にて交易をしている。
因みに、この森にもエルフは住んでいるそうだが、一日で行ける範囲に里は無い。
「聞いた話では、二日ほど掛かるそうですね。抜けたからと何かあるわけもないですが」
「二日って……それって何かに書いてあったの?」
「実際に抜けた事がある知人がいるので、本人から聞きました。地図などを見られればいいのですが、流石にそれは無理ですからね」
この位の時代ではまだ地図の価値はかなり高く、それなりに正確なものとなれば軍事機密として扱われている。
それはこの平和ボケしている王国でも同じだ。
一応ブロッサム家に居る時、ブロッサム領と他領の領境を示す地図を見たが、あったのはバッヘルンの執務室であり、更に鍵が必要な場所に保管されていた。
ちょっとした地図。例えば隣の街までや王都までの簡易的な地図は街に張り出されてたりしたが、正確な距離はぼかされていた。
個人的に地図位解禁した方が商人の流れが良くなり、経済も活発になるとは思うのだが、それは俺だから思う事なのだろう。
下手に流通が活発になり、それに伴い技術の発展が早くなり過ぎれば、管理者が決めている水準を、抑止力を無視して超える可能性がある。
そうなれば再び世界はリセットされ、新たな文明が始まる事になる。
そう考えると、地理や地図関係は多少なかれ、神の手が入っている可能性が高い。
「広いからって何かあるわけじゃないしな。しかし、休んでいたら身体が重く感じるな……」
「知らない内にそれだけ疲れていたという事です。慣れない場所を歩くのは思っている以上に大変ですから」
疲労を魔法で誤魔化すなんて方法もあるが、若い内からこれをやるのは身体に悪い。
一応この世界の光魔法には疲労回復の魔法は無いが、作ろうとすれば作れない事もない。
リディスに使えば更なる訓練の効率化を図れるかもしれないが、魔法少女としての回復魔法で事足りている。
無理をして作る必要は無いだろう。
間違いなく戦争に転用できる魔法となるだろうし。
「そうね。思っていたよりも、足がパンパンだわ。ヴィットリオは大丈夫?」
「大丈夫だよ。装備を付けて歩くのは慣れないけど、これ位ならまだ疲れてないよ」
足を揉み解すキアラと、のほほんと空を見上げるヴィットリオ。
学園に来てから知り合ったというよりは、二人は昔からの付き合いの様に見える。
どう見ても臆病なヴィットリオが、学園に来てからキアラと仲良くなったとは考えられない。
「休憩ついでに、果実をどうぞ。今ならば手を洗う水もあるので、汚れるのを気にしないで済むでしょう」
「おっ、ありがとな……おお、甘い」
アイテムボックスではなく、バッグに入れておいた果実を取り出して、しっかりと皮を剥いてから三人に渡す。
全て別の種類であり、甘いのか酸っぱいのすか俺には分からない。
俺はルーレットをする気は無いので、クッキーを食べる。
「私のは酸っぱいけど、疲れた身体には丁度良いわ」
「……」
シャナトリアとキアラは当たりを引いたらしいが、ヴィットリオのはどうやら外れらしいな。
ヴィットリオの奴は少しだけ味見をして、駄目そうなら捨てるとしよう。
あれはそんなに数を取っていなかった筈なので、多分大丈夫だ。
食べ物を粗末にするのはあまりしたくないが、食べられないなら仕方ない。
「そろそろ出発しましょう。身体に異常はないですか?」
十五分程休憩を取り、体調の確認をする。
全員頷き、シャナトリアとヴィットリオを先頭にして再び歩き出す。
しかし、自分で作っておいてなんだが、蜂蜜クッキーは癖になるな。
シルクのおかげで蜂蜜のじっとりと残る感じが無く、サラリと口の中で溶けていく。
やはりこの世界は魔界の方が良いのか?
十分程チェックポイントから歩くと、微かに気配を感じた。
「気配がしますので、注意してください」
「おう!」
……大声で返事しては、魔物を引き寄せるだけなのだが……まあいいか。
次に姿を現したのは、武器を持っていない緑色のゴブリンが三体だった。
爪も短くされているので、あれでは皮鎧すら貫くことは出来ない。
まずはヴィットリオが前に出て、ゴブリンたちの注意を引く。
数歩キアラが下がって魔法を唱え、シャナトリアが一番隙を晒している……というか端の奴に攻撃を仕掛ける。
剣も盾も無いただのゴブリンでは、鉄の剣を避ける以外では防ぐ方法はなく、足の遅いゴブリンではそれすら出来ずに斬られて死ぬ。
そして後ろからキアラの魔法が飛んできて二匹を倒し、戦闘は終了となる。
手慣れたものだが、火の魔法しか使えない生徒で固まったパーティーは大変だろうな。
いや、普通に武器で倒せる程度の弱さか。
アクマもヒノキの棒で倒せると言っていたし。
三日目にして急に本格的になったが、オリエンテーションの残りは後二日か……。
明日は学園関係ではなく、王都についてのオリエンテーションで、明後日は本格的に授業についてだったな。
今日の内に緊張感を持たせ、しっかりと授業に取り組めるようにと考えているのだろうか?
個人的にこの程度では、逆に調子に乗りそうな気がする。
入試時に実技試験があった以上、まったく戦えない生徒はほぼいない。
自分も魔物とちゃんと戦えるのだと思い込み、馬鹿なことをする生徒が出たとしても、俺は驚かない。
最後に魔石を鎖で広い集め、再び歩きだす。
(向こうは何か起きてたりするか?)
『問題は起きてないねー。起きる前にヨルムが解決しちゃったみたい』
(それはつまらないが、何が起きそうだったんだ?)
『それなりの魔物に、リディス達を襲わせるって感じだね。現れる前にヨルムがこっそり倒した感じ』
それなり……ヨルムという魔物の頂点的存在が居る以上、タラゴンさんに魔法少女に成り立ての少女を差し向ける様なものだ。
そう言えば、ヨルムには手出しするなとは伝えてなかったな。
後で注意しておくとしよう。
「おっ、やっと学園が見えてきたな」
ゴブリン三体と戦って以降は、魔物と出会うことはなく、学園の近くまで戻ってこれた。
ようやく今日のオリエンテーションが終わる。




