第156話:ヨルムの活躍
「おりゃ!」
「ひいぃ!」
チェックポイントまで後半分くらいのところで、再び魔物が二体襲い掛かってきた。
「ライトバースト!」
一体はシャナトリアが剣で倒し、もう一体はヴィットリオが攻撃を防いだタイミングで、キアラが魔法で倒す。
魔物が現れた瞬間は固まってしまったが、それ以外は危なげなく魔物を倒した。
連携を取るでもなく、真正面から素手で向かってくる敵など、案山子と一緒か。
せめてこん棒でも持っていれば、多少緊張感があったかもしれないな。
「あんま強くないけど、こんなもんか?」
「戦いに慣れていない生徒に、戦いを慣れさせるための授業も兼ねているのでしょう。必須ではありませんが、実技の授業は多いですからね」
王国ならば、戦いに慣れていない人間はかなり多いだろうし、危機感を持たせるならば早い方が良い。
まあだからと言って、魔物なんて怖くないと慢心されては目も当てられないが、それをどうにかするのは教師の仕事だろう。
「確かにランクで言えば、最低みたいなものね。武器や防具を装備していないし、野生をあまり感じなかったわ」
「確かに。これならまだ猪の方が手強いぜ。皮が厚いし、一撃が重いからな」
「僕は普通に怖かったけど……」
怖いと言っているヴィットリオも、怪我をしていないし、盾で防ぐ際に腕の力だけで受け流していた。
案外しっかりと防御していた。
落ちている魔石を鎖で自分の方に弾き、キャッチしてからキアラに渡しておく。
後で換金してくれると言っていたが、この程度の魔物では微々たる金にしかならない。
いらないが、一応パーティーということなので、金は全員で均等割りすると話がついている。
「何事も慣れてしまえば、案外大丈夫なものですよ。それより、早く進みましょう。まだ先は長いですからね」
来る時は真っすぐだったが、チェックポイントを通る関係で、帰りは遠回りになっている。
いつまでも立ち止まって話していては、日が暮れてしまう。
「そうだな。それじゃあ行こうぜ!」
シャナトリアは大きな声を出してから、意気揚々と歩き出す。
……魔物が一応いる森で大声を出すなと言いたいが…………まあいいか。
キアラも少し呆れているようだが、俺と同じく何も言わないでいる。
さっさと帰ってコーヒーを飲みたいものだ。
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ハルナが適当に森を歩いている頃、リディスの方はなんとも微妙な雰囲気になっていた。
SクラスはAクラスとは違い、自由に二人組になるのではなく、全てクジで決めていた。
更に四人組になる時もクラスの合同ではなく、同じくごちゃ混ぜのクジによって決まっていた。
なので、Sクラス同士で組むこともあれば、Eクラス同士で組むなんて事態も起きていた。
これが授業ならば問題だが、あくまでもオリエンテーションであり、流石に入って間もない状態で王族と平民を一緒にするのは、遺恨を作る可能性がある。
マフティーが平民にも分け隔てなく接する王族ならばともかく、マフティーの風評はあまりよくない。
なのでランダムと言いながらも、マフティーがEクラスと組むことはないのだ。
ジョンの気遣い……それならば良いのだが、学園側に圧力が掛けられており、王族の評判を落とすような事をあまりしない様に言われているのもあった。
その結果……。
「森ねぇ……焼き払ってはダメなのかしら?」
やる気は感じられないが、別のやる気を感じさせるアーシェリア。
「駄目に決まっているだろう。この森も王国の財産なのだからな」
普通にツッコミを入れ、優雅にあるくマフティー。
「モグモグ。中々美味いな」
そこら辺にある果実を無造作にもぎ取り、むしゃむしゃと食べているヨルム。
「……最初のチェックポイントまでは後三十分もあれば着きますので、進んでしまいましょう」
まったく纏まりの無い三人を見て気が遠くなり始めているリディス。
本来ヨルムはこの組み合わせに入る予定ではなかったが、主であるハルナから、なるべくリディスから離れるなと言われているため、無理矢理四人組の中に入った。
とは言っても暴力を振るったとかではなく、組み合わせを魔法を使って弄っただけだ。
ハルナと暮らす事で、ヨルムの魔法は様々な進化を遂げており、軽く転移魔法を使って弄る程度造作もなかった。
無論ジョンも違和感を感じてはいたが、発表した後に組み合わせを変える事も出来ず、どうする事も出来なかった。
ついでにこのパーティーはヨルムではなく、アントワネットが入るのがアントワネットの知るストーリーなのだが、これにはアントワネットも頭を悩ませていた。
「はぁ……そうね。面倒なオリエンテーションもあると分かっていたけど、態々こんな所を歩かせる必要なんてなくない? まだダンジョンアタックの方が良かったわ」
「なに? アーシェリアはダンジョンに入った事があるのか? 公爵は許可したのか?」
「他国でよ。気晴らしには丁度良かったわ」
心配そうにするマフティーへ軽く返すアーシェリアだが、ダンジョンとは低ランクでも死ぬ可能性はゼロではない。
更に言えばアーシェリアは、護衛とかも付けずに一人でダンジョンへと乗り込んでいた。
そして普通に進みながら魔物を殲滅し、適当なタイミングで帰った。
基本的にダンジョンに入る際は身分の確認をされるのだが、アーシェリアは偽名で作ったギルドカードを提示し、公爵だと知られることはなかった。
「ダンジョンか……最奥にはダンジョンを守る魔物が居ると聞くが、どうなのだ?」
「奥までは行ってないわ。流石に日帰りしか無理だったしね」
「そうか……興味はあるのだが、仕方ない。む?」
纏まりがないまま歩くが、現れた魔物はヨルムが瞬殺し、ヨルムが無視をしてもリディスがサクッと倒してしまっているため、完全にただの散歩となっている。
強いて言えば、ヨルムとリディスの動きを、アーシェリアとマフティーが観察しているくらいだろう。
雑に殴って魔物を倒しているヨルムだが、その動作は理に敵っており、とても自然である。
リディスは魔法を使わず、学園支給の剣を使っているのだが、その速さは目で追うのがやっとであり、二人は噂とは何だったのかと考えを巡らす。
魔法も使えず、何も出来ない落ちこぼれのリディス。
アーシェリアがこれを知ったのは実は最近になってなのだが、この噂はマフティーが知っているほど広まっている。
流石に平民にまでは殆ど広まっていないが、貴族ならば知らない方が少ないだろう。
それがあまりにもおかしいと気付けているのは、一体どれくらい居るのか……。
アーシェリアは国外を回ったりしていたせいか、リディスの事を知って不思議に思ったが、ステファンやジゼルに聞いてみた所、あまり気にしている様には見えなかった。
あくまでも噂であり、自分には関係ない。
そんなスタンスだったのだ。
一体誰がリディスの噂を流しているのか……諸悪の根源については、アーシェリアはまだ探し出せていない。
「しかし、雑魚とは言え、これだけ多くの魔物と出会うものなのか?」
ふと疑問を口に出したマフティーだが、既に八回も魔物と遭遇しており、ハルナ達と比べてもかなり多い。
流石におかしいと思うが、マフティー以外は弱い魔物がいくら出てきた所で問題ないと思っており、そこまで気にしていない。
特にリディスはヨルムの正体を知ってしまっているので、相手が魔物である以上、何が出て来ても問題ないと思っている。
仮に悪魔なんかが現れたとしても、リディス側にも悪魔……実際はもっと酷い存在なのだが、悪魔であるハルナが居るので、負ける事はないと考えている。
「さあ、分からないわ。でも、何となく人為的な物を感じるわね。また何かやらかしたのかしら?」
「さあな。俺を邪魔だと思っている相手は多い。偶然を装って殺そうとしていたとしても、驚く事はない」
軽く受け流すマフティーだが、そんな話を隣で聞いているリディスだが、ほんの少しだけだが同情していた。
軽くアーシェリアからマフティーの生い立ちをリディスは聞いており、自分と同じく死ぬ事に怯えながら生きて来たマフティーを尊敬こそすれど、気味が悪いとは思えなかった。
そんな会話中、ヨルムはハルナから受け取っていたクッキーを隣で食べていたのだが、人間も面倒な生き物だなーと完全に他人事と捉えていた。
人間というものを少しずつ理解し始めているヨルムだが、どこまで行っても人間は自分よりも下位の生き物だと認識している。
例外や例外になりそうなのもいるが、線引きはしっかりとしている。
そしてリディスが思っている通り、ヨルムが居る以上使徒や神クラスの相手が来ない限り、ヨルムが負ける事はない。
強いて問題があるとすれば、この森で戦った場合、森が消し飛んでしまう事位だろう。
「……む?」
だらだらという程ではないが、比較的のんびりとしたペースで四人が歩いていると、ヨルムは再び魔物の反応を捉えた。
それは突如現れたものであり、今まで襲ってきた魔物の強さを一とするならば、五十位の強さがある。
ランクで言えばギリギリCランクに届かないDランク位だ。
ただの子共ならば、間違いなく倒す事も逃げる事も出来ず、殺されて終わりだろう。
しかし、アーシェリアとマフティーは分からないが、リディスならば余裕で勝てるとヨルムは知っている。
放置しておくべき、それとも先に対処してしまうか……。
ヨルムはハルナとは違い、楽しむとは何なのかよく分かっていない。
仮にヨルムの立場にハルナが居たならば、ハルナは間違いなく魔物をリディスへと嗾けただろう。
アーシェリアとマフティーを守るのはハルナの魔法ならば簡単にできるので、間違いが起こる事もなく、リディスの糧にする事が出来る。
どうするか少し悩んだヨルムは、手元に小さな転移の扉を開く。
これはハルナの転移を模したものであり、レッドアイズスタードラゴンの固有魔法で空間同士を無理矢理繋げる魔法である。
転移の扉に手を突っ込んだヨルムは、魔法にて少しだけ強い魔物を消し去り、何事も無かったかの様に転移の扉を消す。
ヨルムとしては、こんなつまらない散歩などさっさと終わらせて、ハルナの料理を食べたいのだ。
なので、問題が起きない方が良い。
アントワネットが心待ちにしていた、ゲームにあった襲撃イベントはヨルムの手によって、イベントが起こることなく消え去るのだった。




