第143話:人間もエルフも変わらない
最近クッソ忙しいですが、いつの間にかアクマで魔法少女ですのでが明日で一年となりますね。キリの良いところまでは書いていきたいと思っていますが、応援宜しくお願いします。
「あっ、自己紹介がまだだったね。私はアラガンの里のストロノフっていうの」
ふとストロノフが自己紹介をするが、一応教室で自己紹介をしたのを忘れているのだろうか?
それとも、自分の名前なんて憶えられていないと思ったのか……。
「知っていると思いますが、ブロッサム家でメイドをしているハルナです。私の事は呼び捨てで構いません。口調も楽なので結構です」
「えっと、じゃあ私の事も呼び捨てで良いよ。話し方も」
「いえ、私はこれで慣れているだけですので、気にしないで下さい。崩していてこれですので」
崩した口調で話す事なんて、アクマと会うまでほとんどしてこなかったし、今更普通に話すのも正直難しい。
……うん。思い出しても、普通に話していたのは姉が死ぬまで位だろう。
あれ以降親は暗くなったせいか、殆ど話す事は無くなり、友達と呼べる様な奴らも作る事は無かった。
慣れとは恐ろしいものだ。
「そ、そうなんだ……」
「精霊が見えるのでしたら、ストロノフさんは精霊魔法が使えるのですか?」
「……それってリリアさんって人に教えてもらったの?」
「そうですね。実際に見ましたし、どの様な魔法かも教わりました」
精霊魔法は俺が魔法少女の時に使っている魔法に似ているので、使えれば応用するのが楽だったろう。
通常の魔法とは別に使う事も出来るので、その点も良い所だ。
使えなくて困る事はないのだが、惜しいと思わなくもない。
「そのリリアさんって偉い人だったりするの?」
「これ以上は個人情報となるので教える事は出来ません。もしも知りたければ、フェニシアリーチェで訪ねてみる事をお勧めします」
「あのお店の人なんだ……」
エルフなだけあり、ちゃんと店の事を知っているようだな。
俺がアクマから教えてもらったのは、エルフが経営しているお店。
以上だ。
オーナーが使徒であるニーアさんだったり、更に店に勤められるのは、排他的ではないエルフであり、能力も相応の物が求められたりする。
ある意味、選ばれたエルフだけが勤める事が出来るお店なのだ。
ストロノフは確か単純に留学みたいなもので、普通のエルフである。
まあいま知った事だが、精霊魔法を使えるって事は普通のエルフとは言えないと思うが、ゼアーからの資料には書かれていなかった。
流石のゼアーもエルフの里まで行って調べていないだろうし、精霊魔法なんて使わなれない限り、知る方法はない。
魔法の属性とは違い、見ただけでは分からない。
ストロノフが誰かに話したりしていれば別だが、寮暮らしをしているので、まだそこまで話す相手はいなと見て良い。
リリア曰く、精霊魔法はかなり貴重であり、一種のステータスとなる。
何よりも使えると知られていなければ、相手の虚を突く事が出来るので、その点のアドバンテージはかなり大きい。
魔法の打ち合いで拮抗状態になれば、精霊魔法を使える相手には負けになる。
実際にリリアがやってのけたが、この世界で精霊魔法はチート……までは行かないが、SSレア位の価値がある。
「はい。基本的にお店に居るそうですので、行けば会えると思いますよ」
「教えられたらで良いけど、リリアさんって強いの?」
「冒険者で言えば、おそらくA以上はあると思います。私見となりますので、本人がどう思っているかは分かりませんが、大きく外れていないと思います」
一応アンリに一度勝ったが、二度目は無い。
リリアも経験を積めばアンリと良い勝負が出来るようになるだろうが、アンリもまだ強くなるだろう。
再び俺と特訓をすれば追いつけるだろうが、それはリリア次第だろう。
「Aランクって……す、凄いんだね。良かったら、紹介してもらったりって出来ないかな? 私まだ精霊魔法を上手く使えなくて……」
ふむ。これくらい殊勝なストロノフにならば、紹介する程度は構わないが、タダで教えるというのはどうもつまらない。
それに、タダよりも怖い物はないと言うし、これはストロノフのためでもある。
「構いませんよ。その代わりですが、エルフ茶以外で、エルフ固有の料理や食材を教えていいただけませんか?」
「エルフ茶以外で? う~ん? ……木の実のパイなんてどうかな? エルフの里にある木の実で作るんだけど、ほとんど出回っていなかったはずよ」
木の実のパイ…………悪くないな。
木の実は基本的に栄養価が高いのが多い。リンゴやミカンも一応木の実と言えば木の実なのだが、果たしてナッツ等の種実類なのか、ミカンなどの果実類なのか気になる。
どちら系でも、俺としては問題ない。
「それで良いでしょう。放課後と、休日はどちらの方が良いですか?」
「じゃあ次の休日で良い? 木の実のパイなら、寮に材料があるからいつでも教えられるよ?」
一般の寮の部屋にはキッチンは無く、食堂でご飯を食べるのが普通だが、キッチンが備え付けられている部屋もある。
主に王国以外の生徒の為にある部屋であり、ストロノフもその部屋を借りているのだろう。
食事の合う合わないもあるし、宗教で食べる事のできない食材があってもおかしくない。
貴族の家程設備は整っていないだろうが、普通に作る分には問題ないのだろう。
パイが作れるって事は、オーブンもあるのだからな。
学園には五日間登校し、二日間の休みとなっている。
いつでもとストロノフは言うが、学園に慣れ始めてからの方が良いだろう。
つまり、今週の最後。休日前の日が良いだろう。
大丈夫だろうが、リリアに確認を取っておく必要もあるし、木の実のパイの作り方を教えてもらっておいて、駄目でしたなんて言えないからな。
「それでしたら、オリエンテーションの最終日の放課後にお願いします。……宜しければ、ブロッサム家の屋敷に来ていただけるど、次の日にスムーズにリリアさんに会いに行くことが出来ますが、いかがでしょうか?」
寮を教えて貰おうと思ったが、ふとそれでは手間が掛かると思ったので。急遽変更をする。
学園とリリアの居る店は正反対であり、往復するとなるとかなりの距離となる。
屋敷にリリアを呼び、精霊魔法について話し合わせるのも良いのだが、現在屋敷には見張りが二人居る。
俺やリディスが被害を被る分には構わないが、そこにリリアやストロノフを巻き込むのは、流石に駄目だろう。
料理くらいならば疑いを持たれることはないだろうが、精霊魔法については外でやるべきである。
「えっ…………それってハルナちゃんの家に泊まるってこと?」
「私のではなく、ブロッサム家所有の屋敷ですね。主人であるリディス様以外は全員使用人になりますので、気を使う必要はありませんよ」
一応シルヴィーも使用人枠で良いだろうし、ヨルムも同じく使用人枠だ。
中身が何であれ、嘘ではない。
「う、うーん。アインリディスさ……んって侯爵で主席の人でしょ? 大丈夫なの?」
ふむ。この感じだと、リディスの噂を知らないようだな。
まあ他種族だし、流石にエルフの里まで噂を流すのは無理だったのだろう。
それに、流しても広まらないだろうしな。
「気さくな方ですので、安心してください。とは言っても、ほとんど話す事は無いと思いますが」
リディスはボッチ気質であり、自分から誰かに話しかけようなんてしない。
それにリディスの客ではなく、俺の客となるので、リディスは軽く挨拶をする程度だろう。
そう言えば今週末は確か、カイル達が訓練しに来る何とか言っていたし、リディスを連れて行くことは出来ない。
その内リディスにはリリアと戦ってもらい、精霊魔法との戦い方を覚えてもらうとしよう。
今は単純な力量で勝つ事は出来ないだろうが、いい経験となるだろう。
「うーん……本当に大丈夫? 不敬罪とか言われない?」
「留学生であるストロノフさんならば、そこら辺は問題無いかと。王国としても、エルフと事を構えたいなんて思っている人は、いないでしょうから」
どちらかと言えば、エルフの戦力や補給路を使いたいと思っているのが大半だろう。
ついでに、特にクーデターを考えている奴からすれば、ストロノフはかなり有望株だろう。
精霊魔法が使えて、人間に悪感情をそこまで持っていない。
良い標的だ。
あと、ニーアさんの派閥が力を貸す事は無いだろうが、他はそうとも限らないだろうし、エルフと敵対したいと思っている人間は、王国にはいないと言っても過言ではないと思う。
まあ俺は喧嘩を売られたので、即効で買って争ったわけだが。
「なら、お願いしようかな。他のエルフの人の事も気になるし」
「因みに、Bクラスに居るもう一人のエルフの方は良いのですか?」
一年にはエルフ族が三人おり、SクラスからBクラスまで一人ずつ居る。
Sクラスの方は此処に居ないので省くが、Bクラスの奴は今此処に居るので、聞くだけならばタダだろう。
仲間意識がどうなっているのか知らないが、無視するわけにもいくまい。
「う、うーん。学園に来る時は三人一緒だったんだけど、庇護してくれているハイエルフの人が全員別なんだ。それで、敵対しているってわけじゃないんだけど、ちょっと嫌われているみたいで、話しかけても無視されて……」
……まあ派閥争いがあるのは、人間もエルフも変わらんか。




