第155話:世界の違い
「戻りました」
「ギリギリじゃねぇか。一体どこ行ってたんだよ」
「話していた通り、森の中になります」
ハロルドが去った後も少しだけ森の中を歩き、時間ギリギリで広場まで戻って来た。
少々シャナトリアの機嫌が悪いが、遅れてはいないので気にしない。
「森の中はどうだったの?」
「しっかりと人の手が入っている痕跡がありますね。それと、果物があったので少し回収しておきました。何もないとは思いますが、お腹を空かす事にはならないでしょう」
「へぇ、ちゃんと見て来たのね。食って寝ていた二人とは大違いだわ」
キアラは厭味ったらしく喋り、男達の方に視線を送る。
……まあ食ったらしっかりと寝て、英気を養うのも悪くない選択だ。
ヴィットリオの方は来る時に草木をかき分けて貰っていたので、それなりに疲労が溜まっていただろうし。
シャナトリアは……まあいいか。
「時間になりましたので、これより午後の説明に入ります」
時間になった事で、ハロルドが話し始める。
森の中という事も有り、生徒達には少なからず緊張が走っているのか、少し硬い雰囲気である。
「これより各グループには地図を配布します。地図にはチェックポイントが描かれているため、そこを通って学園まで帰って下さい。また、信号弾も一緒に配布しますので、棄権する場合や、不測の事態に陥った場合は空へと打ち上げて下さい」
なるほど、そうきたか。
真っすぐに帰らせるのではなく、チェックポイントを通させることにより、方向感覚を養い、確実に魔物と戦わせるという算段だろう。
どこを通るか分かっていれば、魔物の配置も簡単に出来るし、助けるのも容易だ。
問題は地図の精度だが、キアラが学園から此処までの距離を測ってくれているので、酷い地図だとしても大丈夫だろう。
「また、チェックポイントは地図によりランダムとなっているので、どの地図を受け取っても問題ありません。もしも帰れなかったとしても、成績に響く事はないので、安心して下さい。また、魔物はダンジョン産となっていますので、回収した魔石は後で買い取ります。何か質問はありますか? ……大丈夫そうですね。それでは一班から順番に前へ来てください」
ハロルドの前に並び、順番に地図を貰っていく。
俺達の番になり、貰ってから少し離れて、シャナトリアが地図を開く。
「うーん。分かるっちゃ分かるけど、これって大丈夫か?」
「縮尺については今から計算するから任せなさい。その代わり、あんたらはちゃんと前を歩くのよ」
地図はこの広場を基点と書かれており、進む方角は分かるものの、距離が今一わからない。
だが広場について位置はそれなりに分かりやすく書かれているので、広場の端から端までの距離を測り、地図に当て嵌めれば、大体わかりそうだ。
地味に大変だが、仮に距離が分からなかったとしても、進むのは真っすぐなので、そんなに問題はないのだろう。
俺達は一度東に真っすぐに進み、それから南西に進み、その後学園まで帰るルートとなる。
地図には学園まで載っていないが、チェックポイントで更新するのだろう。
「皆さん地図は確認しましたね。それではスタートです」
十分程で全ての班に地図が行き渡り、とうとう出発となる。
「……おい、行かないのか?」
「はい。時間を争っているわけではないので、落ち着いてからでも宜しいかと」
ハロルドの開始の宣言と共に、歩きそうとするシャナトリアを鎖で縛り拘束する。
文句を言うシャナトリアをキアラがジト目で見るが、どうやらキアラも俺と同じ考えらしい。
片手でヴィットリオを捕まえている。
「いや、急いだ方が良いんじゃないか?」
「別に競っているわけではないですからね。それに、先に進んでもらった方が歩きやすくなりますから」
流石に全ての地図のチェックポイントが違うなんて事は、既に森の中へ向かっている生徒を見れば分かる。
だが……まさか俺達と同じような考えの奴が、誰も居ないとは思わなかった。
既に全員広場から居なくなり、俺達だけが残された。
ストロノフのチーム位は残るかもと思ったが、逆にエルフだから、後から進むなんて考えが浮かばなかったのかもしれない。
とりあず人もいなくなったことだし、そろそろ向かうとしよう。
「それでは行きましょう。前は任せます」
「う、うん」
シャナトリアから鎖を外し、ヴィットリオと共に前を歩かせる。
ヨルムで訓練した事もあり、縛っている状態で暴れられても、力加減を間違えるなんてミスすることはない。
やはり訓練は嘘をつかない。
「ねえ、さっきのってオリジナルの魔法かしら?」
「はい。エメリナさんにも教えた魔法になります。良ければ、後で教えましょうか?」
「良いの! ……あっ、こほん。オリジナルの魔法なんてそう簡単に教えて良いものなの?」
一瞬だけ年相応の笑顔を浮かべたが、直ぐに元に戻る。
思いの外声が大きかったせいか、シャナトリアとヴィットリオは驚いて振り向いていた。
何もなかったように装っているが、キアラの耳は赤く染まっている。
「教えても簡単には使える魔法ではないですからね。……そうですね。折角なので、私ではなくてエメリナさんから教わって下さい。私が許可したと言えば、快く教えてくれるでしょう」
「それは……私に直接教えるのが嫌だって事?」
「いえ、この魔法は一応中級であり、森の中で教えるのは流石に危険なだけです。それと、まだオリエンテーションの日程も残っているので、そちらの方が確実なだけです」
教えるのは本当に構わないが、教えたが最後キアラがこの場で倒れる可能性がある。
アントワネットとマフティーにあの場で教えたのは、近くにエメリナが居て、安全な場所だったからだ。
キアラが倒れたら俺が運べばいいのだが、流石にそれは外聞が悪いし、教師に見つかれば何を言われるか分からない。
そして帰ってからも時間は当分取れないので、エメリナに任せるのが一番良いのだ。
「そう言われると、確かにそうね」
「クラスが同じならばともかく、クラスが違う場合、次に会うのは授業の時になりますからね」
まあその授業も、同じ科目を取るとは限らないのだが。
『茂みから魔物が出てくるよ』
(了解)
少しだけ周囲に注意を巡らすと、魔物が二体居るのが分かった。
魔法少女の時とは違い、やはり通常時では色々な面で劣っているな。
今更だが、勝たせたいならもっと優遇すれば良いだろうに。
少し先の草木が揺れると共に、道の両端へと鎖を射出する。
「うお!」
「わぁ!」
「あら?」
魔物は……コボルトか。
鎖で縛り上げながら二匹のコボルトを吊り上げ、そのまま空中で縛殺……いや、圧殺する。
一瞬で殺したせいか、血肉が飛び散る事はなく、鎖を戻すと魔石だけが地面へと落ちて来た。
(そう言えば、この世界のダンジョンの魔物って、俺の世界のとどう違うんだ?)
『大体同じだけど、ダンジョンのは倒した後に魔石だけじゃ無くて、アイテムをドロップする事があるみたいだね。ついでに倒すまでは実体があるけど、倒した後は魔力に還元されるみたいだね』
ドロップねぇ……まるでゲームみたいだが、管理者は何を思ってそんな設定にしたのやら……。
どうせ異世界だから良いが、世界単位で理が違うと、ここまで違うのか。
……いや、別にそこまで違わないか。
魔力が見つかる前ならばともかく、非常識加減で言えば俺の世界の方も酷かったしな。
やろうとすれば世界を壊せる人間がちらほら居るなんて、どう考えてもおかしいし。
しかも個人で。
「二匹居ましたので倒しておきました。それと、実力の証明はこれで良いですか?」
気を取り直して、嫌味と午前の事について証明をしておく。
三人揃ってポカンとしているが、コボルトは武器や防具を装備しておらず、不意を突かれても問題は無かっただろう。
攻撃されればひっかき傷か、青あざ位は出来たかもしれないが、キアラが居るので問題ない。
「……凄いのね。早くてほとんど分からなかったわ。これじゃあ、ああも言いたくなるのは分かるわ」
「これ以降は基本的に手を出しませんが、最悪の場合は私の方で処理しますので、安心して下さい」
「やっぱりすげぇな……」
おそらく後一回か二回は魔物と出くわすだろうし、後のことは若い者だけに任せればいい。
これで俺の仕事は終わりだ。




