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第138話:手にあまる生徒

 クルルはハロルドの勝利宣言を聞き、相手に一礼してから俺の方に戻って来る。


 ……が、澄ましている様に見えて少し早足であり、口元が少し緩んでいる。


 その様子をSクラスの生徒達が見ているが、本人は気付いていないようだ。


 つか、SクラスとAクラスで別れている中、俺の所に来られると結構目立つ。


 運が悪い事に、この中で主従関係になっているのはいないらしく、完全に敵対状態と言っても良い状態だ。


 オリエンテーションというよりは、ただの格付け……そうにしか見えんな。


 おそらくジョンの方も、此方と同じ様な状態だろう。


 一部は負けるべくして負けていたが、完全に実力差が出ている。


 これからAクラスの連中が強くなれるかは、本人たちの頑張り次第……となれば良いのだがな。


 貴族の後継ぎに力は必要ないし、強さが全てではない風潮がこの国にはある。


「おめでとうございます。入学試験の時よりもキレのある動きでしたね」

「そう言っていて頂けるとありがたいです。ところで、先程のクッキーは……」

「次はハルナとシャナトリアの模擬戦になりますので、前に出て来て下さい」


 クルルがおねだりをしようとするタイミングで、次の生徒が呼ばれる。


 ヨルムより先になるとは思わなかったが、呼ばれたからには仕方ない。


「授業が終わりましたら、お渡しします。それでは呼ばれましたのでこれで」

「……分かりました」

 

 残念そうにしているクルルをヨルムに任せ、ハロルドの前へと行く。


「武器を選んだら、白線の前で構えて下さい。私が合図をしたら試合開始です」

「分かりました」

「はい!」


 やる気満々なシャナトリアが武器を選びに行ってる間に、先にハロルドの言っていた白線に立つ。


 相手側の距離は大体十メートル位なので、身体強化すればやはり武器の方が優位となりそうだ。


「武器を選ばなくて良いのですか?」

「大丈夫です」


 ハロルドが心配そうに聞いてくるが、既に……というか基本的に常に鎖を展開しているので、準備は出来ている。

 

 シャナトリアが選んだのは無難な剣だが、俺を見る目は先程とは違いあまり良い物ではない。


 舐められている……そう思っているのだろう。


「……そうですか、シャナトリアの準備は良いですか?」

「――はい」

 

 文句は言ってこないか……だが、その分剣を握る手に力が入っている。


 相手が気を抜いていると思うならば、その隙を突けるようにするのが戦いと言うものだ。


 シャナトリアが何をしようと考えているのか、考えなくても分かる。


「それでは……始め!」

「ハァッ!」


 開始と共にシャナトリアは剣を振りかぶり、一息に踏み込んでくる。


 まったく――本当に単純だ。


「くっ! なっ!」

「単純ですね。それで、どうしますか?」


 シャナトリアの後ろの空間から鎖を放ち、両手を剣を振りかぶった状態で縛りあげる。


 何とか剣を振ろうとするが、鎖はびくともしない。


 端から見たらさぞ滑稽な状況だろうが、シャナトリアからしたらたまったものではないだろう。


 腕は動かず、身体も動く事は叶わない。


 目の前に相手が、無防備に身体を曝け出しているというのに、それ以上の状態に自分が陥っているのだ。


 さて、こうなればどう見ても俺の勝ちだろう。

 

「先生」

「……そこまで、勝者ハルナ!」


 ハロルドの声を聞き、シャナトリアの腕から力が抜けたので、鎖を解除する。

 

 鎖が解けて、よろけながらシャナトリアは崩れ落ちそうになるが、何とか膝を着く事はなかった。


 もしも、相手がヨルムやメイド長だった場合、鎖が腕に絡みつく前に、俺が斬られるだろう。


 相手の後ろから射出すれば、どうしてもラグが生まれる。


 ヨルムやメイド長の速度には、流石に追いつくのが難しい。


 まあ普通に前から出せばいいのだが、相手の後ろからやった方が、見栄えが良いのだ。

 

「……負けだな」

「言った通りでしょう。勝てませんよ」


 落ちこんだシャナトリアに一声だけかけて、元の場所まで戻る。


 心なしか避けられるように道を開けられた気がしたが、気にする事ではないだろう。


 戻っている途中で、次はヨルムの名前が呼ばれた。


「程々に頑張りなさい」

「うむ」


 すれ違う時にやり過ぎないように注意をしておき、再び鎖を椅子代わりにして座る。


「何度も見てますが、やはりすごい魔法ですね。何故態々後ろから?」

「縛るならば後ろからの方が、間違いが無いですから。それに、ああなれば誰が見ても勝ちだと分かりますし」

「それは……確かにそうですね。あの体勢で縛られてしまえば、何も出来ませんし、魔法を使う暇もないでしょう。ですが……いえ」


 僅かにどもるものの、クルルはそれ以上何か言う事は無かった。


 ヨルムだが、俺と同じく武器を持たずに試合を開始する。


 ハロルドも何か言いたそうにしているが、結局何も言わずに試合を始める。


 一応武器の中には鉄を仕込んだグローブもあるのだが、それすら使わないのは教師の観点からしたら止めて欲しい所だろう。


 あまり怪我等はしてほしくないだろうし。


「あれは……凄いと言うよりは、良く出来るものですね」

「……あれでも私と同じ、ブロッサム家のメイドですからね。あの程度は出来て当然でしょう」

 

 ヨルムの対戦相手であるAクラスの生徒の武器は槍であり、先程のシャナトリアの様に一気に距離を詰めて突きを放った。


 しかしヨルムは指で矛先を受け止め、そのまま槍を奪い取る。


 これにはハロルドもポカンとしてしまっていたが、ヨルムがAクラスの生徒の首元に槍を突き付けるのを見て、ヨルムの勝利を宣言する。


 こちらのグループで最も成績が良かったのはヨルムであり、その強さを見せつける様な結果だと言えるだろう。


 その強さは学生どころか世界有数なのだが、言わずもがなだろう。


 これでこのグループは一蹴した事になるが、俺やヨルム等の戦いは一回の戦いで五秒も使っていない。

 

 武器を選ぶ時間や、開始までの時間を含めてもほんの数分だ。


「先ずは一周終わりましたが、同じ生徒との戦いはどうでしたでしょうか? 今は人により大きく実力差があるとは思いますが、これからの学び方によっては追い抜く事も可能です」


 チラリと数名の生徒がヨルムだったり俺を見てくるが、残念ながら俺達は年齢から中身まで全部が違うので例外である。


 頑張った所で追いつくどころか、まともに戦う事も無理だ。


 この中でまともに戦う事が出来るかもしれない存在は、今の所おそらくリディスだけだろう。


 アントワネットも気になるところだが、まだまだ情報不足だ。


「勝った方はこの勝利をこれからも繋げられるように努力し、負け方は次は勝てるように努力するようにしましょう」


 ハロルドは新任の教師らしいが、中々真っ当な事を話すな。


 その言葉が正確に生徒へと届けば良いのだが、まだまだ子供には難しい事だろう。


 勝ったら増長し、負けたら意気消沈する。


 熟すよりも、腐る可能性の方が大いにある。


「知っている方も多いと思いますが、三ヶ月後には一年生だけで行われる大会もあります。出場は自由となっていますが、出ることを考えているのでしたら、頑張って下さい。それではこの後は二人ずつ前へ出てきていただき、私と軽く戦っていただきます」


 教師との戦闘か……流れとしては分かるが、大丈夫なのだろうか?


 俺とヨルムの戦いを見た後に戦うことを選ぶのは、流石に心配になる。


 ヨルムはともかく俺は手加減も出来るが…………はてさて……。


「一部の生徒……SクラスのヨルムとAクラスのハルナは、私では手に余りそうなので、今回は省かせてもらいます。それでは先程と同じ順番で二人ずつ準備をしてください」


 見事にハブられたが、危機管理が出来ている大人だと思う事にしよう。


 ここで舐められた行動をされるよりは幾分か良い。


 ハロルドがメイド長と同じくらいの理不尽な存在ならばともかく、流石にあんな存在が何人も居るとは思えない。


 それにあまり筋肉がついているようには見えないので、魔法があるとはいえ戦いが得意……って訳ではないだろう。


「どうする?」

「リディス様達の方でも見学するとしましょう。それ位は許してくれる事でしょうから」


 此方はサクサクと進んだが、少し遠くで模擬戦をしているジョン側はまだ終わっていない。


 ハロルド対生徒の戦いは既に始まり、俺達を気にする余裕は無さそうなので、一応クルルに一言伝えてから、ジョン達がいる方へと移動を開始した。


 

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― 新着の感想 ―
自分でも手に負えないと即座に判断できるハロルドさんはなかなかにやり手なのかもしれない。 しかし、ジャナトリア君は今回の件で折れるどころか根性だけで何回も食いついてきそうな感が凄いですね。
ブロッサム家のメイドなら当然です! メイド長の強さが理不尽なレベルだからねぇ。 そもそも、メイド長は王家から派遣された貴族家の監視役なのだし。
「これからの努力次第で追い抜くことも可能!」と説いた後に「うん、アレは自分でも無理!」と言わざるおえないハロルド先生の気持ちも考えてあげて?
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