第146話:見ての通りエルフ
「私は魔法研究クラブの部長をしています……」
次は魔法クラブか……部長は眼鏡を掛けてキリっとした少女だ。
一応活動内容は俺がにやっている事の利益になるかもしれないが、所詮は児戯だ。
オリジナルの魔法がそれなりの間隔で作られているならばまだしも、そんな形跡はゼアーの調べでは見られなかった。
基本は既存の魔法を使い、腕を上げるだけのクラブ。
それならば、アンリと一緒に研究をした方が有意義となるだろう。
オリジナルの魔法を使えるのも居るらしいが、使えない魔法に興味はない。
話の内容は決闘クラブに似ているが、どちらかと言えば魔法の技術で国に貢献しようと言った感じだ。
これだけ食が豊かなのは、魔法があるおかげなのは確かなので間違ってはいない。
個人的には間違った方向へ発展している様な気もするが、時代の流れと思えば分からなくもない。
元の世界では科学が発展中に魔法が参入してきたが、どちらも切っては切れない物だった。
魔法だけが発展しているこの世界ならば、これからも魔法か使える人が、仕事からあぶれることは早々起こらないだろう。
人口が増えればその限りではないだろうが、管理されている以上完全に破綻する事はない。
世界的な破綻が起こりそうになれば、洗い流されるのだろうからな。
まあ、魔法研究クラブと言うよりは、魔法鍛錬クラブと言った所だろう。
決闘クラブのときよりは堅苦しい話が終わり、最後の一人が前に出る。
「異文化交流クラブの部長をしている、エルフリーナだ」
最後の一人は獣人。それも兎の獣人か。
確かゼアーの資料では、固有魔法が使えると書かれていたな。
異文化交流とは文字通りであり、色々な種族や国の文化を学び、リスペクトしていこうってクラブである。
言い換えれば、異文化の事であれば何でもして良いクラブである。
異文化の食事、異文化の暮らし。そして、異文化の戦い方。
要は何でもやれるクラブって感じの所である。
俺的には少しだけありだと思えるクラブであるのだが、ゆっくりとすることは出来なさそうだし、部長はかなり勝気な性格らしいので、俺とは合わない。
学園に居る異種族はエルフを始め、ドワーフや今も話しているエルフリーナの様な獣人。
獣人に限っては、様々な動物の特徴を持っているのが居る。
そう言えば魔界にもかえでの様な存在がいたが、あれは分類上悪魔であり、獣人ではない。
進化の系統が違うと言うのが、一番分かりやすい例えだろう。
後は本当に数人だが、竜人や魚人なんてのも居る。
種族が多いのは神……正確には使徒の存在が大きいのだろう。
ハイエルフと呼ばれる使徒が居る様に、ハイドワーフと呼ばれる使徒が居る。
その下位種族としてエルフとドワーフが居るのだが、実際は全く別の種族だ。
使徒の存在が、似たような種族を生む原因になっているのだと、俺は見ている。
異世界の生態系なんてのを調べるつもりはないが、ニーアさんに種族関係の話を詳しく聞けば、きっと面白い事が聞けるだろう。
シルヴィーが俺の近くにいる以上、情報なんてのは隠すことは出来ないだろうからな。
勿論アクマから聞き出すなんて方法もいつも通りあるが、何でもかんでも頼るのは良くない。
……しかし話を聞いている限り、異文化交流クラブも色々と功績を残しているようだな。
国が違えば常識が変わり、文化が変わるので、その時に異文化交流が集めた知識が役に立つ。
エルフ茶は苦いから気を付けろとか、ドワーフは粗茶の代わりに酒を出すとか。
後は礼儀作法や手順なども留学生達から集めたものがあるらしい。
他国に出向いてまで調べなくても、学園にある資料を読めば最低限知ることが出来るので、重宝されているとのことだ。
ついでに合コン、もう少し格式を上げて言うと、結婚の斡旋等もやっている。
まあ学園から卒業すれば、出会いなんて確実に減るし、婚約者でもいるならばともかく、大抵の平民や貴族は結婚相手を探さなければならない。
この点に関しては男よりも女の方が、深刻だろう。
価値観的に男より女の方が劣っていると考えられているし、手に職と言うのも難しい。
学園に在籍している間にあいてを見つけられなければ、肩身の狭い目に遭う事となる。
まあ政略結婚なんてのもあるし、派閥間のバランスや他国との折衝なんかもあるので、早々あぶれる事は起こらないだろう。
一応一夫多妻制だし。
……軽くエルフ茶に考えたせいか、少し飲みたくなってきたな。
この後に一杯淹れるとしよう。
「……ありがとうございました。この他にも本校には様々なクラブがあり、新入生諸君にもきっと合ったクラブが見つかると思います」
そう言えば一言として伝えられていないが、クラブ側は入部届を出されたからと、絶対に入れなければならないルールは無い。
入部試験で篩いにかけたり、入れられないと突っぱねる事も出来る。
先程紹介にあった三つのクラブも、人気だからと入れるわけではないのだ。
クラブに入れるかどうか。
これも一種のステータスと言えよう。
異文化交流クラブだけは、人間以外なら誰でも入れると明言していたので少し違うが、追い出さないとは言っていなかったので、そういうことだろう。
「それでは、これより自由に見て回る時間になります。分からないことがありましたら、周りの上級生や教師に聞いてください。これで、オリエンテーションは終わりとなります」
教師の挨拶が終わり、一斉に生徒が動き出す。
この波に吞まれると大変だし、端によっておこう。
「あ、あの、良かったら一緒に回りませんか?」
生徒の波から逃げようとした所、ストロノフが呼び止めて来た。
ストロフならば特に見て回らずに、異文化交流クラブに入ると思っていたが、さて……。
居ても居なくてもあまり困らないし、アクマとの約束の件もあるので許可してやるか。
「構いませんよ。ですが、リディス様も一緒になるので、ご了承ください」
「う、うん。大丈夫だよ。元々一度は会わないとだったし」
……そう言えば昼休みの時、リディスにストロフの事を話すのを忘れていたな。
今から念話で教えても良いが、初見の反応楽しむのも良いだろう。
ストロノフを連れて生徒の流れから外れて、少なくなるのを待つ。
そしてリディスとヨルム。おまけにアーシェリアとクルルも一緒に居る。
「あら、その子は誰かしら?」
「Aクラスの同級生になります。見ての通りエルフです」
アーシェリアに見られたストロノフは、蛇に睨まれたカエルの様に固まる。
侯爵ですら怖がっていたところに、まさかの公爵である。
ドンマイと言う他あるまい。
「ふーん。知っていると思うけど、アーシェリア・ペルガモン・シリウスよ。宜しく」
「はい! 私はアラガンの里のストロノフと言います!」
「あら、中々面白そうな子ね。Sクラスに居る方とは大違いだわ」
俺の知らないところで、Sクラスのエルフと何かあったようだな。
笑っているので、デメテルと違いそこまで腹を立ててる訳ではなさそうだが、クルルが微妙な顔をしているので、それなりの事だったのだろう。
「何かあったのですか?」
「人間には興味ないって言ってただけよ。排他的なエルフは結構居ると聞いていたけど、まさかこの目で見られるとは思っても居なかったわ」
「……同族がすみません」
会った当時のリリアの様なエルフが学園になんか来るとは思わなかったが、一体何を考えているのだろうか?
ストロノフは一緒の馬車で来たと言っていたし、決して仲間を嫌っていないのは察することが出来るが、人間嫌いでどうにかなるのか?
ストロノフがアーシェリアに謝るが、アーシェリアはどこ吹く風である。
「気にしなくて良いわ、種族ではなくて個人の問題なんだから、あなたのそれはエルフを貶めているのと同じよ」
「すみません! 気を付けます!」
完全に上下関係が形成されてしまったが、アーシェリアを相手にすれば仕方ない。
「あの子は?」
「見ての通りですね。それと、今週末屋敷に招くので、覚えておいてください」
「……私が出迎える必要はあるかしら?」
「私が個人的に呼ぶので大丈夫です。ついでに次の日は出かけてきますので、カイルさん達ととの訓練をしっかりとやるようにして下さい」
「それって今言うことなの?」
ストロノフがアーシェリアに遊ばれている間に、リディスに今週末の事を教えておく。
本当は昼に教える予定だったが、忘れていたので仕方ない。
「さて、リディス達はどこに行くつもりなの?」
「戦略研究クラブを見に行く予定ですその後は未定ですね」
「あら? 見に行くって事は入る予定なの?」
「いえ、気になっているだけで、入る気は無いです。クラブについては……」
リディスの視線が俺に向けられ、アーシェリアも釣られる。
「リディス様に新しく作って貰う予定となっています。この学園でのリディス様の評価を考えれば、それが一番最適かと」
「確かにリディスを入れてくれるクラブなんて、早々見つからなさそうね。けど、人数は……」
ふと、アーシェリアは此処に残っている人数を数える。
リディスと俺を含めた三人に、アーシェリアとクルル。そしてストロノフ。
仮にストロノフが入らなくても、五人揃っている。
「――なるほど、そういう事ね」
アーシェリアは一度頷き、小さく笑った。




