第151話:森の中へ
「おはようございます。欠席はいませんね」
クラブの名前を決めたり、新たにエルフの知り合いが増えた次の日。
お弁当の件については、特に問題なく許可が出た。
まあエルフや獣人も居るわけだし、食の問題はどうしても出てくる。
決められた物だけを食べろというよりは、本人達に準備させた方が、問題が起こらないだろうという判断だそうだ。
因みに今日の昼はリディス達とは会う事が出来ないので、ヨルムに弁当を持たせてある。
向かうのは同じ森だが、進む方向はクラスによって異なる。
流石に数百名の団体となっては、森の中で生徒達を守るのは無理だからとの判断らしいが、まあ妥当だろう。
Aクラスは今回Cクラスとの合同となり、森のど真ん中を突っ切る形となる。
「本日は、北部に広がる森の中を歩く訓練兼オリエンテーションとなります。危険はあまりないですが、武器と防具の装備は忘れない様にして下さい。昨日も話しましたが、学園からの貸し出しもあるので、使いたい方は後程申し出て下さい」
森は広大で、あちこちに休憩用の広場があり、その一つを目指す形だ。
勿論森の中はなるべく自然の形を残すようになっており、動物や魔物が住み着いている。
更に森の中にはダンジョンもあり、授業の選択次第では行く事も可能となっている。
異世界と言えばダンジョンだが、今の所一度として行った事は無いんだよな……。
個人的にダンジョンと言うか、洞窟に良い思い出が無い。
様々な形のダンジョンがこの世界にはあるが、ヨルムレベルの魔物は流石に出てこない。
色々と宝は出てくるらしいが、今のところ欲しいものはない。
ダンジョン……この世界では起こらないだろうが、汚染魔力は苦い思い出でしかない。
俺が桃童子さんを殺したあの日。
護衛対象が居る中大量の魔物と戦い続け、最後の最後に現れたのが天使と呼ばれる魔物だった。
あの閉鎖空間では間違いなく最悪の魔物であり、アルカナが使えない状況の俺ではよくて相討ちが限度な程だった。
汚染魔力とは単純に高濃度の魔力を指すのと、魔物が出す有害な魔力の二つを指す言葉だが、人である以上この汚染魔力は最悪の毒となる。
決して克服出来ることはなく、一度や二度は耐えられても、直ぐに限界が来る。
汚染されれば魔物と成り果てるか、溶けて地面と一緒になるかの二択だ。
あれを見てしまったせいか、どうもダンジョンは嫌いなのだ。
苦い思い出だし、なるべく早く忘れてしまいたいが、桃童子さんの最後もあるので、早々忘れる事は出来ないだろう。
「それと、Cクラスも交えて、四人組を作っていただく事になります。現地での混乱を防ぐため、この場で二人組を作ろうと思いますが、何か意見のある方は居ますか? 無い場合は私が決めさせていただきます」
……初耳だが、生徒間で監視をさせる事で、問題を起させないようにしようって魂胆か。
実際は単純にオリエンテーション目的だろうが、Cクラスともなるとあまり仲良くする意味は無い。
BクラスならばまだAクラスとの入れ替わりがあり得るが、CクラスからAクラスまで上がってくるのは相当大変だ。
豪商の子息や辺境等の子息が居ればまだ関わる意味があるだろうが、そういうのはBやAに集約されている。
残念な事に、この世界は生まれも実力の一つなのだ。
同じ才能の持ち主でも、家が違えばその才能が活かされるかどうかは大きく変わってくる。
ゲームや小説の様に、態々力でも隠している奴でもない限り、無視が妥当だ。
「……無いようですね。それでは、席の順番で組んで下さい。決まった以上は不満を漏らさないように」
おっと、気を抜いている内に決まっていたか。
席の順番という事は、シャナトリアと組むことになるのか。
馬鹿と組むならストロノフと組みたかったが、まあ仕方ない。
「それでは森の前まで移動して下さい。集合は三十分後になります」
三十分……森の位置的に十分もあれば十分だが、武器だったりの持つの用意だったり加味しての時間だろう。
流石に今から寮に帰って荷物を取ってくるような奴はいないとは思うが、念のために三十分なのだろう。
「おう、今日は宜しくな」
「はい。何もないとは思いますが、宜しくお願いします」
「前は情けない所を見せたが、もうあんな姿は見せないぜ!」
意気込むのは良いが、学生レベル……というかシャナトリアではどう足搔いても俺に抗うのは無理だろう。
仮に悪魔と契約したとしても、同じことだろう。
先に一人で森に行くのは流石に失礼なので、シャナトリアと一緒に向かう。
シャナトリアはシンプルな皮鎧と、剣を一本装備している。
ここで金属製の防具を装備していないのは、悪くない判断だろう。
丸一日外を歩く事になるので、金属製の鎧を装備していては、体力が辛いだろう。
身体強化を常に出来るならばともかく、子供ではそんな余裕はないだろうし、慣れない森の中を歩くので、いつも以上に体力を消耗する事になる。
とは言っても防具無しというのも心許ないので、皮鎧というのは悪くない。
ふむ、四人組というのも、誰かが馬鹿をやっていた際に助けさせるためか。
まあ中には俺みたいに武器と防具を装備していなかったり、リディスの様に武器だけだったりする奴も居るだろう。
「ハルナは装備は良いのか?」
「はい。魔物程度ならば、魔法で直ぐに対処できますから。それに、私に前衛をやらせるのですか?」
「……それもそうだけど、俺よりも強いんだし、出来るんだろう?」
「出来る出来ないならば、問題なく出来ますね。手数もそれなりにありますから」
目指すは切りよく十本の鎖を自由自在に操る事だが、流石に最近は成長スピードが落ちてきている。
まあ魂と身体の調整が進めば、多少は良くなるだろう。
無理をしない程度とアクマから忠告されてしまっている以上、こうなるのは分かっていたし。
数名のAクラスぼ生徒と共に森の手前の集合場所に来ると、ほとんど生徒の姿は見えない。
大体の生徒が何かしらの準備をしてから向かっているって事か。
「なあ、そのバッグはなんだ?」
「私の昼食とおやつになります。学園の食事はあまり合わないので」
「おやつって……えっ、良いのか?」
「森の中での行動中に、隊列を乱す以外の規則は無いので大丈夫でしょう。あなたも飲み物は持って来ているでしょう?」
食べ物は学園持ちだが、飲み物は必ず持参するように言われている。
そのためシャナトリアも、装備品とは別に水筒を持参している。
昼休憩はあるものの、それ以外でも休憩はあるだろうし、生徒全員分の飲み物を用意するのは無理がある。
そう言えば、森で何をするかは話していなかったな。
念のためと装備をさせているが、軽く魔物と戦わせるくらいの事はしそうだな。
ダンジョンがあるのだから、魔物の数には困らないだらろうし。
流石に全ての生徒を戦わせるなんてのは無理だろうから、選らばらた数組くらいになるだろうが……。
「言われてみればそうだな……俺も何か持ってくれば良かったな……」
「丸一日歩くことになるみたいですからね。昼食があると言っても、念のために軽い物を用意しておくのはありだったかと。荷物についての規定は飲み物以外ありませんでしたから」
「なんか変だなとは思ったけど、そう言うことか……」
ガックリとシャナトリアは項垂れ、少しずつ人が集まり始める。
現在いるのはAクラスとCクラスが集まる場所なので、地雷原のSクラスはこの場にはいない。
まあAクラスもそこまで平和ってわけではないが、公爵や王族がいないだけで気は楽なものだ。
やり返しても、問題にはならないからな。
……暇になるなら、本の一冊でも持ってくれば良かったかもしれないな。
「時間になりましたので、説明に入ります。これよりAクラス並びにCクラスによる森への遠征を行います。準備は宜しいですね?」
適当にシャナトリアと会話していると、時間になっていた。
周りには生徒が集まっており、俺達と同じように二人一組になっている。
「現在AクラスとCクラスで二人組になっていると思いますが、出発の前に四人組となって下さい。成績には影響はないですが、しっかりと四人一組で行動するように」
成績には……か。言い方的に裏がありそうだが、団体行動もとれない奴は襲われても文句を言うなって事だろう。
「また既に周知されていると思いますが、昼食は基本的に学園側で用意してありますが、持ち込みは問題ありません。飲み物につきましても、昼食の際に補充できますので、ご安心ください。何か質問のある方はいますか?」
説明も終わりとなる所で、Cクラスの生徒が手を上げて、ハロルドが指名する。
「結局の所森では何するのですか? 一緒に歩く事以外は何も教えて貰えていないのですが?」
「いい質問ですね。このまま話さないままでも良いのですが、皆さんには昼食のある広場まで行った後、森の中で魔物と戦いながら、脱出を目指していただきます」
生徒たちの間でどよめきが起こり、シャナトリアも驚きの声を上げる。
なるほど。そういう事だったか。




