第150話:研究室でお茶会
二十分きっかりでクラブの説明が終わり、クラブについての問題はほぼなくなり、約二時間程時間が余った。
既に巡りたい場所は無く、かと言って帰るわけにもいかない。
「どうやら問題なさそうね。それで、今日はこれからどうするつもり? まだ時間はあるけど?」
自由時間ではあるが、終わった後は一度教室に集まらなければならない。
自由解散でも良いと思うが、何も起きていないか確認する意味もあるのだろう。
クラブの存続の規約の一つに、人数が居なければいけないというものがある。
一応人数が規定を下回ったとしても、四年生が卒業してから半年の猶予があるので、一部のクラブはどうにかして人員を増やしたいと躍起になっている。
横の繋がりがある貴族ならばまだしも、平民だけだったりすると、中々難しい物があるだろう。
リオネリウスがやっていたみたいに買収できるならまだしも、そう簡単ではないだろうし。
時間を潰す方法だが、適当なクラブを回るなんてなれば、再びアーシェリアが勧誘の嵐を受け、機嫌を悪くするだろうし、リディスへのヘイトも高まる。
「考え中です。ストロノフさんは異文化交流クラブを見に行かなくて良いのですか?」
「うん。多分私以外の二人は入るだろうし、里からも何も言われてないから」
「そうですか。アーシェリア様はどこか行きたい場所は?」
「最初はあったけど、今は無いわね。出来る事なら、さっさと帰りたいくらいよ」
まあ王族を除いてアーシェリア程良い人材はいないからな。
権力は勿論の事、家が金持ちなのではなく、アーシェリア個人が金持ちなのだし。
どうにかしてアーシェリアの庇護を受けたい生徒は、それはもう沢山居るだろう。
実際に戦略研究クラブに行くまで大変だったし。
とりあえず全員行きたい場所がないのも分かったし、時間を潰すならばそこに行くのが良いだろう。
「分かりました。それでしたら休憩するのに最適な場所がありますので、ご案内いたします。リディス様。宜しいでしょうか?」
「大丈夫よ。けど、許可は取らなくて良いの?」
「研究スペース以外は自由に使って良いと言われていますので、問題ありません」
こんな時のための、アンリの研究室である。
部室が手に入ればそちらでも休める様に整えるが、今はないのでアンリの研究室が一番良い。
アーシェリアやストロノフは疑問を浮かべているが、行けば分るので、さっさと歩きだす。
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「こ、ここって教師の人達の部屋じゃないんですか? 大丈夫なんですか?」
アンリの研究室に着くと、何も知らないストロノフは怯えた声を出す。
アーシェリアの方は既に大体察しているのか、軽く頷いただけだ。
「許可は貰ってあるので問題ありません。この通り鍵も受け取ってありますから」
クラブの部室は魔法によるロックであり、ファンタジー色が強いが、研究室の方は普通に物理的な鍵である。
予算の都合だろうか?
それとも臨時教師用の部屋なので、アンリの趣味で変えている可能性もある。
「へー。結構信用されているみたいね。Sランクの冒険者どどうやって知り合ったの?」
「詳しくは私も知りませんが、アンリさん達を助けた人がリディス様の名前を出したそうです。リディス様も知らないそうですが、折角なので有意義に使わせていただいています」
カイル達はリディスの訓練を始め、色々と役に立ってくれている。
今となっては、ヨルムの気を引いてくれるデコイにした日が懐かしい。
「それはまた面白いわね」
「詳しく聞きたい場合は、アンリさんにお願いします。皆様、どうぞお座り下さい」
さっさと鍵を開けて、椅子に座らせる。
お湯を沸かす用のコンロはあるが、流石に料理をする為の設備はないので、オーブンとかも設置した方が良いだろうか?
いや、部室が手に入れば、そちらの方が使えるし、別にいらないか。
一応アンリに相談だけして、アンリの判断に任せよう。
あればそれはそれで便利だし。
五人分の紅茶を淹れて、俺は自分用に珈琲を淹れる。
見ていたヨルムは嫌そうな顔をするが、飲ませる気は無いので放置しておく。
窓の外にひょっこりとシルヴィーが現れていたが、これも同じく放置しておく。
ストロノフだけエルフ茶を出してやろうと思ったが、そう言えばあれはエルフもあまり好んで飲まないものだったと思い出し、普通に紅茶にしておいた。
「どうぞ」
「……」
リディスとヨルム以外の視線が集まるなか、自分の珈琲を持って椅子へ座る。
紅茶には例の蜂蜜を入れてあるが、俺のは何時も通りブラックである。
今回はいくつかの豆をブレンドして淹れてみた。
苦いだけ。すっぱいだけ。香りだけ。それらをバランス良くブレンドする事で、味わい深い珈琲を淹れる事が出来る。
無論ブレンド作業はかなり繊細で試行回数が重要となるので、俺一人では流石に面倒となる。
これについてはヨルムも役に立たないのだが、今も外から見ているシルヴィーに試させて、数種類作って貰った。
割りと役に立つ神である。
さて味の方は……中々、悪くないな。
流石毎日珈琲を強請ってくるだけの事はある。
これならば、ニーアさんに渡した分はシルヴィーに任せるのもありだな。
「……香ばしい匂いがするけど、それは何かしら?」
シルヴィーブレンドの珈琲に感心していると、アーシェリアが睨んできた。
「フェニシアリーチェで発売予定の、少し変わったお茶になります。紅茶とは違いとても苦いので、好みは分かれるかと」
「エルフね……ストロノフは知ってるの?」
「いえ、私も初めてで、匂いも嗅いだことが無いもの……かな?」
ニーアさんがどこのエルフに頼んだか、知らないが、時期を考えればどう頑張っても知ることは出来ないだろう。
それに、物が物なので、ニーアさんも情報を隠しているだろうし。
……別に隠す程でもない物なのだが、少し管理の方法が気になるな。
情報を漏らしたエルフは殺すなんて状況になっていなければ良いが……多分シルヴィーが確認しているだろうし、大丈夫だろう。
「そう言われると気になるわね……クルルもそう思わない?」
「気にならないと言われれば嘘になりますね。あのフェニシアリーチェの物と言われますと、尚更です」
「飲みたいのでしたら淹れますが、ヨルムのこの顔を見ても本当に飲みますか?」
ヨルムはそれはもう微妙という言葉が似合う表情をして、甘い紅茶を飲んでいる。
カフェオレにしたり、砂糖を入れたりすれば飲むが、ヨルムは珈琲よりも紅茶派みたいだ。
この世界に無かった飲み物なのだし、シルヴィーみたいにハマる方が稀と見て良いだろう。
「いただくわ。飲み方は紅茶と一緒かしら?」
「私はなにも入れないで飲むのが好きですが、基本はその通りで問題ありません。クルルさんはどうしますか?」
「折角なのでお願いします」
「あっ、じゃあ私も願いしようかな」
クルルとストロノフも飲むそうだが、ヨルムとリディスはうんともすんとも言わない。
ヨルムは分かるが、リディスは珈琲の存在を教えていないので、苦いなんて知らないはずだが……つまらん奴だ。
一杯目を飲み終えたタイミングで、再び珈琲を淹れる。念のためカップの半分に留めておき、砂糖をテーブルの上に置いておく。
「どうぞ。無理でしたら砂糖をお使いください」
「ええ」
三人とも軽く香りを嗅いでから、一口飲む。
ストロノフとアーシェリアはあまり顔に出さないが、クルルは眉にシワが寄っているので、苦さにやられたようだ。
「紅茶のストレートとはまた違った苦さね。確かにハルナの言う通り人を選びそうだわ」
「エルフ茶とはまた違った苦さだけど、飲めないことはないかな」
ストロノフはともかく、アーシェリアは普通に飲めるか。
「エルフが販売するってことは、何か効能があったりするのかしら?」
エルフの販売するものだから、ただの飲み物ではない。
元の世界特有の考えと思っていたが、この世界でもエルフに対しての考えは似ているらしい。
「主に眠気を覚ます効果とストレスの解消。利尿を促す効果と脂肪を燃焼させる効果があるそうです」
「結構色々あるのね。で、副作用は?」
「飲み過ぎによる自律神経の乱れと、僅かながら中毒症状が出る恐れがあります。とは言っても、一日十杯飲んだりしない限りは問題ないそうです」
まあこれらは元の世界でのものなので、この世界の珈琲の効能が一緒とは限らないが、味は一緒だし、飲んだ後の感覚も同じっぽいので同じだろう。
『主成分は大きく変わらないよー。成長率だけは高めてあるけど、世代を重ねて行けば普通になっていくから、ハルナが居なくなってからも問題ないね』
(それは良かった)
「薬も過ぎれば毒になるって事ね。名前はなんて言うのかしら?」
「珈琲と呼びます。紅茶と同じく産地によって味に変化がありますが、その点についてはまだ研究中とか。詳しくは販売を開始してからお聞きして下さい」
「あの……ハルナちゃんって……いえ、やっぱり何でも無いです……」
エルフであるストロノフならば何かしら気付く可能性もあったが、藪を突っつくなんて事はしないか。
どうせ今週末には分かる事だし、自分の目で確かめれば良い事だ。
授業の時間が終わるまでアンリの研究室で時間を潰し、教室へと戻る。
明日は確か……北の森での遠足だったかな?
飯自体は学校側で用意してくれるらしいが、自分で作って持って行く方が良いだろう。
教室に戻ったらハロルドに聞いておくとしよう。




